第23話 1-23 魔法なのか魔法じゃないのかそれが問題、いや微妙だ

 そして麻痺の魔法にも、どうやら『電撃特性』が反応しているようだった。


 あと、何故か相手に精神攻撃を加える闇特性の幻術や隷属の魔法などの適性があった。


 闇魔法ねえ。

 中二病患者なら喜ぶんだろうけど、生憎ともう高校生(通信制)なんで。


 変わったものでは遠話の特性があった。

 これもきっと俺の場合は、少し魔法とは違うのだと思うが便利なもののようだ。


 他に光系統となる回復や支援系付与などの適性はない。

 水・氷・土・風などの特性はない。


「あんまりいいものが無いんだなあ。

 もっといろいろあるかと思っていたのに」


「あなたの場合は、元からの適性が割とはっきりしています。

 あまり種類がない方がいいのですよ。

 私のように器用貧乏になりますから。

 では、あなたに祝福を」


 ディクトリウスはそう言ってから俺の前に立ち、右手を俺の頭の上に載せるような感じで目を瞑り、何事かを呟いた。


 すると、何か今まで閉じていた体の中の通路のようなものが開くような不思議な感じがした。


 あるいは体に無数の穴が空いて、毛穴単位で何かが貫通したような不思議な感じがする。


 次に他の魔法が使えない人間でも使えるようにする本格的なスクロールを使用してみる。


 使えるかどうかを見るために、ディクトリウスはさっき調べた適性のない魔法をわざと選んだ。


「あれ、何も起きないな」

「うーん、やはりあなたの場合は他の人と少し違うようですね」


 やはり俺の場合は適性のある魔法でないと上手く使えないみたいだし、しかも火や雷はなんと今まで通りの物が出るだけだった。


 ええい、やっぱりこれ全然魔法じゃないや!


 だが、ディクトリウスの祝福を受けたせいなのか、元から持っていた能力も威力は凄く上がった気はするのだが。


 いつもの感じで、指先にお試しに小さく作ったつもりの電光が、まさにそこから溢れんばかりに電光を強烈に発光させていた。


「うーん、何故だろう……まったく魔法が使えていない。

 魔法の適性はあったし、確かに威力は上がっているんだけど、これはいつもの俺の能力そのものだよ」


「それは、もしかすると『もう既に魔法が使えているから』ではないのではないでしょうか」


「えー、これって別に魔法じゃないのですが」


「そうなのかもしれませんが、スクロールが反応しているという事は、元から備わっていた能力が半ば魔法化した上で、マナを動力として強力に使える形になっているという事なのでは。


 やはり、あなたは落ち人なのです。

 普通の人じゃないから我々にもなんともいえませんね」


 麻痺なども微妙だった。

 神殿が捕まえてあった害獣のウサギや猪で試してみたら使えるようなのだが、これも練習すれば電撃の応用でできてしまうはずなので魔法じゃないのかも。


 そして問題の闇系統の魔法についても試してみた。


 あまり害のなさそうな遠話のスクロールを使用して離れた場所からディクトリウスと試したのだが、凄くはっきりと頭の中に響いて驚く。


「とりあえず、今のように会話するみたいに話すのは相手も遠話を使える場合のみです。


 今は私とだけですね。

 この先は交信できる相手も増える事でしょう。


 これはなかなか持っている人がいない便利な能力なので精進する事をお勧めしますね」


 次に隷属の力を試す。

 これは人間にやたらと使うと怖い魔法だから慎重に扱った。


 よく練習に使われるのが、やはり動物相手らしい。


 そしてディクトリウスの話では魔物相手にも使えるもので、伝説では落ち人が魔物相手に使ったといわれているようだ。


「いかにも落ち人らしい能力適性だなあ」


「これも神殿の動物で試してみましょう。

 まずはもう一度遠話から」


 要は、きっと俺の場合はただのテレパシーなんだな。


 おっと、凄く可愛い中型犬が実験台に連れてこられたので、じっとそいつを見つめて「チンチン」を頭の中で思い浮かべる。


 賢そうな感じのその犬は、俺の頭の中の通りに見事なチンチンの芸をやってみせてくれた。


 かわええ!

