属性発動

「よし、では早速属性について勉強を始めよう」


 先ほどヴィクタの魔法実演を見た勇者たちは、より一層気合が入ったようで真面目に授業に取り組んでいた。


 やはり圧倒的な力を見せつけたことにより、指導員としての威厳と説得力が上がったのだろう。事実、この人についていけば強くなれる、そう確信させるだけの力だった。


 特にその中でも相良が熱心であり、たびたび質問を飛ばしていた。


「なぁ、イーメジができて魔力さえあれば、どんな場所、どんな形にも魔法を象れるのか?」


「まぁ基本的にはな。例えば雷を槍の形にして飛ばすことも可能だ。その場合、形を形成、そして飛ばすのには魔力を消費するが、飛ばした後は自身で消さぬかぎり魔力は消費しないよ」


「なるほど。で、さっき言っていた属性ごとの特徴とは何だ!」


「さ、相良落ち着け!何をそんなに焦っているのかは分からないが、とにかく落ち着きなさい」


「そ〜だよまさちん。そもそも急にどうしたわけ?昨日まで「あ〜めんどくせぇ〜」って感じだったじゃん?」


 濱崎の質問に、一瞬眉間にシワを寄せるが、すぐに足元斜め下に視線を落とした。


「……光明が見えたんだ、帰るための。おれぁ早く帰らなきゃならねぇ。……あいつが待ってんだ」


 そう言った相良の目は、いつもの気怠げなものではなく、真剣そのものであった。


「なぁ相良、誰かのために早く帰りたい。だから真面目に授業に取り組む。すごいいいことだと思うし俺たちもそうすべきだと思う。だけど、焦っても何も始まらないぞ。ヴィクタさんだったお前が質問することくらい聞かなくても教えてくれてただろうしさ。とにかく、ちょっとは落ち着けよ」


 常盤は相良のことを認めつつ、焦っていることに対して嗜めた。


「勇正…………そのセリフその姿勢じゃねぇ時に言えなかったか?」


 カッコつけて相良に告げた常盤は、現在地面にべったりである。真面目になった不良に日中寝て過ごしている人間が説教垂れているというような、奇妙な絵面になっていた。


「仕方ないだろ?現在頭しか動かないんだから」


「いやだからそれは分かっただけど……はぁ、なんつうかこの言い争いがバカらしくなって来た。すまねぇ、授業止めちまって。続けてくれ」


「ああ、だが、分からないところを分からないままにされるよりは質問攻めの方がずっといい。これからも分からなければ質問してくれたまえ。(空気が戻った。もしかして常盤、お前わざとこんな風に……してると思いたいな)」


 ヴィクタは1人で自己完結すると、授業を再開した。


「では再開する。属性というのはそれぞれ特徴があり、先ほど見せた光属性だと【光速】。そして火は【火傷】、と言ってもこの威力はピンキリで、灰にするレベルからほんとに軽い火傷程度まで差がある」


「軽い火傷って……ヤカンじゃねえんだから」


 自分がそんなしょぼい力だったことを想像し、1人でツッコミを入れる淺岡。


「そして水は【潤滑】、攻撃を受け流したりするのが基本的な使い方だな」


「何つうか……地味だな。永守、使い方浮かぶか?」


「えっ?い、いや〜芽衣よくわかんないな!(考えてないっつの!所詮嘘の属性のことなんざ)」


 潤滑という言葉をどう魔法に落とし込むのか悩む真鍋と、結局は無関係と割り切っている永守。やはりあゆみが合わない。


「そして土は【不意】、地面を直接武器にする魔法だからね、そういう意味の不意だ」


「うわ〜、地味。なんかうちら土属性だけ不遇じゃない?そう思うっしょ?とっしー?」


「う、うん……そうだね(とっしー?!とっしーってあれだよね?ぼくの俊樹からだよね?ぼくの名前覚えて――じゃなくて、距離の詰め方すごいな〜)」


 土属性である濱崎と奥田は土属性の使い方についてその後少し話した。


「そして雷は【貫通】、貫通力が凄まじい。因みに速度は光の次に早い」


「貫通……あとはおれのユニーク魔法を合わせるのか……」


「ほうほう……貫通力が高くて速度が速い魔法……使えそうだな」


 相良と神囿はそれぞれ別々に思考を巡らせていた。


「そして風は【旋回】、旋回力を与えることができる魔法だ。そうすることで威力が底上げできるようになる」


「旋回Hu!」


 アレックスは意味がわかっているのか分かっていないのか分からないテンションで反応を示した。


「そして最後、闇属性だがこれは【吸収】だ。魔法を発動したときに触れた魔力を吸収することができる。これにより攻撃と同時に相手の魔力を奪うこと、そして防御でダメージを軽減することができる」


