蔓延る悪しき刷り込み
ユニーク魔法、闇属性魔法を同時に発現した常盤に手を差し出し、立ち上がらせたアミス。
アミスの魔法を消し去ったあの剣はもうすでに常盤の手元からは消失している。
「大丈夫か? どこか痛みはないか?」
「常盤お兄ちゃん背中思いっきりぶつかってたけど」
「あ、あぁ。大丈夫だよありがとう」
差し出された手を取り徐に立ち上がった彼は、自身の魔法について、そしてアミスが口にした
「なぁ、俺が重要人物ってどういうことだ? さっきお前が口にしてた2つの魔法、あれどっちも弱ぇって思ったんだが」
「オレもそう思っていたし、おそらく基本的には弱いという認識で間違っていないと思う」
辛辣に感想を口にする彼に、常盤は一瞬顔を引き攣らせ、咳払いをしたのち話を戻した。
「ゔゔん。で、そのヘボ魔法がなんの役に立つんだよ? 弱いんだろ?」
「言っただろう、基本的には、と。オレが弱いと言った理由はお前が闇属性だからだ。元々魔法の吸収ができるのに今更魔力の分解ができたところでなんなんだ、とは思った。だがあの分解力、そして魔力を分解という言葉に可能性を感じたんだ」
先程の辛辣な意見とは打って変わり、非常に分かりずらくはっきりと口にしないアミスに常盤は若干眉間に皺を寄せ、少し強めに詰め寄った。
「だ〜か〜らっ! 結局何が重要なんだよ? 勿体ぶらなくていいから早く言ってくれ」
「あぁ、すまない……魔人という種族は人間とは体を構成するものがそもそも違うんだ。オレやカウザの体、これは魔素で構成されているんだ。魔素とは魔力の源、魔力の消滅は魔素の消滅に等しい」
常盤はこの時ヴィクタとの初授業を思い出した。この授業で教わった内容に、『魔力は魔素を吸収することで回復する』というものがあった。それは言い換えるなら体内の魔素を吐き出し周囲の魔力を吸収するとも言える。
「え〜っと、魔人の体は魔素でできていて、俺の魔法は魔力を分解する魔法だろ……え? もしかして」
ようやくアミスの伝えたいことを理解した常盤は目を見開いた。行き着いた答えが元の世界の感覚では考えなれないことだからだ。
「まさかだが、俺の魔法で魔人に触れたら、その体を分解して破壊できる……のか?」
「恐らくな。しかも創成した剣にもその効果は付属されている。これによりリーチも長くのも良い点だ。とは言え勿論、先程の魔法のように一瞬で消せるかといえば未知ではあるが」
「なるほど……あ、そういえばルシェちゃん怪我とかしてない? 結構ギリギリだったと思うんだけど」
遅ればせながらルシェの体を心配する常盤に、彼女はにこやかに答える。
「うん! 常盤お兄ちゃんが守ってくれたから大丈夫だった! どっちかっていうと常盤お兄ちゃんの方が痛そうだったよ」
「ぁ、うん(こんな子供に心配されるとか、恥ずかしいな俺)」
「そんな顔をするな。お前がルシェを助けたのは変わらないんだからさ」
「フォローどうも。とりあえず分解と再構成の有用性を少しは理解できたよ。魔人族特化の魔法ってのはどうにも……って感じだが」
常盤は少し溜息をつきながらアミスに体を向け、片手を差し出した。
「いずれにせよ、2つの魔法を使えるようになったのはアミス、お前のおかげだ。ありがとう!」
「いや、オレとしてもお前に会えてよかったと思うよ。カウザを倒す手段も増えたしな」
差し出された手を強く握ったアミス。すると、その力で常盤は前方へと十文字に踏んだ。そんなフラつく彼をアミスは体で支える。
「おっと……どうした? ふらついているが体調がすぐれないのか?」
「別に体調が悪いわけじゃないんだが、剣を出してから少し調子が悪いんだ。魔力を使いすぎたのかもしれない」
アミスから体を離し軽い会釈をした常盤は、話題を今後のアミスのついてに移した。
「そう言えばこれからどうするんだ? しばらくこの森で隠れるの?」
「いや、ルシェとも約束してな。あの赤髪の騎士と話をしてみることにしたんだ。オレ達はお互い理解しようとしなさすぎた。この復讐の連鎖はオレたちで終わらせないといけない! そのためにはオレが人間の国に行かなければ……」
そう口にしたアミスの体はわずかばかり震えており、やはり人間の国に行くことを体は拒絶しているようだ。
「(そりゃそうだよな、自分の大切なものが根こそぎ奪われた場所だ。嫌じゃないわけがない。俺は魔法を教えてもらった。それに対して俺ができることは──」
自身の大切なものを奪った人間に、なんとか歩よろうとするアミスの姿に、常盤はある1つの選択をする。
「なぁアミス、人間の国に向かうって話だけどさ、数日待てないか?」
「人間の国で何かあるのか? 赤髪の騎士がいないとか」
「いや、勇者の権利フル活用してお前への誤解晴らしておくから、それができたらまたここに呼びに来る。どうだ、悪くはない話だろ?」
唐突な思いがけない提案にしばらく呆然とするアミス。数秒後、その提案を強く跳ね除けた。
「いや待て! そんなこと流石に勇者でも無理がある! お前国にいられなくなるぞ」
「流石に勇者追放したりしないだろ、自分たちで呼んどいて」
「お前楽観的すぎないか……?」
