第24話 1-24 仕事探しは〇〇で
そしてアントニウスによる俺の監視任務は今日がいよいよ最終日だ。
朝から彼が家に来てくれていて、こう言われた。
「今日はどうする。
俺は明日から帝都の外へ出張命令が出ているから、明日はもう付き合えないのだが」
それを聞いて俺も大いに迷ったのだが、俺の仕事探しを手伝ってもらう事にした。
アントニウスの家に遊びに行ったり魔法などに浮かれていたりして、すっかり仕事を探す事を忘れていた。
とりあえず、仕事なんかはどこで探せばいいかという事までを見つけておきたいのだ。
ディクトリウスは、どうしても仕事がなかったら神殿においでと言ってくれていた。
スクロールもお金になるのだろうが、俺の持っている能力は純然たる魔法じゃないはずだから、それをスクロールにしても売り物になるのかどうか非常に怪しい。
なんといっても、俺自身もあのスクロールは真面に使えないくらいなんだから。
スクロールも回復系の魔法が一番売れ筋で、結構いいお金になるらしいのだが、生憎と俺は持っていないようだし。
スクロールを使っても回復魔法は使えないようなので、そういう物は回復薬を持ち歩く他はないが、遺跡の探索なんかに行っていて、そいつが切れたら最後だ。
土魔法も、畑の祝福や土木などもやれる、結構金になりそうな魔法なのだが持っていない。
意外と使い道がない(お金にならない)、戦闘などには役に立ちそうな、元から持っていた能力がスキル化した力? しか持っていないのだ。
それだって今のところは防御がないのだから無理が出来ないし。
俺って単独だと結構駄目駄目じゃないの?
もし遺跡探索に行くのなら、回復魔法持ちと防御魔法持ちの仲間が欲しいな。
あと俺と反対の性質を持った氷魔法の使い手とかもいてくれると心強い。
今、この国は平和らしいので(本当かよ)戦闘系はどの道あまり役には立てられそうもない。
いっそ闇魔法を駆使して、動物を集めてサーカスでもやるか。
そういう訳なので、アントニウスに連れられて街にある仕事の斡旋所へ行ってみたが、やはりいいものはないようだ。
カウンターの親父も笑って首を振っていたし、死後世募集の張り紙を見ても荷運びや店番、皿洗いに掃除夫、夜間の歩哨、料理人などだった。
こういった仕事はあまり給金がよくないし、割と高級な料理人の仕事もあったが、俺には真面な料理はできない。
中には貴族から雇われる仕事もあったが、それはやめておけとアントニウスが言った。
やっぱりか。
だが貴族様にそう言われると説得力があり過ぎて笑えない。
という訳で、現状あまりいい仕事がないようだ。
へたすれば使い捨ての妙な仕事で使い潰される事もあるという。
まだ一般の商人なんかの給金の安い仕事の方が固いらしい。
そういう訳で困っていたのだが、自分の能力を生かせる仕事となるとなあ。
それこそ、貴族の私兵とかの危ない仕事になるからやめろと言われてしまった。
「なあ、冒険者稼業とかってないの」
「冒険者だと。
なんだ、それは?」
どうやらこの世界には冒険者という職業はなかったらしい。
国家諜報の人間が知らないって言ったからなあ。
魔法に引き続いて、この世界にまた一つ失望した。
そういや魔物がいるっていう話なんかは、ついぞ聞いた事がない。
護衛なんかは傭兵がやるようだし。
ここってなんかこう、異世界というよりも地球のローマ帝国みたいな雰囲気の場所だ。
確かローマ帝国には魔法は無いし、魔物なんかもいなかったよなあ。
どっちかというと、魔物なんかは古代のギリシャ神話の管轄だった。
もっとも、ここにはローマにあったような市民の不満を和らげるための闘技場とかもないしね。
でもローマみたいに素敵な風呂はたくさんあってもよかったのよーと、一人で血の涙を流してみる。
だが、アントニウスが言った。
「魔物か、もしかするといるのかもしれないが。
もっとも、それは太古から存在するという、都市や国家を破壊せしめるような伝説の巨獣の事だがな。
それらは一説によると、魔導具などと同じような古代文明の技術の遺産であったという」
「何それ、怖い。
他に一発当てる商売とかないの?」
「そうだな、お前みたいに武力に極振りの奴が一発当てるとなると古代の遺跡探索なんかはあるが、あれはまだ生きている罠なんかもあって、もっと危険だぞ。
探索を成功させる奴は少ないから、あちこちに未踏の遺跡があっても、ほったらかし状態だ。
あれも山師のする仕事だな。
真っ当な人間のする仕事じゃあない」
「へえ、遺跡ねえ」
「まあ、空振りか死ぬか、大概はどっちかだ。
そしてたまに当てた奴が持ち帰るのが発掘された古代の魔導具なのさ。
あれは高価買い上げだな。
本当にいい物だと帝国がかなり高く買い取ってくれるぞ。
今流通している魔導具達は、そのコピーみたいなものだ。
今の技術では新しく魔導具を作る事はできない。
魔法と一緒で技術が廃れているのさ」
「えー、なんで」
「それは魔導具として必要な術式などを新しく作る事はできないからだ。
研究はされているが、魔法すら廃れている現状ではなかなか難しいようだ。
構造をコピーした道具に読み取った術式を丸写しにするのがせいぜいなのさ」
そうか、もう技術者に魔法のプログラムが書けないんだなあ。
そいつは残念だ。
お風呂の魔導具とかをどこかで作ってほしかったのに。
仕方がないから風呂は自前の魔法、じゃなくて発火能力で沸かすかな。
パイロキネシス能力万歳。
ちょと火力が強烈なんだけど。
「うーん。
やはり神殿で少しバイトするか。
警備隊なんかは駄目かい」
「あれこそ日頃から築いたコネの成果ってもんだ。
あれは一般公募など一切ない」
「そうだ、砂金取りってできないかな」
俺の電磁スキルなら上手に砂金を集められるかもしれない。
これは鉄以外の物にも使える力で、物体の中でもやはり金属にはよく作用するのだ。
比重を上手くコントロール出来れば濡れ手に粟もいいところだ。
「さあ、このあたりじゃ聞かないな。
帝都を流れる大きな川では砂金なんて殆ど採れないらしいぞ。
下流までくると砂金の粒も細かくなっているし、広い川だと散ってしまうだろうしな。
まあ、あれも上流にある山奥の仕事だな」
「さいですか~」
あちこち回って一日かかったが、とうとういい仕事は見つからない。
まあ神殿のバイトをしながら頑張って探してみるのもいいもんだ。
「ありがとう。
もうちょい探してみるわ。
キャセルがそろそろ来てもいい頃なのだがなあ」
「はは、頑張れよ。
まあ使えるコネは使ってみるのが、この帝都でいい仕事を捉まえるコツかな」
「どこの世界も都会は一緒で、世知辛いな~。
じゃアントニウスもお仕事頑張ってくれ」
「ああ、帰ったらまた会おう」
いつの間にか、俺の中でアントニウスとディクトリウスの兄弟は頼れる知己のお兄さんの立ち位置になっていた。
翌日、警備隊にキャセルを訪ねるが、今日は休みだと。
ようやく報告書提出が終了して、自室で死んでいるらしい。
なんて使えない女なんだろう。
本当に使えた事が一度もないぞ。
だが自分の部屋へ帰ったら、皇帝家から来た立派な身なりの使者さんが待ってくれていた。
そして渡してくれた、特別そうな真っ赤な蜜蝋で封をした書状は、なんとエリーセル皇女からの招待状だった。
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