憧れた妄想に近づくため
「ーーなんであんたの過去に出てきた魔人はユニーク魔法使えんの? それに、勇者って本当は何?」
神囿の唐突な質問に答えを言いだまってしまうヴィクタ。
「……まず、なんでカウザーー私の仇である魔人がユニーク魔法を使えたと思った?」
「理由は簡単だよ、本来1つしか持っていない属性魔法を複数扱っていた。それに聞いた話だと魔王は翼を生やして空を飛んだんだろ? ということは少なくとも魔人はユニーク魔法を使えるってことだよね?」
神囿の言葉で常盤は思い出し、言葉を漏らす。
「そういえば、あいつ翼生やしてたんだったな。ヴィクタさんの話が衝撃的で忘れてた……というか神囿、えらく落ち着いてるな? ちょっと前までのお前なら興奮しながら話してたろ?」
「……強者の余裕ってやつだよ。ーー話を戻そうか。つまり僕が何を言いたいか、分かる?」
「……なるほど、魔人がユニーク魔法を使える。であれば同じくユニーク魔法を使う事の出来る勇者とはなんなんだ、と言う事だな?」
「ああ、そういう事」
ヴィクタの回答に真顔で首を縦に振る神囿。疑問をぶつけられたヴィクタは顎に手を当てながら少しの間何かを考えていたが、その後視線を再び神囿に向けた。
「まず私の知っている情報から伝えよう。確かに魔人族はユニーク魔法を使うことが出来る。そしてそれは君たち勇者も同様だ」
「そうだね。で、結局勇者ってなんなの?」
「勇者……ゴブリン討伐に出た時にも言ったが、この国には勇者伝説があるーーらしいが、私や国民は今回初めてその存在を知ったんだ。仮にその伝説が途切れたとしても、流石に誰も知らない、王族しか知らない伝説というのは不思議ではある」
ヴィクタは若干呆れた様子にも見える態度でその言葉を放った。恐らくその対象は王族にであろう。
「なるほどね……なんだ、あの人の言ってた通りか」
「あの人?」
「あ……いや、なんでもないよ。それより、何もわからないんだったらこれ以上意味はないね。早く特訓を始めようか」
いそいそと立ち上がり、すぐに特訓を始めようとする神囿。ヴィクタは他の者に「他に何かないか?」という目線を送ったが、特に返答がなかったため彼女も立ち上がり、特訓を始めることになった。
「昨日はあんなことがあった翌日だ。今日の特訓は各自自由練習とする! 私が教えられることがあればその都度教える。では解散!」
こうしてそれぞれ散開していく勇者たち。そんな中、常盤は足早に進んでいく神囿の背中を見つめていた。
「…………」
「ーーい勇! おいったら勇!」
「勇正く〜ん? どうかした?」
意識外から声をかけられたことで大きく背中が跳ねた常盤。唐突に体を動かしたことで痛めた背中をさすりながら背後を振り返った。
「っぁ〜! ……あぁ、霞に海斗か。どうした?」
「どうしたっつか、お前がじっと
「そうそう、なんていうか……万引きGメンみたいだった」
「おいゆあちゃん、それは万引きGメンに失礼だぞ」
「そうそう、世界中のGさんに謝りなさい」
「ノリ突っ込まないの?! ……すいませんでした」
「「よし」」
こんな何気ない、通常であれば当たり前にしていたであろうくだらない会話に、3人は笑い合った。
「ーーんで、結局なんで神囿見てた訳よ?」
「大した理由じゃないぞ。ただなんとなく雰囲気変わったな、何か急いでそうだなって思っただけさ」
「ああ、確かに神囿君なんというか落ち着いた? って感じだよね」
「そうかぁ? 置いてかれてやさぐれてるだけじゃねぇの?」
口々に意見をこぼす3人。その視線な先である神囿は、1人壁に向かい魔法を放ち続けていた。この時常盤は、心なしか以前よりも威力が上がっているように感じた。
「気のせい……だよな」
その時、少し向こうで何かを抉り廃するような音が響いた。その音の根源はーーいつものあいつだ。
「やっちまったぜヒィ〜ヤ!!」
「「「だから遅いわ!!!」」」
どうやら、唯一ユニーク魔法を習得しているアレックスにやり方を教わっていたところ、実演中に壁やら地面やらを削りまくったらしい。
「ーーおいアレックス、私は自由に特訓しろは言ったが無秩序に破壊してもいいとは言っていないと思うんだがなぁ?」
青筋を浮かべらがら笑顔でにじり寄るヴィクタ。手をポキポキと鳴らしながら近づく彼女にアレックスはーー
「…………パードゥン?」
「OK濱崎そいつ押さえてろ」
今にも飛びかかりそうな形相と勢いのまま拳を握りしめるヴィクタ。そんな彼女を淺岡と相良の2人掛りで止めている。
「おいこらバカ! 何がパードゥンだこら! お前英語圏だろうが!」
「ヴィクタさんステイステイ……おいアレスさっさと謝れこら!」
「一度あいつはしめーー教育せねばならん。教育、教育だから。だから離……離せ〜っ!!」
「……なぁサッキー、なんでわい怒られてんや? ごめん言うたのに」
「……ん?パードゥンってもう一回言えって意味じゃないん?」
英語をいまいち理解していない濱崎。アレックスに質問を返す。
「そういう意味もあるっぺよ。でもそもそもはソーリーのさらに丁寧語だぜ?」
「「「「…………」」」」
学なのない4人はその体勢のまま固まり、お通夜のような空気になってからゆっくりと元に戻った。
この様子を見ていた常盤達はーー
「ははっ! ヴィクタさんの子供っぽいところ初めて見た気がするわ!」
「確かに。珍しい……ふっ! ……光景だったな」
「今日のことでだいぶ打ち解けてくれたんだよ! ……よく思い出したら年下なんだよね。ああやって一緒にはしゃぐのが普通だよ」
「……そうだなーーあれ?」
感傷に浸っていると、常盤はあることに気がつく。
「ーーあれ? 神囿は?」
先ほどまでに彼がいた場所には誰もいない。そこにはただ崩れ去った瓦礫の跡が残っているのみだ。しかしそれは確かにこの場にいたという何よりの証拠となる。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「ーー約束通り、抜けてきました」
ここは先ほど勇者達が特訓していた訓練場から少し離れたとある回廊。壁にもたれかかりながら神囿はそっと呟いた。
「ーーやぁ、よく来たね。歓迎するよ!」
先ほどまで誰もいなかったはずの神囿の右手に、森で彼を勧誘していた男が突如現れた。
「キミの選択はこうなんだね。うん、正しいと思うよ実に正しい。宝の持ち腐れなんて、選ばれた存在であるキミにあってはいけないんだ」
そう神囿に告げ、少し微笑みながら手を伸ばす男。その手を数秒見つめる神囿は、男の目を見てこういった。
「あの話……王国が僕たちを騙してるって話、本当だったんだね」
「ああ、ボクはキミに嘘をつかない」
「……力を貸してくれるんだろ? 全てを寄せ付けない力を」
「……もちろんさ。キミがその気なら、世界最強にしてあげる」
その言葉が決定打となったのか、神囿はその男の手を取ってしまった。
「これで、キミは強くなれる」
「僕が最強……瀬川もヴィクタも超えて……僕が最強になってーー僕が世界を救うんだ」
憧れと切望、嫉妬と絶望、自信が思い描いていた勇者とはかけ離れた立場にあると感じている神囿。彼は思い描き、妄想し続けた勇者に近づくため、男の手を強く握った。
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