染み付いた2つの魔法
アミスにユニーク魔法を教わることとなった常盤。まずはユニーク魔法の発動法について学んでいた。
「まずユニーク魔法は、強い意志と高い集中力が必要になってくる。それがなければ発動することはない」
「意志と集中力、ねぇ。集中力は分かるんだが強い意志ってどうやって持つんだ? やっぱり何かと戦った方がいいの?」
常盤は勇者の中で唯一ユニーク魔法が発動出来ているアレックスを思い出した。常盤の中では、どうしても彼が強い意志のある人間医には思えなかった。
「そうだな……意志は何に対して強くなるのか、それはそいつ次第だ。勝ちたい、負けたくない、守りたいと言ったプラスのものから、復讐したい、恨めしい、殺したいなどのマイナスでも強い意志とは言える。だからそいつ次第だ」
「なるほどね……なぁ、事前に魔法を知る方法ってないの?」
「まぁ一応はある。オレしか使えないがな。現状でもオレはお前の魔法が見えている訳だが、聞きたいか? 聞いて落ち込まないか?」
「……落ち込むような魔法なの? もうこの時点で落ち込んでるんだが」
アミスは無言のまま常盤から目を逸らした。
「……考えていても仕方がない。とりあえずオレと戦ってみるか? 何か掴めるかもしれない」
「露骨に進路変更したのは理解したけど了解だ! 頼む!」
こうして常盤とアミスは向かい合い、それぞれ手元に魔法を灯す。アミスは黒い風、常盤は唯一できる闇属性の吸収を用いる。
「俺攻撃手段ないんだが……」
「安心しろ、いずれ攻撃手段は手に入る。その時のために懐に入る練習くらいしておけ」
「お、おう!」
その掛け声とともにアミスは手元の風を不規則に回転させ、相手に向かい撃ち放つ。
「
放たれた突風が周囲の木々を巻き込みながら旋回し、その濁りを増しながら常盤に接近する。
「ちょ、ちょ待て! んなもん止められねぇよ!」
全力で闇魔法を展開する彼だが、この行為はあまり意味がない。何故なら闇は魔法のみを吸収する魔法だからだ。つまり風は吸収できても巻き込まれた木々は勢いそのまま常盤の体を直撃する。
「くっそ……どうすればーー」
もはや直撃は免れないという距離まで接近したその時、目前の地面が流動しだし、2つの巨大な手に変化する。
「
現れた2つの手が濁りきった風、そしてそれが巻き込んだ木々を丸ごと包み込み、押しつぶした。
「す……すげ……!」
「おい何をやっている! 自分の魔法が通用しないのであれば避けろ! それができるくらいのスピードに抑えていただろ?」
そう言われ彼は先程の攻撃を思い出した。すると確かに闇魔法を最大まで展開する時間はあり、それが出来るなら走って逃げられたと確信できた。
「そっか、いざとなれば逃げればいいんだよな」
「そうだ、逃げることは恥じゃない。逃げて命さえあれば新しい人生を歩むことだって出来る。だが、死んでしまっては何も残らないんだ……何も……」
アミスは自国にヴィクタたちが攻め入った日のことを思い出す。農具を持ち無謀にもヴィクタに挑んだ魔人たちは呆気なく1振りで死んでしまった。そんな彼らを間近で見ているアミスは、逃げずに立ち向かうことにある種のトラウマを感じているのだ。
「ぁ、すまない続けよう」
「……あぁ、お願いします!」
アミスは地面に手をつき、足元の地面をうねうねと流動させる。そしてそれを翼の生えたモンスターのように変化させる。
「なっ……ドラゴンかよ!」
「さて、これならどうする? |土塊龍形ドラッコプーパ」
常盤がドラゴンのようと漏らした土塊が鋭い鉤爪を振り上げながら接近する。
「これは魔法……だったら止めれる!」
常盤は再び闇を展開し、振り上げられた鉤爪を受け止める。そしてそれは次第に形を保てず崩壊していった。
「よし! 正解ーー」
「ーー不正解だ」
魔法によって形を保っていた土塊は、闇の吸収によりその形を完全に崩し、分散して常盤に流れていく。多少は軽減されてはいるものの、勢いよく放たれた土塊。多少落とした程度では常盤の体を守るには至らなかった。
「なっ! 飛んできた!」
勢いの止まなかった岩たちが常盤の体に直撃し、彼の体に傷を生んでいく。
「ぐっ……! なんで……」
腕を顔の前に運び、顔面への直撃だけは避けた常盤だが、それでも腕や足、腹部などからは血が流れている。
「覚えておけ常盤。土属性魔法は地面を直接操る魔法だ。ということはつまり闇で吸収しても出来るのは形を崩すことだけで、形成する地面などは無くすことができないんだ」
