第13話 1-13 皇帝宮探検
俺は、店で着替えさせてもらって、一緒に銀貨一枚で購入した安い手提げ袋に服を押し込んでおいた。
「いやあ、ガイドがいると買い物も進むなあ。
ところで、ここじゃあみんな洗濯とかどうやっているの」
「まあ一般国民の庶民は自分で洗濯しているさ」
「ここには洗濯物を干すところもないのだが」
「ここは宮殿内だから、また別だ。
業者がいて、頼んでおくと翌日には洗濯し終えている。
ここでは洗濯も魔導の機械を使用するのだ。
そいつはここの住人のための福利厚生だから無料サービスになっている」
「すげえな、おい。
ここってクリーニング屋さんがあるんだ!」
「まあ、そのようなサービスはここだけだ。
貴族の家では機械を使うと服が痛むので、逆に選択は手洗いでメイドの仕事になっている。
使用人の服とは値段が違うし、素材も煌びやかな物が多くて傷みやすいのだ」
「な、なるほど。
むしろ手洗いの方が贅沢なのかあ。
確かに高級素材に関しては俺の国でもそうだったような気がする」
俺の特異体質のせいで、我が家は洗濯機なんていい物は使えなかったけどね。
「荷物が邪魔だから一回帰ろうっと」
「まだ宮殿を散策する気か」
呆れたようにアントニウスが言っていたが、そんな事ばっかり言うとアキレウスに改名してやるぞ。
「とりあえずの用は終わったが、見物というか、勝手がよくわからんので案内してくれ」
「まったく図々しい奴だな」
「どうせ、あんたも俺の監視をしなくちゃいけないんだろう。
どうせ行くところは一緒なんだから、そうケチな事を言いなさんな。
皇帝陛下は俺に便宜を図れとの仰せなんでしょ」
「俺達、諜報の部署は特にそういう命令は受けていないのだがな!」
「まあまあ、お仕事お仕事」
ここから部屋までそう遠くない。
さっそく部屋に荷物を置いて身軽になってから、奴に聞いてみた。
「部屋に水場はあって、桶で体は洗えるようになっていたが、風呂ってないの」
「風呂って何だ」
思わず俺はその場でしゃがみこんで頭を抱えた。
「こ、この宮殿に風呂がないんじゃあ、この国には風呂なんてなさそうだな~。
なんてこったあ」
「その風呂とやらがないのは、そんなに頭を抱えるような事なのか?」
「当り前だ。
お前ら貴族って、家じゃどうしているんだよ」
「あー、どうしているって言われてもなあ。
水を張った石の水槽で沐浴するのだが、何か違ったのか」
「水風呂か……そういうのって冬は寒くないの」
「さあ、体を清める時はそういうものだし。
確かに冬は寒がって体を拭くに留める者もいるようだが。
庶民などは、より綺麗にする時などは川などで沐浴するのが普通だな。
だから女性の沐浴の際に覗きをする不届き者などもいるが、あれはすぐにバレて叱られる」
「うーん、川かー」
そういうものって衛生的にどうなのか。
蛭にアメーバ、原虫にウイルスなんかいそうだし。
川上のトイレから直接流されていたらなあ。
川や井戸に大腸菌なんか普通にいそう。
庶民の飲み水はどうなっているのだろう。
魔導であれこれと処理?
「なあ、ここって何か仕事を斡旋してくれるところってないのか」
「お前なあ、この宮殿で働いている人間は大勢いるから、余所者のお前にはピンとこないのかもしれないが、ここで働くためにはいろいろな審査を通らねばならない。
偉い奴のコネなんかで来ている人も多い、いやむしろ大半の人間がそうだと言っても過言ではないのだ。
そのような場所はここにはない。
そういうものも帝都の市中にはあるがな」
「そうだったのか……」
そういや、ここはいやしくも皇帝陛下がおられる宮殿なのだから、おかしな人間は雇えないわな。
いやあ気がつかなかった。
「そうかあ、俺も仕事口を捜さないといけないんだけどなあ。
まあ住むのはここでいいとして、働くのは外か」
「お前。
いいか、本来ここに住んでいいのは宮殿で働いている人間だけなのだからな」
「だって、俺の場合はしょうがないでしょうに」
「明日、キャセルに訊いてみろ。
宮殿内の仕事を捜してくれるかもしれんぞ。
何しろ、あいつはお前が独り立ちしてくれないと、ずっと面倒を見ていなければいかんのだからな」
「そうなるのかね」
「本来なら、あいつがお前の御世話係なのだからな。
今現在、この俺が世話を焼いているのがおかしいのだ。
まあ、俺もお前にそう問題がないようなら、引き上げ命令が出るのだろうが」
「あんたって、普段からずっとこの宮殿にいるの?」
「別にそういう訳でもない。
基本は帝都全体が仕事場だし、帝都外への出張の仕事が入る事もある。
今日はお前の監視任務で、たまたまここにいるだけの事だ」
つまり、この便利そうな男を使えるのは今のうちだけか。
キャセルって何かと面倒見が悪いからなあ。
あいつも隊長から命じられただけだから俺の面倒を見ているだけで、本当は皇女様などの警備が本業なのだ。
部隊の他のメンバーは、デスクワーク中の部隊長に代わって今もあの皇女様についているんじゃないのか。
もしかしたら、キャセルも皇女様の警護をしながら報告書を書いているのかもしれない。
何しろ、あの騒ぎの後なのだから皇女様も自室から出ないようにしてそうだし。
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