砕けたガラス片
ゴブリン討伐に来ている勇者達。2組目は淺岡・アレックスのペアだ。
「ーーアレスとペアかぁ、まぁ別に文句はねぇけど」
「こちとらもカズと一緒でラッキーだぜ!協力しやすいやんね!」
謎テンションのアレックスを差し置き、ヴィクタは集中するように促す。
「おい2人とも、遊びに来てるんじゃないんだぞ!集中しなさい」
「へいへい。……その液を垂らしたらゴブリン来るんだっけ?」
「へぇ〜、不思議な液だなぁ〜。飲んでみていい?」
「……この液を垂らすことでゴブリンがやってくる。私は本当に危なそうな時と終了時にしか2人の目に前に出ないつもりだからあしからず」
ヴィクタはこれまでで学んだ。アレックスが面倒臭い時は無視すればいいと。
「それでは垂らすぞ、準備はいいな?」
「おうよ!」
「バッチグ〜!」
こうして彼女は液をじめんへと垂らし、すぐさま踵を翻した。
「では、武運を祈る」
ヴィクタの姿が消え、2人で取り残される淺岡とアレックス。あたりには緊張が走る。
「……流石に緊張してくんなぁ。お前はどうだ?」
「ん?緊張してんぜ!ガクブルや!」
彼らの周囲が騒がしさを増す。木々が揺れ、複数の足音がわらわらとしている。匂いに誘われたゴブリン達だ。
「さて、いっちょ戦い前らしく構えるとするか」
「了解だHu!」
淺岡は全身に伝わせるように炎を纏い、アレックスは体勢を低く取り周囲の草木を揺らす。
そしてーー
けたたましい音とともにゴブリンが現れる。数はおよそ20〜30体ほど。素手のものから棍棒のようなものを持っているものまで様々だ。
「これがゴブリン……ゲームで見るよりキモいなマジで」
「まとめて一掃だぜHu!」
飛びかかる数体のゴブリン達の中心に風を送り込み、それを竜巻のように旋回させる。
「俺ちんの必殺ーー
旋回する風がゴブリン達の頭と胴を分かっていく。斬り付けられた体を中央の風が巻き取りさらに刻む。
「ワオ!激烈!(ははっ!面白いなぁもっとやりたい楽しみたいっ!)」
「お前、なかなかにエグイ技使うな……はぁ、気持ち悪りぃけどやるしかなねぇな。食いやがれーー
巨大な一つの刃を作り、それを相手めがけ撃ち放つ。燃え盛る刃がゴブリン達を焼き割いていく。
けたたましい叫び声を上げるゴブリン達に若干の引目を感じたその時、攻撃を避けた数体が淺岡めがけ飛び掛かった。
「なっ!ヤベェーー」
命の危機を感じたその瞬間、淺岡の背後で肉を抉るような音とともに風が吹き抜けた。
「ア、アレス……悪りぃサンキュー!」
「オウ!共同作業だぜ!ーーそれよりカズ」
「どうしーーえっ……お前……なんかキマッてね?」
淺岡の視界に映ったアレックスの姿は、不敵な笑みを浮かべ目をギンギンに光らせていた。
「なぁカズ……なんかおいら楽しくなってきたぜ!それによ、なんか感覚が研ぎ澄まされてる感覚だぜ!」
この時アレックスはまるでゲームのように様々な視点でこの場を見渡すことができた。頭上からの視点では立ち並ぶ木々を透かし向かいくる敵を正確に認識した。
「おお!ゴブリンいっぱいじゃ!え〜っと……60体くらいいんなぁ。あ、ヴィクちんいた」
「んなっ!60体ってマジかよ!……つか何だその力?もしかしてユニーク魔法ってやつか?」
「分っかんね。だけどこれは分かるぜーー拙者、ワクワクすっぞ!」
満面の笑みで上空を見上げ、大量の風を複数の槍へと変化させた。
「カズ、吾輩の背中側は頼むぜ!こっち側の敵は、
なおも増え続ける風の槍、その数は100を超えている。アレックスは魔法でゴブリン達を捕捉・そして
「一掃だHu!
手を振り下ろすポーズとともに降り注いだ風の槍は、捉えた敵を追うように走る。一体、また一体と打ち抜かれ消えていくゴブリン達、中には逃げるものもいたが、その軌跡を辿り貫かれる。
「自動追尾……すげぇ」
「おいおいぼさっとしてんぜ!そっち、棒持ったやつが4体飛びかかるぜ!」
振り返ることなくそう告げたアレックス。急いで前方に意識を戻した淺岡の前には、まさにその通り4体のゴブリンが今にも襲い掛からんとしていた。
「あぶねっ!