あっけらかんと答える常盤に若干呆れるアミス。そんな彼の前に再び手が差し出された。
「俺を信じて待ってくれるか、やっぱり自分だけでやるか、どうする?」
伸ばされた手を取るか否か考えあぐねたアミスだが、真っ直ぐ見つめられた瞳に根負けし、手を伸ばした。
「その2択はずるいぞ……絶対無理だけはしないでくれ。これだけはお願いだ」
「ああ、こう見えて小心者だからな。いざとなったらすぐ逃げるさ」
このやりとりに嫌な既視感を覚えるアミスだが、今回は勇者。人間側だ。であれば父や母のようにはならないだろう。そう信じるしかなかった。
「そう言えばどうやって帰るんだ? そもそも行きはどうやって来た?」
「あー……行きは送ってもらえたんだけどさ、なんか知らないけど帰っちゃったんだよね、馬車。と言ってもみんなも帰ってるだろうし歩きかな?」
「大丈夫なのかふらついてるに。途中まで送るぞ」
「まじ! 助かるよ」
アミスは常盤を体に抱え、ルシェを背中に乗せた。
「じゃあ行くぞ。しっかり掴まっていろ」
「は〜い!!」
「よろしくお願いしまs ──すぅわっ!」
翼を生やし、低滑空で森を抜けていくアミス。ルシェはテンションマックスで大喜び、対する常盤は口元を押さえていた。
「うわぁ〜〜はや〜〜い!!」
「ちょっと待てはや、気持ち悪くなってきた……」
「ちょっと我慢しろ。あとルシェ! 危ないから両手離さない!」
「きも……ちぅわる……」
こうして馬車が数時間かかった道を、およそ1時間ほどで到着した一行は、人間の国が見える少し手前で立ち止まった。
「オレが送ってやれるのはここまでだ。あとは、頼むぞ」
「ぁ、ぅん」
青ざめさらにふらついた常盤は、憔悴しきった声で返事を返した。
「だ、大丈夫か? ほら、深呼吸しろ」
「スーハーだよ常盤お兄ちゃん!」
「う、うん。知ってるよ」
大きく深呼吸をし数分後ようやく顔の色が戻ってきた常盤は、アミス達に一旦別れの挨拶を告げる。
「ありがとな、送ってくれて。それと改めてだけど魔法もさ」
「気にするな。お前が今からやろうとしていることの方がすごいんだから」
「そうなのかねぇ。ま、限界ギリギリまでは頑張るからさ、応援頼むぜ!」
こうして王宮の方へと歩いて行った常盤。最後に振り返り片手を振り上げた。それにアミスとルシェも振り返した。
こうして常盤の姿が見えなくり、2人は再び元来た道を再び辿った。
「戻るか」
「うん!」
ルシェを背中に乗せ、滑空を始めるアミスは、心の中で不安を呟いた。
(無理だけはするなよ、頼むから死なないでくれ。──それにしても、オレの魔法を吹き飛ばしたあの風は一体なんだったんだ?)
不安と疑問に押しつぶされそうになりながら、まずは常盤の無事を祈りつつ、元の場所へと戻っていった。
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「ったく、常盤が向かったというのは本当なんだろうな」
ヴィクタは腕を組み眉間にシワを寄せながら常盤について心配をしていた。
「霞、常盤は以前から猪突猛進なのか?」
膝を抱え顔を埋めている霞は、辿々しくその問いに答えた。
「積極的にボランティアをするタイプではあったけど、こんな無理で迷惑のかかることをするタイプじゃないです……勇くん、ほんとはどこにいるの?」
目を強く瞑りながら奥歯を噛み締める霞。今にも泣き出しそうな顔を膝に埋めた。
「ゆあちゃん……」
真鍋がそんな霞を励まそうと手を伸ばした瞬間──聴き慣れた男の声が入り口から発された。
「──あ、やっぱり先に戻ってたんですね」
「……勇、君?」
勇者達からすれば勝手に魔王の元へ向かった常盤があっさりとなんの悪びれる様子もなく帰って来たこと。これに真鍋は怒りを覚え常盤に殴り掛からんとする勢いで近づいた。
「おいこら勇……! テメェなんだその態度?」
「あ、海斗。悪いんだが説教なら後で受ける。だからちょっと待っててくれないか?」
「はぁ? お前ゆあちゃんがどんだけ心配してたか──」
我慢が限界に達し、ついに殴りかかろうとしたその瞬間、霞が息を切らしながら真鍋の腕を掴み、振り上げた拳を下ろすように促す。
「待って海斗君! 気持ちは、嬉しいから。でもその前に話聞こ?」
真鍋はしばらく霞と常盤を交互に見つめたが、ついにはため息を吐きながら拳を下ろした。
「わかった。ゆあちゃんがそれで良いならいいわ。勇、お前後で殴るから覚悟はしとけよ」
「事情を聞いて、全面的に俺が悪かったら何回でも殴ってくれ。──でヴィクタさん。帰って来て早々ですけど、お願いがあるんです」
「頼み? 一体何を」
そして、ヴィクタにとって、そして他の勇者達にとっても驚愕の言葉を並べ立てた。
「できるだけ国中の人たち集めて、魔王の誤解を解きたいんですけど」
「……なにを、言っているんだ?」
真正面からなんの意外性もないような表情で告げられたヴィクタは、その後数分口を開けて硬直するのみだった。
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