討伐前夜

 常盤が闇の能力を発動してから1週間後、特訓が終わった彼らにヴィクタからとあることが告げられた。


「お前たち、よく聞け!明日、国内のとある森に潜んでいるゴブリンの討伐に向かう!」


 何の予兆もなく告げられたその言葉に、全員硬直する。


「随分と唐突ですね」


「まぁ常盤の言いたいこともその通りだ。だがみんな十分に力をつけてきている。この辺で一度自分たちの力を確かめてきて欲しい」


 その後少し話をした後、解散の合図がなされ彼らは食堂へと向かった。食事中はとても気まずい雰囲気で、誰も話そうとしなかった。だがーー


「ね、ねぇ……この後みんなで話せる?」


 口火を切ったのは霞だった。どうやらみなもそうしたかったようで、その提案はすんなり通った。


 そして彼らは訓練場へと足を運んだ。


「ーーえっとまず集まってくれてありがとう!早速本題に入るけど……戦えない人、手ぇ挙げて」


 静かに言った霞の言葉に、魔王討伐に参加しないと表明した奥田、そして永守が手を挙げる。


「……そっか、うん、仕方ないよね。あれ?楓は大丈夫なの?」


 霞が首を傾げると、濱崎は少し不安が入り混じったような表情で頭を掻きながら小さく呟いた。


「……なんつうか……みんなでこれまでやってきてさ、その成果実感したいというか……あっ!ほら!とある理由から強くなりたい!って言ったじゃんね?それよそれ!」


「ふふっ、そっか。ーーあっ、そうだ。これであたしが言いたかったのはね、多分明日は全員参加になるんだと思う。そしてみんなゴブリンと戦うことになるんだと思うんだ。で、その時に今手を挙げた2人をみんなでカバー出来ないかな?って。1人でやるより気持ちも全然楽だと思うし」