「つまり、今取るべきだった選択は逃げるか避けながら闇で触れる、とかだったってことだな?」
「そういうことだ。他にも雷属性に真正面から闇をぶつけても、よほど力量に差がなければ貫通してしまう。このように、闇属性は頭を使わないとまともに効力を発揮しない難しい属性なのさ」
基礎と応用、これらが未だ身に付いていない常盤は頭を抱える。いかんせんヴィクタを含めた仲間たちに闇属性はいない。永守も闇ではあるが未だに隠しており誰も認知していない。
そもそも闇属性はそれほど人数がいないこともあり、碌に使い方や注意点などを教わっていないのだ。
「……なぁ、カウザを倒すという目的は分かったが、なんでここまでするんだ? 傷ついてまで強くなりたい理由はなんだ?」
先程の攻撃で身体中傷だらけになっている常盤を見て、アミスは疑問を投げかけた。彼からすれば目の前の男がここまで必死になっている理由がよくわからないのだ。
「なんだ……まぁ端的に言うなら守りたいからかな。俺にも大切がいる。だけどこの世界じゃ力がなければ大切が溢れてしまうかもしれないんだろ? だったら俺は強くなる。大切を全部守れるくらい、みんなの大切を奪おうとするやつを倒せるくらい」
その言葉がアミスの耳に入った瞬間、過去の自分を思い出した。いずれ王となる自分は皆を守れるくらい強くなる。そう決意し父から魔法を教わった日のことを。
「……理想論だな……だがまぁ、わかるよ」
悲しみを孕んだ目で、まるで守ることのできなかった自分を嘲り笑うように苦笑を浮かべたアミスは、1拍深呼吸をし、右手に黒炎を纏った。
「常盤、これで最後だ。これで何もできないようならもう諦めろ。大人しく赤髪の騎士の手伝いでもするんだな」
「最後……分かった」
重心を下げ、真っ直ぐとアミスを視界にとらえた常盤は、これまで以上の集中を見せる。
「想像しろ、この炎はお前の大切を全て奪う炎だ。触れれば肉を焼き、骨を焦がす。守りたいと本気で思うのなら、この炎をかき消して見せろ!! ーー
触れれば灰塵と成り果てかねない黒炎が、容赦なく常盤との距離を詰めていく。黒炎が通りし道は火の手が上がることなくただただ跡形もなく焼失した。
「(これは魔法、闇で吸収できる。だが生半可な魔法では吸収できないだろう……守る……俺は俺の大切を守るためにーー)全力で!!」
その瞬間、常盤の体が紫色に淡く光り、彼の掌から1本の剣を創成する。そしてそれを黒炎に振るうーー
その直前、突然突風が吹き荒れ、炎が急激に進路を変更する。
「ーーえ?」
「っ……この先はーールシェ!!」
すでに手元を離れた魔法を無条件に消し去る術はない。必死に手を伸ばすも当然届くはずがない。魔法を放とうか考えたアミスだが、黒炎を消し去るために放った魔法がルシェを傷つけてしまうことを想像し、踏みとどまってしまった。
「(なんだ……またか……オレはまた大切を目の前で失うのか? 嫌だ、やめてくれ、頼む、もうこれ以上オレから奪うのは)ーールシェ!!」
刹那、アミスを横切る1つの影。その影は全速力で炎に近づき、まさに今幼い少女の肌を焼こうかといった瞬間、手元の剣を大きく振り抜き黒炎を切り裂いた。
「死なーーせるかぁ!!!!」
切り裂かれた黒炎は一瞬にしてその形を失い、まるで初めから存在していなかったかのように消失した。
「うわっ! 完全に消えた! なんでだ?!」
全速力で炎に近づき、その勢いのまま切り裂いた常盤はバランスを崩しながら宙を舞い、自身の起こした結果を驚いていた。そしてそのまま背後の木に激突した。
「痛っつぁ〜……な、なぁアミス、これって俺の……ユニーク魔法?」
「あ、ああ……自身の魔力を消費して剣を構成する闇魔法
事前に魔法を知っていたアミスは当初、どちらも弱い魔法だと思っていた。なぜなら常盤は闇属性。吸収と分解など大した違いなどないと思っていた。
しかしあの分解力を目の当たりにした瞬間、とある可能性に気がついたのだ。魔人という種族は魔力の塊。ということはつまりーー
「お前が、カウザを倒す重要人物になるのかもしれない……!」
「ーーへ?」
意味のわかっていない常盤は、背中を木、頭を地面につけた吹き飛んだままのポーズで間抜けた声を漏らした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます