第30話 1-30 更にお替りもう一丁
黒の基調で揃えた帽子も、なかなか格好のいい、なんていうか地球の特殊部隊が使う物のような奴が装束とセットになっていた。
迷彩ジャングルハットとか普通のスワットが被るようなキャップじゃなくて、いわゆるエクスペンダブルズ風っていうのか?
ああいう格好のいい、深いベレー帽みたいな感じの奴だった。
ブラックベレーって感じの奴だな。
これは俺も凄く気に入った。
元々黒髪黒目なんだから、黒基調の装束とも相まって、やはりこういう物がいい。
服のあれこれの準備は終えて、俺は更にもう一つ音楽のリクエストを追加してみた。
「ほらよ、お替りだぜ」
「おい、勘弁しろよ。
今までの奴もまだ練習しないといけないんだからな」
「まあ、こいつはいざとなったら奥の手を出すから、一応やるだけやっておいてくれ。
こいつは割とはっきりとした感じの音楽だから覚えやすいと思う。
演奏もまだ楽な方だろう」
そこで我らの主が、新種目のダンスらしき物に興味を示したようだった。
「ねえ、ホムラ。
今度はどんなダンス?」
「これはね、みんなで楽しく踊るものなんですよ。
どうやるかというとですね……」
「わあ、それって楽しそう~。
そうなると後は」
そう言ってから彼女はキャセル達の方を見た。
「わーった、やります。
やりますから~」
こうして、本日もエリーセル皇女護衛隊は音楽の練習に余念がないのだった。
一方、騎士として最前線に立たねばならない俺は『隠し芸』の練習に勤しんでいた。
これじゃまるで新春なんとか大会の準備のようだ。
しかも参加者は芸能人どころか異世界の皇族やその使用人ばっかりみたいだし。
本当はダンスなんて前座みたいなもので、俺の能力の御披露目みたいなものなのだ。
まあ気楽に行くか。
なんといっても話題の焦点は俺の能力なのだろうから、それに因んだ芸をやらねばなあ。
芸の道は一日にしてならず、などと言っている場合じゃない。
明日の夕方開催なのだから、もう待ったなしなのだ。
俺はスキルの開発も兼ねて、あれこれと技というか芸というか、そういう物の開発を半分楽しみながら頑張っていた。
姫様はもう楽しくて仕方がないらしくて、俺の方に来たり、あいつらの方へいったりと忙しい。
我が主は案外とまだかなり子供っぽいところを残してらしゃる。
以前はもっと大人っぽい印象だったのだが、どうやらあれは余所行きの顔だったらしい。
ここは身分が高い割には、そう厳しい事を言う家じゃなさそうだしな。
こういう性格だから、あの元乳母さんを失った痛手は外野が思うよりも大きいのかもしれない。
まあ、このデコボコ音楽隊とピエロを演じる予定の俺と一緒なら、彼女も少しは気が紛れるだろう。
ピエロっていう役は、そのサーカスで最強の役者が演じるのだから、やり甲斐はあるぜ。
勝負だ、他の騎士達よ。
こっちは駆け出しもいいところなので失う物など初めから何もない。
そっちは無様な真似を晒したら体面に関わるからマズイもんね。
もし俺に敵対してくる奴がいるとしたら、それは他の皇女様なんかの騎士の可能性も高いのだ。
そして、翌日の昼過ぎにようやく支度は整った。
お昼は簡単なスナック・ランチで済ませ、おやつのフレンチトーストと紅茶をいただいてから、俺達は出立の準備を整えた。
うちは皇女の中でも末っ子の第三皇女なのだから、会場へ早めに行かないといけないらしい。
最後の辺は主催者である第一皇女と皇帝夫妻が入場する。
主催者のくせに最後にならないと出ないなんて、日本ならば幹事としては失格物だが、まあここでは仕方があるまい。
そして他の連中が姫様を差し置いて、俺の格好の最終チェックに余念がない。
まあ何しろ今日一番の見世物というか出し物は俺なんだからな。
姫様なんて、御支度なんか手慣れたもんだ。
侍女がちゃんと世話して見ているし、本日はダンスするのでラフなパーティドレスなのだ。
もちろん、まだ子供なのでセクシー系ではなく可愛い系の奴だ。
騎士である俺の着る黒の基調に合わせるというか対比させるような感じで、彼女のドレスが白を基調として、ふわふわスカートはピンクの布地を織り込んだものだ。
その辺りはまだ少女らしさを強調する演出だ。
こういうのは成人したらやってはいけないものらしい。
だから逆に子供の内はそういう感じにしたがる令嬢も多いようだ。
この帝国は割と考え方がゆったりしているようなので、そういった部分も自由な感じだ。
帝国なんて言っている割には珍しい気風だ。
そういう事には、今は帝国が国土の拡張路線を取っていないのもかなり影響しているようだ。
「さ、みんな出陣だぜ。異世界の落ち人騎士の華麗なるデビューと洒落込もうじゃないか」
「うぇーい」
「おおー……」
「ふう……」
あ、みんな返事が死んでる。
ちょっといろいろと盛り込み過ぎちゃったかなあ。
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