「委員長さん……ありがたいです。やっぱりぼくまだ自信がなくて」


「さっすが委員長!すっごい助かるよ!ありがとっ!(ほんとありがとう。おかげで誤魔化しながら戦えそう)」


 霞はこの提案後、皆の方を向き、「どう?」と言っているような表情を向ける。


「いんじゃねぇの?おれはゆあちゃんに賛成だな!戦いたくねぇ奴が1人で戦っても危ねぇだろうし」


「まぁそうだな。どうせ今の現状を知るためのものなんだ。それさえ見えれば構わんだろ」


「僕は……まぁ永守さんが良いなら良いですけど」


「賛成賛成!性悪は置いといて、とっしーはうちの土属性仲間だしね!一緒に頑張ろうとっしー!」


「は、はい!(やっぱりいい人だな濱崎さん)」


「濱崎さんひっどーい!!(はっ?まだユニーク魔法すら使えない雑魚のくせして何上からものいってくれてんの?芽衣やっぱこいつ嫌いだわ)」


「こっちとしてもそれがいいと思うな。リーダーの考えに賛成だ」


「ユアチングーーッドゥ!」


 一通り聞き終えた霞。そして最後の1人に問いかけた。


「勇正君はどう思う?」


「俺も賛成だよ。海斗の言う通り乗り気じゃない人は危険だ。ただまぁ1つ言うなら、助けに入る人は誰なのか決めておいた方がいいな。じゃないと絶対てんわやんわになる」


「電話止んだ?」


 濱崎の無知なボケに常盤は苦笑いを浮かべながら説明する。


「……てんわやんわ。簡単に言えば大勢がごった返……収拾がつかなくなるって感じだ」


 ごった返すと言えばまた説明がいると判断した彼は少し考え言い方を変えた。その甲斐あってなのか、ちゃんと伝わったようだ。


「なる!とわっち賢いね」


「はははそれほどでも。……で霞、どうするんだ?」


 顎に手を当て少し唸る霞。そして自分の中で解決したようで頷いた。


「うん、勇正君の言う通りだと思う。だからあたしが独断で考えました!奥田君はいつも一緒に訓練している楓が、永守さんは同じ属性の海斗君、お願いできる?」


「おっ!うちがとっしーとか、土同士ガンバろうね!」


「うん!頼もしいよ!」


 仲の良さそうな雰囲気のこちらに対し、真鍋と永守は若干険悪な雰囲気が漂っていた。


「うげっ!永守の世話……まじかよ」


「芽衣としても申し訳ないですし〜。(なにその反応?喜ぶところでしょ?てか同じ属性の奴が一緒だったらバレるかもじゃん!なんとか逸らさないと……)」


 2人とも理由は違えど断ったため、もう一度考え直す。そしてーー


「じゃあしょうがないか、永守さん、神囿君だったらどう?」


「ぼ、僕ですか?!そりゃ永守さんと一緒とか嬉しいですけど……あっ、べ、別に構わないけど?」


「神囿さんですか……(ぶっちゃけキモいけど、まぁあいつならバレないだろうし、妥協しよ)分かりました!お願いしますね神囿さん!」


「う、うん!……じゃなくて、任せてよ!」


 こうして霞の話は終わり、皆はそれぞれ明日に備えてそのまま部屋に戻った。


 常盤も部屋に戻り、今日は前回のように筋トレなどはせずに大人しくベ ベッドに潜り込んだ。そしてあることを考えながら天井を見上げていると、自室の扉がノックされた。


「ん?誰だろ?ーーはい?」


 扉を開けると、そこにいたのは霞だった。真鍋はいないようだ。


「霞……海斗がいないって珍しいな、どうかしたのか?」


「ちょっと話したいなぁって思ってね……入っていい?」


 そして常盤は2つ返事で了承し、霞をベッドの上に誘導し、自身は床に座った。


「よいしょっと……で、話ってなんなんだ?」


「その前にありがとね!さっきの話し合いで勇正君が言ってくれたこと、全然考えてなかったや。ありがとう」


「別に……あれは俺がそういうの気になりがちなだけさ。そういう習性ってだけだよ」


「ふふっ、習性って、動物みたいだね!ーーあっ、ごめんね。早く本題入れって感じだよね?……えっと、勇正君はさ、ゴブリン討伐って聞いて……どう思った?」


「どうって……そうだな、ちゃんとそのまで理解してやるって言ってるのは、多分覚悟決まってる相良くらいなんじゃないかな?それ以外は、正直俺も含めて命を奪いにいくって感覚が足りてない。そんな感じかな?」


 常盤の言い放った言葉に、霞は頷いた。


「うん。あたしもそう思ってたんだ。明日ってさ、よく考えたら殺しに行くんだよね?害のあるモンスターだとは言え、あたし達、明日生き物を殺しにいくんだよね?その実感があたしもまだ湧いてないんだ、どこか他人事みたいで」


 霞は苦笑いを浮かべながら、頬を人差し指で掻きながらそう言った。


「多分、やりたくない人を聞いたのも、自分が逃げたかったからなのかな?それにペアを組ませたのも、その方が精神的ダメージも少ない、って思ったのかも。ーーって、自分のことなんだけどね!自分のことすら自分でわからないなんて、情けないですな〜あたしったらーー」


「――そんなことないだろ?」


 常盤の自身を肯定する発言に、霞は驚きを隠さずにいた。


「俺は情けなくなんかないと思うぞ。もし根底の考え方がそれだったとしてもさ、何がダメなんだ?逃げたいのなんて当たり前だし、組ませる理由だってそれは霞の優しさから来てるものだろ?だったらそれを恥じる必要なんてどこにもないさ」


「勇正……君……!」


「それと、もし霞が逃げたくなったり、やりたくなくなったり、若しくは危険な目に遭いそうになったら、ーー絶対俺が君を守るよ」


 真顔で言う常盤。そんな発言に霞は顔を真っ赤に染め、目が泳いでいる。そして勢いよく立ち上がり扉を開けて廊下に出た。


「そ、そうだ〜、あたしやることあったんだった〜……ってことでさようなら!」


 勢いよく閉められた扉。「何だったんだ……?」と困惑する常盤だったが、大人しくベッドに戻ろとした時、扉の外から声がした。


「……あたし、実はちょっと不安だったんだよね」


「ーーえっ?(今のって、霞だよな?)」


「さっき勇正君に言ったこと、全部あたしなんだ、だけどね――もう大丈夫だよ!!」


 今の彼女はすごく笑顔なのだろう。そう思う常盤だった。


「そっか……じゃあよかった」


「ーーありがとね……!」


 一瞬開いた扉から感謝の言葉が運ばれた。そしてどこかへ駆けていく足音が聞こえた。


「あんな風に言ったはいいけど、俺も実際不安しかないな。だけどまぁ……ゴブリンは害的モンスターだ。討伐しなければ町に影響がある。これは自分なりの正義としては、頑張るしかないか。……そう言えば、なんで真鍋とか誘わなかったんだろうな?……まぁ考えても分からん」


 こうして若干ずれた感性を携えながら翌日、とうとうゴブリン退治に向かう準備が整った。全員訓練場に集まり、整列していた。


「ーーみんな揃っているな。ありがとう、ではそろそろ……只今より、ゴブリン討伐に向かう!ついてきてくれ!」


 こうして勇者達はゴブリン退治へとむかうことになった。
























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