飲み込む魔法
属性魔法を使えるものが多く現れてから1週間後、ひとまず全員魔力を属性に変換することは出来るようになった。土属性組はつい最近まで難航していたが、一度コツを掴むとそこからは早かった。
「ほらほら見てよヴィクタさん!うちこんな人形作れたし!」
「ほぅ、ゴーレムか。別名土人形と言われているものだ。土属性魔法では基本にして一番よく使われている技だね」
「へぇゴーレムかぁ、とっしーはどんな感じ?」
濱崎にとっしーと呼ばれた奥田は以前のようにドキマギした答えではなく、はっきりと落ち着いて答えられていた。
「ぼくも出来ましたよ!ほらこれ!」
そう言って作り出した掌サイズのゴーレムにダンスをさせる。滑らかとは言えないがそれでも濱崎は十分喜んだ。
「おお!すごいじゃんとっしー!どうやってんの?!」
「えっと、ぼくなりのやり方ですけどーー」
このように、彼らはそれぞれ属性ごとに分かれ、それぞれ教えあいながら特訓していた。そしてこの1週間、同じ屋根の下で寝泊りし、一緒にご飯を食べ、特訓し、お風呂に入って就寝する。これをしていたことで、彼らの間には確かに絆が生まれていた。
その傾向として如実に表れているのが呼び方だ。彼らはそれぞれ仲良くなった同士であだ名などを付け合っている。
ただ1人、神囿だけはまだうまく馴染めていないようだ。その理由は簡単で、要するにプライドが高いのだ。
昔から最強というのに憧れていた神囿。異世界小説や漫画などを読み漁り、いつか自分もこういう風にチートハーレムしたいな、と夢見ていた少年だった彼は、今の特別抜き出ている感覚のない現状にストレスが溜まっているのだ。おまけに自分は特に特別な要素がない。そんな理想とのギャップから、せめてものカッコつけで孤高を演じてしまっている。
「僕は特別なんだ……いつか絶対何かしらの能力に目覚めるはずだ……そう、ユニーク魔法を使えるようになったその時には、僕を見下してる奴ら全員見捨ててやる」
「(オタクの奴また1人でぶつぶつと……)まぁいいか、おれはおれのやるべきことをやるだけだ!」
一瞬神囿の方を向いた相良だったが、すぐに視線を自身の手元に戻し、雷を発現させる。そしてそれをだんだんと範囲を広げ、全身に纏わせて走り出した。
「スピードは確かに格段に上がるな……あとは貫通か……くっそ!応用の仕方が思いつかねぇ!」
元の世界ではその他の作品に全く触れていなかった相良は、魔法の使い方に考えあぐねているようだ。そんな彼を一瞥し、鼻で笑った神囿は右手指を地面に向け、そこから5本の電流を流し穴を開けた。
「(ふっ、あのヤンキーには勝った!)」
心の中で勝ち誇っていたその時、少し離れた場所ではうるさいほどのバカな声と、激しい音がした。
「竜巻だぜHu!!」
ニコニコと笑いながら両手を掲げているアレックス。そんな彼の前には人1人以上ある大きさの砂嵐が巻き起こっていた。しかも足元の地面を巻き込みどんどんとその規模を拡大していく。
「アレスお前すげえな。やっぱお前色々変だわ」
「んまぁアレクだしな。ぶっちゃけそんな驚けねぇ」
「アレスくん流石です〜!!」
淺岡、真鍋、そして永守が言葉を発した。周囲は驚いてはいるものの、何故か真鍋と同様の反応だ。
「みんな、アレックスがおかしいんであって、本来こんな早くここまでの魔法なんて使えないからな?そこは勘違いして落ち込むなよ」
ヴィクタのフォローが入るが、自分がその位置に居たかったと思う神囿は悔しさで震えている。
「集めた竜巻を〜っ!あの壁に直撃っ!」
そう言ってアレックスは作り出した風を操り、周囲の壁に激突させた。壁はいとも容易く破壊され、瓦礫が転がり砂埃が舞う。
「………………やべいやん!!」
「「「「「「「「「遅いわ!」」」」」」」」」
全員のツッコミが一致した。恐らくこの世界に来て、いや、彼らが出会ったその瞬間から今までで一番息のあった瞬間であった。
「分かっただろアレックス。魔法は遊び感覚で使っていいものじゃないんだ。特訓だし自重しろとは言えんが、頭にだけは入れておけ」
「ラジャでござる!!」
敬礼するアレックスを見ながら少し談笑をする常盤、真鍋、霞、そして淺岡。彼らのうち3人は属性が被っている人がおらず、真鍋も「永守と一緒はきつい」という理由でこちらに来ている。
この中で魔法などに一番理解がある常盤が彼らにイメージなどを伝えていくというやり方をしているようだ。
「アレクのやつすげぇよな。おれなんてまだ潤滑の使い方が理解できずに取り敢えず水出して形作る、くらいしか出来てねぇよ」
「んもんじゃねぇの?
