第29話 1-29 馬子にもなんとか
翌日も練習していて、連中もかなり様になっていたが、昼前に俺の服が届いた。
「ひゅう、こいつはまた」
それは確かに俺の騎士装束なのだろうがねえ。
「これはまたゴージャス、その一言だな。
いいのか、騎士なんていう一介の従者がこんな豪奢な物を着ていて」
そいつは、まるで日本の昔の皇太子様とか、どこぞの皇帝や王子様あたりなんかが着る儀礼的な装束のような御大層な代物だった。
だが、やたらとじゃらじゃらした装飾が過多なんだよね。
これで重装歩兵相手にハリウッドスターばりのアクションをやるのは少しキツイな。
なんていうか、戦闘そのものではなくて、何かに引っかかって裾が解れないかとか汚れないかとか気にしながらというのがな。
特に完全に黒を基調とした服なので汚れるときつい。
一応、汚れについては浄化の魔法は覚えたので少しくらいなら大丈夫なんだけれど。
だがキャセルは、ちっちっちと言いながら人差し指を顔の前で左右に振った。
こういう仕草って、どこの世界でも一緒なんだな。
「ちっ」は舌を鳴らす音だから。
へたをすると、この宇宙のどこかにいるかもしれないヒューマノイドタイプの宇宙人だってやりそうな代物だ。
「馬鹿だな、ホムラ。
騎士なんて者は、皇女にとっては他の御令嬢に見せびらかすための玩具でもあるんだぜ。
絶対に煌びやかでなくちゃいけないのだ」
「そういうもんなのか?」
「ああ、特に本来ならば騎士を持てない年齢のはずの姫様が、あの襲撃を受けたせいで、強大な敵から自分を救った英雄である伝説の落ち人の騎士を持つ。
これは宮殿では前代未聞の大事件として、御令嬢様方の間では今最高にホットなネタなんだからな」
「うわあ、注目の的じゃねえか。
晒し者もいいところだな」
「まあ、そう考えるのならば、あの方が放っておくわけもないというのも頷ける話だな」
「はあ、そういう事だったのか……」
まあいいのだけれど。
まあ騎士としては我が姫君に恥をかかせないよう頑張るとしますか。
身内の集まりだからって、皇帝家ともなれば味方ばかりとは限るまい。
ここはまだ良さげだけれど、地球の王族相当の人間だと親兄弟間での殺し合いなんてデフォだからな。
むしろ、そこまでやっていない連中も、その前にメディアなどで叩き合いの喧嘩なんかしているだろうし。
この世界にSNSなんかあったら、俺と姫様って物凄い事になっていそう。
でも俺の画像が載っただけで、それを表示したらスマホとかが火を噴きそうなくらい、俺ってヤバイ人間なんだしなあ。
今ならそれくらいのありえないような電磁干渉を実際に引き起こせそうな気がする。
今では能力も応用できる範囲が凄く広くなって、日々目から鱗状態なのだ。
「とりあえず早く着てみろ。
万が一、直しが必要な部位でもあったら事だ」
「へーい」
俺は、俺の着替え用に用意してくれた
うん、騎士の服だけあって、シンプルに手早く着られるようになっているな。
感覚的に言うと、百均なんかで売っているらしい、頭から被って首に巻くだけでいい葬式用の簡易式のネクタイなんかが一番近いイメージなのかもしれん。
別にあそこまでワンタッチで簡素ではないのだが。
そして何よりも動きやすい。
俺は軽く体を動かしてみたが、少なくとも俺の手足胴体の可動部位の動きを一切邪魔しない。
首回りの自由さなど手放しで褒めたいレベルの出来だった。
俺は振り返りながらの得意の電撃アクションの態勢を取ってみたが、素早く発射態勢に移れた。
「へー、こいつはすげえや」
「あ、ちょっと大人しくしていろ。
チェックしてやるから」
そして六人、いや注文主とその侍女も含めて八人がかりで厳重チェックしてくれたが問題ないようだった。
「うむ、さすがは名門ベルンストス商会の仕事だけの事はある」
「うちの隊長も、ここを使っているもんね」
「なるほど。ある程度の地位にある人物の従者なんかも、こういう見栄えが必要な衣装は、そこで作らないと誹られるという訳だな」
「当たりー。
予備も届いているから、そっちもチェックするので着替えろ」
「へーい。
そういや皺とかが出来たらどうするの。
アイロンとかあるのか?」
「アイロンってなんだ」
「衣服のしわ伸ばし用の魔道具はないのかよ。
案外、まだどこかの遺跡に眠っているとかな」
「そういう物は洗う時に丁寧に伸ばし、またどうしても皺が残る場合には何か重い物を上に乗せて一晩置くのだ。
寝床の布団の下なんかもよく使われるな」
そうだったか。
俺の家もアイロンを使うと俺のせいで火を噴く危険性があるので、その手は使っていたな。
アイロンは普通に使っていても熱を出すものなので、俺のせいで何かあったら洒落にならねえ。
我が家はズボンプレッサーさえも使えないくらいだったし。
まあ大事なものは皆クリーニング店行きだった。
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