第22話 1-22 魔法の適性?
「あと神殿には魔法による『祝福』を与える業務もあるんだ。
これは人間の持つ潜在的な能力の解放を授けるものでね。
ただし」
そこでディクトリウスは少し苦笑いを浮かべた。
なんと、日頃は若い女性からの需要が多いそうなのだ。
主に彼のところへやってくる人達が。
それは貴族の子女がメインの顧客で、お布施が凄くて断れないものらしい。
受付が勝手に仕事しちゃうみたいだ。
おまけに何故か、彼の場合のみ指名料まで取っているのだと。
ここはホストクラブか!
そして彼ディクトリウスも言う。
「本当は、こういう力はもっと能力の才がある人に使いたいのだがね。
という訳で本日は君のために使おう。
君の魔法の才を引き出すために」
「本当ですか~」
思わず小躍りする俺。
いよいよ、この俺が魔法使いになっちゃうのかな。
「まずは魔法の適性を見よう」
そして彼は魔道具で調べてくれるようだ。
そして、棚から水晶のような球が嵌められた台座を持ち出してきた。
「ホムラ、これに触れてみてくれ。
これは魔法の才があるかどうか、その適性を見るものだ。
光の色やその偏りなどで視るものなのだ」
「よおし、いい物来い!」
そして『気合を入れて』手を翳してみたが、なんと一瞬にして水晶が粉々に砕けてしまった。
「あれっ」
嫌な思い出の数々が頭の中に湧き上がり、終いにそれが脳内でリフレインしていく。
「ほお、これは凄い。
ホムラ、君には魔導具を壊すほどの魔法力があるのか」
高価そうな魔導具が壊れてしまった事など気にも留めずに、彼は妙に感心していたのだが。
いやいや、これは多分違います。
それにしても神殿って、やっぱり金持ちなんだなあ。
「うわー。
これ、まさかの電子機器の一種なんじゃあ。
水晶ってクォーツ時計などに使われているものだし。
確か水晶って圧電特性があって電圧を加えると歪むよね。
気合入れちまったから歪み過ぎたかなあ。
そうだ、俺ってこの世界へ来て力がパワーアップしたんだった。
うわあ、やっちまったー」
どうやら水晶は電磁気の影響で発振するものなので、俺の体質に合わずに砕けてしまうらしい。
「そうか、それなら仕方がないな。
今はスペアの魔道具は無いので、代わりの簡易な道具を用意しよう」
そう言って彼は、事も無げに代わりに持ってきてくれた魔導具である、かなり大きめのコップに水差しから水を並々と注いだ。
「それ、普通の大きなコップにしか見えないのですけど」
「はは、さっきの水晶もそうだけど、付与術師という人達が魔法の術式を専用のスキルのような物で刻んでくれてあるのさ。
その効果は永続するけれども、術式を刻んだ器自体が壊れてしまえば、もちろん使えない」
「す、すいませーん!」
久し振りだな、この特異体質のせいで物を壊して謝るのは。
そして彼はそのコップに入れた水へ手を翳す。
すると、水の中にいくつかの色が浮かび上がり、それが混ざり合うような感じで混ざらない不思議な光景が見られた。
「見ろ、ホムラ。
これがディクトリウスの魔法適性だ。
さっき言ったように、いくつもの適性の魔法が多種類反応している。
次はお前の番だ」
「じゃあ、いきまーす。
今回は気合を内に秘めたままにしておいてっと」
すると瞬時に水が凄く揺れ動いて、色も種類もへったくれもない。
何かが見える前に水が全部凄い勢いで飛び出してしまった。
正確には一気に弾けたといった方がいいか。
激しく全方位に水が飛び散ったので酷い事になっていた。
もちろんその上に被さるようにしていた俺は結構ビショビショになってしまった。
「ありゃあ」
「ホムラ、やはり君の魔力は凄まじいですね。
おそらく、どんな魔導具でも君の魔力量は測れまい。
これだけわかれば十分ですね」
「そんなもんっすかー」
よかった。
今度は高価な魔導具を壊さずに済んで!
このあたり一帯が、びしょびしょだけど。
そして次は適性を見てくれる。
各種の魔法陣を描いたテスト用スクロールという物を出してきてくれた。
あれかな、魔法のリトマス試験紙みたいな感じなのか。
「これは私を中心に、魔法を使える数少ない神官達が協力して描いたものです。
それ以外にも他の神殿から招いた神官や、わざわざ向こうへ出張して描いてもらってきたものなどがあります。
代わりに私達も自分の適性のスクロールを描いてくるのですがね」
「兄貴も出張は多いよな。
俺も人の事は言えないけど」
「これもなかなか種類が揃わないので、作る時はまとめて作るのですよ」
「わあ、苦労しているんですね。本当なら凄く高いんじゃないのですか?」
だが、彼は苦笑して首を振った。
「はは、これはただの適性検査用ですからね、これはお金が取れないのです。
まあ苦労しただけの成果はありますよ。
実際に魔法を習う時には既定の料金が支払われますから。
あれも結構お高いのです」
「神殿は、お金が唸っているわけだなあ」
「ま、そういう事さ」
アントニウスも楽しそうに体を揺すっている。
ああ、身内に神殿の重要人物がいると、いろいろと有意義という事もあるんだ。
あれ、もしかしたら今の職場への就職も?
「その結果、魔法を使えない人もいますが、それはまあ仕方がないですな。
皆さんもそれは諦めるのです。
そもそも、魔法自体が廃れてしまっているので、そうそう使える人はいませんので」
「な、なるほど~」
よかったー、今日は無料で。
「魔法の適性があると、簡単な反応を示します。
一応は魔導具で適性は見ましたので、今度はこの試験紙を用いて、きちんと確認するわけです。
あなたの場合は適性がこれでしか見られませんね」
「すいません、俺のせいです~」
「はは、仕方がないので、少々あてずっぽうで行きますよ。
例えばいいですか?
これは火です。
ちょっと使って見てください。
手を翳して『火魔法を使う』と念じてみてください。
火魔法の適性があれば燃えます」
言われた通りにすると、そのスクロールは激しく『青い炎』で燃えた。
火は一瞬にしてテスト用スクロールが青い炎に包まれてあっという間に燃え尽きてしまった。
「おお、こんな青い炎は見た事がないですね。
力強い炎です。
火魔法は適性あり、と」
そりゃあそうだろうなあ。
俺は発火能力者パイロキノなんだろうから。
「次は雷魔法があれば、お願いしますね」
もう仕方がないから自分からリクエストしてしまった。
段々とオチが見えて来た気がする。
「そうですか、おおこれも。
なかなか素晴らしい稲光がしていますね。
これも適性大と」
雷魔法のスクロールは電光を発し、雷の落ちた木みたいにバラバラになってしまい、そして綺麗に燃え尽きた。
攻撃魔法各種の中で、やはり雷と火に反応がある、という事は。
俺は大きく溜息を一つ吐いた。
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