 品種改良されまくった地球にはいないような素朴な犬種だった。


 そして不思議がったディクトリウスが訊ねてくる。

「今の犬の踊りは何なのです?」


「ああ、今のポーズは落ち人の国でよく仕込む犬の芸なのです。

 可愛いでしょう?」


「はは、そうですね。

 では続けてみましょうか」


 そして他にも彼は見事に「伏せ」「お手」などの定番の芸を無難にこなし、他に仰向けに寝転がらせるのもやらせてみた。


 よしよし、ちゃんと出来たね。

 ご褒美にたくさんお腹をもふってやった。


 気持ちよさそう。

 今はこんな事をしても大丈夫なのだ。


 前はワンコですら俺の静電気に反応して『毛を逆立てて』歯をむいていた。


 いやそれは多分俺のせいで物理的にそうなってしまっていたようなのだが。

 きっと、それは犬にとってもかなり不快だったものに違いない。


 今は厄介な静電気の能力も魔法化してしまったらしいので、やたらと発動せず、犬の生毛皮を撫でていても平気だった。


 日本にいた頃に、もしこれくらい力を制御できていたら、諸々ああいう事にはなっていなかったのであろうか。


 そう考えると切なくなってしまうので、もう考えるのは止めにした。


 どの道、向こうの世界には魔法などないのだから。


 そして隷属を試す。

 それから少し複雑で難しい事をやらせてみた。


 立ち上がり、片脚でちょんちょんと歩かせて。

 今度は交互に前足を上げさせる。

 そして走って華麗にジャンプ。

 そして最後はお座りで決めポーズ。


 うーん、初めてなのに全部ちゃんとできましたね。

 偉い子だなあ、よしよし。


 俺もこのスキルは一回使ったら覚えたみたい。

 でもこれも多分魔法じゃない。


 ただの『テレパシーとヒュプノ能力』だった。

 凄く強そうな力のようだけど。


 いわば俺は魔法のエスパーとでもいうような妙竹林な存在になったらしい。

 なんじゃそれは。


 なんか神殿の祝福っていうものは、地球人の場合には潜在能力のESPのような物が強化されるのではないのだろうか。


 通常の場合、人間はESP体質の人間とPK体質の人間に別れている。

 その場合に、大概の人間がESPの方を強化されるはずだ。


 そしてサイコキネシスなどの系統であるPKが強化された場合はどうなるのか興味は尽きないな。


 通常サイコキネシスには『その人間が持っている力』を越えられないという制約があるはずだ。


 せいぜい五十キロくらいの物体を動かしたり、鉄棒を曲げたりするくらいが精々のポルターガイスト程度の能力に過ぎないのだが、その大前提が崩れたら一体どうなるのだろうか。


 この世界でマナを集めまくって発揮されるPKパワーの発露。

 そんなものは想像するだけで恐ろしい。


 きっと山をも動かすような、魔王のような化け物が生まれるのに違いない。


 自分の場合は特異体質が強化されてしまっていた。

 今回さらに、それが強化された感じだ。


 魔法書を試してみたが、通称生活魔法と呼ばれる神官なら誰でも使える程度のものは習得できたが、やはり本格的な魔法は使えなかった。


 まずは火起こし。

 文字通り、竈などに火を着けるのが似合うようなショボイ感じの火が起きるだけだった。


 はっきり言ってしまって、発火能力者パイロキノたる俺にとってこいつは不要な能力だったのだが、魔法らしき物が使えたのだから俺としては非常に満足だった。


 まあいい。

 へたをすると俺の炎は火力が強すぎて、薪が一瞬にして燃え尽きてしまいそうだし。


 水出し。

 これも何かの折には助かりそう……かな。


 これも、ちょっとコップに水を満たす程度のものだ。

 だが、この世界を旅する時には案外と便利なのかもしれない。


 それが砂漠横断だったら、これが有る無しで生死を分かつ命綱になりそう~。

 人間オアシスって呼ばれちゃうかもね。


 浄化。

 軽く体や部屋などを綺麗にできるものだが、風呂がないためこれは一番役に立つ。


 まあ生活魔法としては、このくらいだった。


 他には若干の隠密。

 なんというか柱の陰に隠れた場合に少し見つかりにくくなるみたいな、ないよりはマシな程度の凄く微妙な低級魔法だ。


 もしかしたら家政婦さん向けの能力なのか。

 もし、世の中に『賭けかくれんぼ』なんて物があれば有利になるかもな。


 この世界で命懸けのかくれんぼをやる破目になって、賭けの対象として命をベットする事にならなければいいのだが。


 そういう時に備えて少し練習しておこうかな。

 習熟すると少しは性能が上がるかも。


 方位探索。

 単にコンパス代わりの魔法なので一見便利に見えるのだが、実は自分の電磁スキルで疑似的に高性能なコンパスは作れるので、これも実は微妙な魔法だった。


 どうせなら敵を索敵してくれるような魔法だったらよかったのに。


 残念ながら、一応は努力をしたのだが本格的な魔法のような物は習得できなかったようだ。


 だがいろいろと有意義な内容だった。

 自分の能力について理解が深まっただけでも素晴らしい。


 潜在的な力も強化してくれたし。


 さあ帰ろうか。

 あれ、なんか忘れているような気がする。

 そうだ、あの馬鹿女だ!


 キャセルの奴は、とうとう俺の家に来なかったらしい。


 ジェストレアスはずっと俺の家で勉強しながらお留守番をしていたようで、俺を送りがてら、うちへ寄ったアントニウスがそのまま一緒に連れて帰った。


 特製御飯とおやつは美味しかったようで、少し幸せそうな顔をしていた。


 凄くしっかりした子だけれど、まだ十二歳だものな。


 それにしても何やっているんだ、キャセルの奴。

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