第35話 1-35 一応はちゃんとダンスもやってみる
そして会場はだだっ広い、サロンというよりも完全なダンスフロアであった。
そして、またロープで遊ぼうとしていた第三皇子様が女騎士の放つ当て身の一撃で倒され、ずるずると引き摺っていかれた。
どうやら普通の格好に着替えさせられるらしい。
まだ服を着ていなかったのか。
「ところで、ホムラ。
あんた、こっちのダンスは出来るの?」
「出来ないからオリジナルでやる予定だったんだが、あんたが日本出身なんじゃなあ。
新鮮味も薄いだろうから、なんかやる気が失せた」
「まあまあ、そう言わんと。
うちの可愛いエリーセルたんのダンス見せておくれよー。
うーん、今日のドレスも最高に可愛いわあ」
なんか急に口調が砕けて親父臭くなってきた。
さては、これがこの女の地なんだな。
「ちっ、この変態め。
じゃあ、ちょっとだけやるか。
皇帝ご夫妻も見ていらっしゃる事だし、一応は姫君と騎士のダンスの御披露目はやらんとなあ。
今回は俺達が主賓なんだよね」
「イエース」
俺は合図して、うちの音楽隊に準備をさせた。
皇帝ご一家は興味深そうにその様子を見ている。
俺は主の姫君と共に真ん中というか、フロアの一角に陣取った。
ここは多分、宮殿にて大規模な舞踏会を演じる大舞踏会場なのだ。
だから、今日はその一角のみが使われる。
緊張した面持ちの連中は、些か派手なミュージックを奏で始めた。
「おっと、こいつはー」
なんか嬉しそうな変態皇女の声がする。
そして俺達はタンゴを踊り出した。
こいつは聞くからに楽しいリズムだろ。
そういう理由だけで選んだと言っても過言ではない。
まだ少女である我が主にはぴったりだと思ったのさ。
思わず体が動いてしまうようなリズム。
タンゴって、あのダカダカダカっと速足で横に歩く独特の足運びが面白い。
あと、やたらとクルクル回るし。
あれ以上の代物は単独ダンスのフラメンコ、あるいはベリーダンスくらいしかないが、それは騎士と姫が一緒に踊るにはまったく意味がない。
受けを狙うのならコサックダンスなのだが、あれを姫君にやらせるのはさすがにないな。
あれは警備隊にやらせればよかったなあ。
みんなで余興としてやるのならリンボー君の出番なのだが。
バックでタンゴの演奏をしている俄か音楽隊の連中は、それはもう必死な様子なのだが。
上手い下手は二の次、楽しければいい。
そういう趣旨で選んだ曲なのだ。
ここに、はっきりした楽譜があるわけではない、なんというか俺がうろ覚えの『タンゴ調の音楽』で曲のように繋いだだけなのだ。
後で、俺の軽く倍以上は日本で生きていたらしい女に、リズムを提供させよう。
他にもあれこれ覚えている分があるかもしれない。
音楽以外にも何か記憶にあれば差し出させる所存であった。
姫様は俺につられるようにして楽しそうに踊り出した。
これも正式なタンゴのダンスではなく、なんとなくリズムで踊っているだけなのだが、それでも結構楽しいもんだ。
あのペアで合わせた腕をピシっと伸ばしただけでもタンゴっぽさは出る。
ちょっとリーチが合わないので俺が腕を曲げているから今一つだけどな。
俺は身長176センチとそれなりに背は高くて、それに見合うだけ手足の長さもそれなりにあるので、さすがにまだ成人していない比較的小柄なエリーセルと踊ると長さが少し合わない部分もある。
長身のグラッセル皇女は、なんと父親を誘いに行って踊り出した。
まあ踊り自体は結構適当らしい。
だが父親の方も娘に誘われて楽しそうに踊っている。
なんとなく様になっている様子は二人ともさすがだな。
そういえば、こいつの騎士を見ていない。
騎士杯とか抜かしておいて、何故こいつの騎士だけいないのか。
こいつなら絶対に子分に凄い騎士を連れていそうなのだが。
きっとオタク的な趣味に走った奴なのに違いない。
一通りタンゴを楽しんだら、お次はお楽しみのアレだ。
いわゆる『ゴーゴー・ダンス』だ。
なんというか、いろいろな踊り方がある。
女性のプロダンサーのような方を除けば、正直に言って『適当』に踊っているだけに近い。
まさにこの点において、この異世界で採用されたといっても過言ではない。
それと、同じ音楽を繰り返し使ってもそう違和感ないはずだし。
元々、ゴーゴーという音楽のジャンル自体がそういうものだったように思うし。
要は、うちの姫君のために採用したものだ。
子供でも、手足をぶんぶん振り回して楽しく踊れそうだったので。
音楽もそれっぽい感じの奴で適当にやれそうだったしね。
昭和生まれの親が昔のネットの映像を見せてくれたが、よくわからないものだった。
適当に踊るディスコダンスなども似たようなものだったらしいが、ゴーゴー・ダンスの方が動きも激しい気がする。
モンキーダンスのような感じに踊ったり、中国舞踊が混じったような動きをしていたり、首や手の動きをピシっと決めるようにはっきりした感じの動きを見せたりと様々だ。
少なくとも映像で見る限りは同じダンスが二つとないくらい自由な感じだ。
一説によると、二本足で立つのが得意なトイプードルあたりが上手に踊るものらしい。
現代日本では一般の人は踊らないと思うので、女性ダンサーの方がダンスパフォーマンスのイベントなどで踊るくらいだと思う。
昔は『ゴーゴー喫茶』などという物があって、若い人達が男女共、割と普通の格好で踊っていたらしい。
もうかれこれ半世紀以上前の話らしいのだが。
米軍の慰安施設的な感じで外国のゴーゴーバーなどの風俗産業みたいな場所で用いられる場合もあって、身分の高い人にはあまり相応しくないダンスかなどとも思ったのだが、もう一緒になって見事に踊ってらっしゃる第一皇女様がいた。
なんか動きが激しいな、おい。本来ならもっと活動的な格好で踊る物で、皇族がドレスを着て踊るようなものではないのだが。
もっとも彼女は未だにセクシーレオタタードのままだったので、最新のゴーゴー・ダンスの方向としては少なくともドレスよりは正しいファッションに近いのだが。
最近はストリップでなくてもパフォーマーとしてセクシーな、レースクイーンのような衣装で、パキっとした感じに踊るものらしい。
この人なら、そのうちにポールダンスまで取り入れてやりそう。
「うーん、どうせなら専用の衣装を作ってみるか。
思いっきりセクシーな奴で!
転生前ならいざ知らず、今なら自分が着て踊ってしまってもイケルはず!」
そんな不穏な事を言ってらっしゃる第一皇女グラッセル様がいた。
まあいいんだけれど。
他の人も初めは驚いていたようだったが、主催者の皇女と主賓である主従コンビの両方が踊っているので、いつの間にか騎士も含めて全員が一緒に踊っていた。
真っ先に来たのが第三皇子サンボーイ様だ。
そして第一皇女様がいつまで経っても踊り止まないし、こいつは曲のテンポが非常に速いので、演奏しているうちの奴らがそろそろ限界かな~。
もう物凄い顔をして演っていた!
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