掌から火の球を放ち焼き尽くした彼は、仲間の魔法に感激を覚えていた。
「すげぇ……これがユニーク魔法……!確かにこれが使えりゃ魔王だって倒せるかもしれねぇ!流石は
ユニーク魔法を勇者のみが使えると思っている淺岡は、魔王討伐の第一歩を垣間見たことでテンションを上げた。そして2人はーーというよりほとんどアレックスが倒し、訓練終了となった。
皆のいる森入り口に戻った淺岡は、アレックスがユニーク魔法を発現させたことをまるで自分のことのように喜び説明した。そして一頻り説明を終えた後、その方法についてアレックスに尋ねた。
「ーーいや〜アレス、お前すごいな!どうやって発現させたんだ?」
「んん〜、テンション爆上げしてたら出来てたぜイエイ!」
そんなあまり参考にならない答えに、一同は呆れ声を出すしかなかった。
「えっと……確かユニーク魔法を発現させるには強い思いと危機的状況がいるってことだったけど、そんな危なかったのか?」
常盤の質問に、淺岡は首を横に振った。
「いや、全然苦労とかなかったな。囲まれる前にほとんど倒しちまったし」
「となるとあれかな?初日に王女が言ってた「集中することで」……ってやつかね?」
「おっ!でも集中はしてたぜ!ワイの魔法で一掃する感じが面白かったしの!」
その言葉を受け、すでにユニーク魔法を発現させたことのある永守は理解した。
「(確かにあの時の芽衣もめちゃくちゃ集中してた……だけど集中だけなら普段の特訓でもやってる。じゃあ他に何がーー)ああなるほど……あ」
無意識に最後の言葉を口から漏らしてしまった永守に視線が集中する。
「なに?性悪なんか分かったん?」
「(人にもの尋ねる言い方じゃねぇだろこの常識知らずのクソギャルが!)は、濱崎さん、別に分かったってほどじゃないんですけど……」
「それでもいいよ、教えてくれない永守さん?」
「い、委員長……」
じりじりと期待の眼差しを向けながら永守に這い寄る霞。周囲の者も行動こそ起こさないが止めずに彼女をみているあたり、同じく答えを欲しているのだろう。
「(ああもう……これ答えないと終わんないやつじゃんめんどくさいなぁ)もしかしたら、何ですけど……感情が高ぶるほど何かに集中することでユニーク魔法が発現するのかなぁ……なんて」
普段の特訓で発現しないのは、それは色々と模索しながら集中しているから。そして永守やアレックスの場合、目の前のことにのみ集中し、感情を昂らせていたから発現できたのでは?と考えたのだ。
実際、永守は「ばれたくない」という感情、アレックスは「もっと戦いたい」という好奇心が強く心の中を支配していた。
「感情を昂らせ集中……確かにあり得るかもしれないな」
ヴィクタは永守の言葉に納得の意思を示し、皆の方に向き直った。
「次に向かう真鍋と永守はそのことを意識してーーと言ってもそれを意識してしまっては意味がないんだろうな。もしユニーク魔法が発現したら、その時どんなことを考えていたのか、それと、発現した魔法について教えて欲しい。その時の感情に能力が影響するのかなどを知っておきたいからな。2人だけでなく他の者もそこは頭に入れておいてくれ」
こうしてユニーク魔法発現に光明が見え、期待が高まった真鍋と、どのタイミングで明かすべきか考えあぐねている永守は森へと入っていった。
「んにしてもよく気付いたよな。おれはピンともこなかったぜ」
「えっ……あぁ、そうだね。女の勘ってやつだよ!(ああクソもう面倒くさいなぁ。ヴィクタが感情に能力が影響するか?とかいうから言い出せなくなったじゃない!ランダムって確定できたら今すぐにでも言い出せたのに!)」
その後もあまり緊張感のない会話を重ねた後、目的地へと到着した。
「よし、では早速始めよう。この液を垂らしたら私は何処かへ行く。本当に危なくなるまで2人で頑張ってみてくれ。それではーー」
説明を終え、瓶に入った液を数滴垂らそうとしたその時ーー
数キロ先で激しい爆発音と共に煙が立ち込めていた。
「んだありゃ?火事か?」
「にしては結構な音がしたと思うんだけど……というか変な匂いがするような」
指示を仰ごうとヴィクタに視線を移すと、彼女は目を見開き、腰の剣に手を触れわなわなと震えていた。
「お、おいヴィクタさん?なんかあったのか?」
「……あれは、あそこには人里がある……そして漂ってくるこの匂いはーー血だ。人の血の匂いだ……こんなことをする奴は1人……いや、一体しか知らん」
「それって……もしかして!」
「その……まさかだよ。そこにいるのさーー魔王が……!!!!!」
怒りで体を震わせ、手からは血を流すヴィクタ。足元には砕け散ったガラス片と変色した地面があった。
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