「十分では?」そう思いながら微妙な顔つきになる常盤。その様子に疑問を持った真鍋が聞き込みをする。
「なぁ勇、お前どうしたんだ?すげぇいたたまれないような顔してっけど」
「ああ……いや、俺闇属性なわけじゃん?ってことは吸収以外に魔法が使えるはずなんだけど、一向に使える気がしない。その吸収だって相手がいなけれりゃよくわからんし」
手元に黒いもやのようなものを滞留させながら話す常盤を見て、霞が「いいことを思いついた!」と言いたがな顔で手を叩いた。
「ん?どうしたんだ霞?急にテンション上げて」
「ふふ〜ん!そんな勇正君達にプレゼントしよう!海斗君、淺岡君、ちょっと手伝ってくれる?」
「ゆあちゃん?一体何をーー」
「手伝うのは構わないけど……委員長、一体何するつもりなんだ?」
すると霞は小さな子供を受け入れるかのように両手を広げ、両手に緑の光を滞留させた。そしてその光を纏わせるように3人に振り払った。
「3人とも、ちょっと動かないでね!……よし、光が纏ったし……いくよ!
3人に纏われた光がさらに輝きを増したかと思えば、突如消えた。
「……えっとゆあちゃん?今のは何?」
「霞?一体俺に何をしろと?」
「変なことしてねぇよな?委員長?」
「してないよ!それよりも、勇正君に魔法撃ってみなよ!多分びっくりするから。あと、勇正君は自分のできる限りで防御してね」
「なっ霞!」
霞は3人の間から抜け、攻撃側の2人を催促する。
「分かった分かった。んじゃあ簡単な魔法で。水鉄砲」
「はぁ……
真鍋は指先に水を溜め撃ち放ち、淺岡は手元に火の玉を作り放り投げた。いつもなら本当に大したことのない威力の技。なのだがーー
「ーーえっ?」
「ーーはっ?」
手元を離れたその魔法はとてつもないスピードで常盤に向かい放たれる。しかもそれは先ほどのアレックスの竜巻と同じくらいの威力だ。
「勇避けろ!!」
「やべぇ!ゆう!」
何が起きたのか訳もわからずとにかく右手を伸ばしていた常盤。手元には闇を纏ったいるものの、普段の彼の力であればこれでは止められない。
「なっ!まずい!!」
ヴィクタが気づいた時、すでに魔法は常盤の目の前に迫っており、今からではどうしても間に合わない距離だった。
「(まずいなんだこれ?!やばい、やばいやばいやばいやばいやばい!!!!頼む!この状況の打開を!頼むから目の前で消えろーー)」
そう強く願った瞬間、闇は突如大きく広がり、放たれた魔法を2つともいともたやすく飲み込んだ。そしてその闇は常盤の体に戻っていく。
「……へっ?」
常盤は訳が分からないようで唖然としている。周囲の反応も似たようなもので、やれと言った霞でさえそんな反応だった。
「おい霞、せめてお前は説明できてくれよ!なんだあれ?!俺の魔法もそうだが、なんだあの威力?」
「……あたしが使ったのは魔力強化の魔法で、簡単に言えば威力が上がる魔法だったんだよ。どっちも同じ魔法使ったから使ってない時と総合的には一緒になると思ってたんだけど……もしかしてあれが勇正君のユニーク魔法?」
「ーーいや、多分違うだろうな」
そういってきたのはヴィクタだ。
「ヴィクタさん、何でこれが違うと?」
「私は直にユニーク魔法というのを見てきたから分かるが、ユニーク魔法は基本的に属性魔法に関与しない。要するに属性魔法はオプションなのさ。ないのが普通ということだな」
「つまり今のはユニーク魔法ではなく闇属性の能力ってことですか?」
「恐らくそうだろうな。見ただけではどういった能力かは分からなかったが。ーーというのは置いておいて、常盤、霞、真鍋、淺岡、これから説教だ。こっちに来い」
「あ"っ」
「あ〜、ごめんみんな」
「まぁ、しゃあねえよ」
「ちょっと!こっちは別に何もやってないんだが?!」
こうして彼らはそれから2時間ほど説教をされ続けた。
「(それにしてもあの威力にそれを止める魔法……もうそろそろ良いのかもしれないな)」
説教を終えたヴィクタは、1人納得し頷いた。
そしてさらに1週間後ーー
「お前たち、よく聞け!明日、国内のとある森に潜んでいるゴブリンの討伐に向かう!」
ヴィクタは突如、モンスター討伐の宣言を皆に告げた。
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