魔法の実演
翌日、食事を済ませた勇者たちは訓練場にて集合していた。
「ーーえ〜、今日も訓練を始めようと思っ……たのだが、常盤、お前昨日何をしていた?」
そう質問された常盤は、うつ伏せで地面に倒れながら答えた。
「あー、その、……筋トレを少々」
「少々って……一応聞くが何回やったんだ?」
「えっと……腕立て腹筋スクワット100×10セットを」
その発言に、周囲からは驚きーーというよりも馬鹿だろこいつと言いたげな声が漏れ聞こえた。
「勇、運動部でもそんなやんねぇよ。普段帰宅部で運動なんて全くしないお前が一体どうした?」
「海斗……仕方ないだろ、煩悩が俺の中から消え去ってくれなかったんだから」
その発言に、ヴィクタは呆れながら近づいた。
「はぁ、常盤、君は私が昨日なんて言って締めたか覚えているか?」
「確か…………体を休めるよう言われました。はいごめんなさい」
「ったく、今日は魔法の実技練習をしようと思っていたのに、これでは出来ないじゃないか」
「はい、すいません」
「(芽衣ってほんとにあいつと同じ闇属性なの?性格に影響するって言ってたけど闇要素どこよ?……はぁ、あの程度なら隠す必要もなかったかも)」
永守は誰にも聞こえない程度のため息をついた。
「とにかく、今日は仕方ないからその体勢で聞いてろ!いいな!」
こうしてそれぞれ席に座り、まずは座学が始まった。
「さて、昨日も言ったが、今日は魔力操作を覚えてもらいたい。これは魔力を属性に変換すること、そしてそれを操作することを指す」
「ねぇ〜ヴィクタさ〜ん、そもそも属性って言われてもいまいちピントきてないんですけど」
濱崎のこの発言に、納得するような反応を見せるものや、えっ?そんなことも知らないの?と言いたげな反応を示すものなど、様々だった。
「ふん……確かに君たちは魔法のない世界から来たのだからイメージがつかないのも無理はないか。よし、であれは見せた方が早いな。少し待っていてくれ」
その後少しして訓練場の奥へと移動した面々は、用意された人形のハリボテの前に集合した。因みに常盤は真鍋に引きずられていた。
「では、これから魔力を魔法に変換、そして魔法を放つ瞬間を実演する」
ようやく魔法が見られるという事実に、ほぼ全員少なからず興奮していた。
「ようやく、僕が待ち望んでいた魔法が見られる!」
「ぼ、ぼくも楽しみだな」
「魔法ってあれっしょ?ハリポタ的な」
「コロポータス!ってやつやろ?」
「なんでそんな微妙な魔法チョイスしたんだよ?普通エクスペクト・パトローナムとかだろ」
「和馬詳しいなおい。にしても、神囿じゃねぇが興奮すんな!」
「……しっかり見ておかねぇと。魔王倒して帰るためによ」
「勇正君、見える?」
「ああ大丈夫、体横にしたから」
「わぁ〜い!芽衣楽しみ!(もう使えるからあんまり興味ないわ)」
ヴィクタは腰の剣を抜き、目の前の地面に突き刺した。
「よし、ではまず魔力を変換させる。これのイメージは魔法を発動させたい箇所にオーラを集め、それを自分の好きな形に変形し、属性に変化させる感じだ。遠距離に関しても同じだな。属性については後で説明しよう。今回は自身の手元に魔法を使うぞ」
そう言ってヴィクタは、彼らの前に拳を見せつけるように突き出した。すると、その手が金色の光に包まれ輝き始めた。
「うおっ!金色に光った!おれこんなん見たことねぇよ!」
「おお〜!!わっちもこれができるようになんのか?!」
それぞれ驚きの声を漏らす。
「まずこれが属性への変換だ。因みに今は拳を囲うようなイメージで魔力を操作している。そしてーー」
ヴィクタは剣を手に取り、地面から引き抜いた。そして、手元の光を剣に移していく。
「これが遠距離の魔力操作だ。自分の体とは別の場所に魔法を移動させる。要するにイメージ次第ではどこまでの範囲を広げられるということだ。だがここで注意すべきなのは、範囲を広げすぎるとその分魔力を消費するということだな」
ここまで説明したところで、ヴィクタはハリボテとの距離がかなりあるにも関わらず剣を構え始めた。
「えっ?そこからだと絶対に当たらないんじゃーー」
常盤のこの疑問に、ヴィクタは少し笑みを浮かべ、実演で答えた。
「ふっ、属性判別の時にも言っただろう?私の魔法は光。そして能力は――光を集めて放つものだ!
剣の形が大きくなったのかと思うほどに精巧な形に光が剣状になり、一歩も動くことなく、しかし直接ハリボテを切り裂いた。
「今のが魔法、そして属性にはそれぞれ効果がある。因みに光の効果はその名の通りーー光速だ」
一瞬にして光を全身に纏い始めた方思えば、先ほど切り落としたハリボテが地面に落ちるよりも早く剣を再び振り抜いた。
「すげぇ……速えぇ……!!これぞ異世界だよ!」
「うわ〜……何今の。もしかして癒愛もこれできるようになるん?」
「……出来る気がしないよ」
一瞬のことに驚きを隠せない様子の彼らだが、振り返ったヴィクタの様子はまだまだだと言ったような余裕の笑みだった。
「ふっ、君たちなにをもう終わったような顔をしているんだ?言っただろ?この魔法は光速だと」
そう言ってハリボテを指さしたヴィクタ。そのハリボテを今一度見ると、2度しか斬っていないはずのハリボテが突如細切れになって地面に落ちた。
「……えっ?今2回しか斬ってないよね?何で細切れにらなってんの?!」
「斬れっ斬れだぜHu!!」
「これが……本当の魔法……」
「何よあれ……芽衣のと全然違うじゃん」
光は消失し、剣を納めたヴィクタはしたり顔で彼らに近づいた。
「ーーと、まぁこんな感じだ。まぁこれは光属性の特徴、そして重さが一切ない無重の剣だからこそ出来る剣技だがな。とりあえず、魔法の凄さと能力を知る必要性は理解してもらえたと思う。君たちはここからさらにユニーク魔法が乗るんだ、私程度、すぐに超えられるさ」
「「「いやそれは無理だろ」」」
全員の意見が一致した。そして相良がヴィクタに質問をした。
「なぁ、そんなに強かったら魔王だって倒せるんじゃねぇのか?おれたちを呼ばなきゃいけねぇようには見えないんだが」
「確かに、今はまだ勝てるかも知れない。だが魔王、というより魔人族は君たちと同じくユニーク魔法を使えるんだ」
「なっ?!魔王も使えるのか!」
「ああ、しかも奴のユニーク魔法は死んだ者の魔法を使うことができる魔法。つまり死んだ魔人の魔法を全て使うことが出来るんだ。それらの魔法を完璧に使いこなすことがあれば……恐らく私1人では殺されていただろうな。そして私の光属性魔法すら奪われていただろう」
「なるほどな……まぁいい。とにかく、おれたちがその魔王を倒せるレベルまでしっかりと育ててくれよ」
「ああ、そのつもりだよ!その為に、しっかりと勉強して魔法を使えるようになっていこう。そして、休めるときにはしっかり休むようにーーいいね常盤?」
「い、イエッサ!」
こうして魔法の実演が終わり、彼らは座学へと戻っていくのだった。
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