「へぇ〜、なかなかに便利そうだな。まぁでも闇の特殊魔法も分からないしな……」


「(何よそれ……そんな便利な能力なのに使えないとか……誤魔化したのはちょっと早計だったかな?いやでもあそこでギャル女にいじられるよりはマシよね)」


 そう常盤と永守が考えていると、ヴィクタは属性の特徴についての話を終え、別の内容に入った。


「では次の内容に入ろうと思う。ここからはいよいよ実技だ。まずは魔力を手元に移動させ、それを属性に変換させる練習をしてもらう。常盤以外は移動しよう」


 こうして動けない常盤を1人残し、他の面々は開けた場所に移動した。それぞれ間隔を開け直立している。


「よし、みんな位置についたね。これくらい離れておかないともしもの時に全員巻き込みかねないからね」


 もしもの時ーーその言葉に皆は固唾を飲んだ。


「ここからはイメージと慣れの問題だ。手元にオーラのようなものを漂わせ、そしてそれを自分の属性、例えば火属性ならそのオーラを火に変えるイメージを持つんだ。さぁ、やってみてくれ。と言っても最初から出来るわけはないから落ち込むーー」


「ーーこうか?」


 額に汗を滲ませながらヴィクタに問い掛けたのは相良だった。そんな彼の手元には、非常に微量ながら紅い雷が発生していた。


「落ち込むーーな?……普通ここまでいくのに相当な時間を要するんだが、なんなんだ一体?」


「(くそっ!あのクソ不良が出来て僕に出来ないわけがないんだ!僕は勇者だ!選ばれしものなんだ!!)」


 そんな強い思いに反応したのか、神囿の手元にもスタンガン程度の蒼い雷が発生した。


「神囿まで……やはり勇者というのはすごいのだな」


 その後、次々と魔法を発動するものが現れる。


「あっ!緑色の光だ!綺麗〜!」


「これは……水か?振っても溢れねぇしよくわかんねぁなこの水」


「うわ熱ちっ!……くない?なんだこの真っ赤な炎、手元で燃えてんのに熱くねぇ?」


「oh風ビュウビュウだぜい!ーーおっ?手ェ動かしたらちょっと浮いた気がすんぞ」


 手をバタつかせるアレックスは現に僅かだが浮いていた。


 次々と魔法を発動させていく光景に、ヴィクタは目を丸めて唖然としていた。


「……もう驚き疲れてきたな。そういえば魔水晶で属性を判別できていた時点でこうなることを覚悟しておくべきだった……ん?お前たちは難しいか?」


 次々と魔法を発動させていく中、動けない常盤は置いておくとして濱崎、奥田、そして永守が発動できていなかった。


 永守は闇属性であることを隠すためにわざとできないフリをしているが、濱崎と奥田は本当にできないようだ。


「ねぇヴィクタさ〜ん、土属性ってどうやって使うん?手元でオーラとか出せないしー」


「そうですよ、地面にオーラを流すんですか?」


 手元で発動する他の属性とは違い、足元の地面を操作する土属性は参考に出来るものがなくイメージが難しいらしい。


「うん……まぁ奥田の言う通りで、足元の地面に魔力を流してそれを変換するものだから、確かにイメージがむずかしいかもしれないな。仕方ない、2人は私が付きっきりで教えよう。でないと難しいのだろうからな」


「よろしくヴィクタさ〜ん」


「お、おねがいします」


 こうして発動できたものは個人で使い方を模索したり、同じ属性同士で話し合い、まだ発動できない3人はヴィクタの直接指導が入ることとなった。


 この光景を見て、常盤は決心する。


「ーーうん。体はちゃんと休めよう」ーーと。



















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