ふるいにかける
召喚をされた翌日、常盤は慣れないベッドの上で身を覚ました。
「夢じゃ……ないんだよな?」
ベッドから起き上がり、窓越しに外を見る。そこからは庭だろうか?木々や花々が並んでおり、丁寧に手入れをされているように感じた。
とてもその辺の日本の一軒家で映る光景ではないだろう。少なくとも自分の家では見たことのない景色だった。
部屋の扉がノックされる。霞や真鍋だと思った常盤は、雑な返事を壁に飛ばした。
「──勇者様、我が国の王、ならびに王女がお待ちです。昨日の召喚が行われた一室、王の間にご案内いたします」
女性の声、どうやらこの王宮の召使のようだ。
「あ、はい……ちょっと待っててください」
寝起きだったこともあり、さすがに何の身支度もしていない。常盤は軽く寝癖を治し、目を覚ますため軽く顔を叩いた。
「すいません、お待たせしました」
部屋を出るとそこには、所謂メイド服を着た麻色の髪をした女性が何も言わずに立っていた。
「…………」
召使はその言葉を無視、というより呆然として動かないと言ったようすだった。
「えっと、何かありました?もしかして俺粗相を?」
「……いえ、待たせたことに謝罪されたことがなかったもので……申し訳ありません、自失しておりました」
「そうなんですね……だったら最低でもあと2人には言われると思いますよ」
「……はぁ……?」
その後常盤のこの宣言通り、霞と真鍋も謝りながら出てきた。そしてその他数名もちらほら。そんな様子に召使は再び呆然とする。
「勇者様方の世界では、謝辞を述べながら部屋を出るのが常識なのですか?」
「別にそういうわけじゃないですけど……まぁでも文化みたいなもんか……なんとなく、って感じです」
召使いはこれにまた自失しかけていたが、すぐに我を取り戻し仕事に戻る。
「あっ……申し訳ありません、ご案内いたします」
王の間に向かい歩いている最中、常盤の耳元で真鍋がささやいた。
「なぁ勇、あのメイドさん結構可愛いくね?」
「異世界生活実質1日目の初セリフがそれでいいのかお前は?……まぁ実際可愛いとは思うよ、ただ別にそんだけだな。惚れたりはしない」
「あっそう……なぁ勇、ここって本当に異世界ってのなんだよな?」
真鍋は両手を顔の後ろで組み、天井を見ながら歩いた。
「まぁ、多分な。拉致だとすれば、魔法のある世界なんて言わんだろ。そんなバレバレの嘘」
「そりゃそうだ。……魔法って試した?」
「試す試さないの前に出し方が分からん。他の人もそう変わらんだろーーあのニヤついてる異世界歓喜勢以外は」
そう言ってオタクの方に視線を動かした。確かにニヤつきながら色々と小声で呟いている。
「海斗、一応だけどあいつには気を付けろ」
「気をつける? クラスメイトだろ、何をそんな──」
「多分だけどあいつ、お前のことめちゃめちゃ嫌いだから」
「……了解、用心するよ」
真鍋はもう一度彼に視線を移し、なんとなく理解したようだ。
その時、後ろから霞が2人に話しかけてくる。
「おはよう2人とも! 何の話してたの?」
「あのメイドさん可愛いなって話」
「ちょっ、……いやまぁしてたけどさ」
「ヘェソウナンダ」
「ほらみろ、霞の言葉がおかしくなった(好きな奴が別の子のこと可愛いなんて話してたらむくれもするだろ、ほんとに霞のことが好きならもっと気ぃ使えよ)」
そんなバカ話をしていると、すでに王の間についていた。召使は扉を叩き、返事を促す。
「──どうぞ、お入りください」その声の後、召使は扉に手をかける。
「皆さま、これより先は王の間。どうか失礼のないようお願いいたします。では、いってらっしゃいませ」
召使は扉を開けると、そのすぐそばで立っている。どうやら外で待機のようだ。
「(昨日も思ったが広いなこの部屋。その辺の家と同じくらい面積あるんじゃないか?)」
などと常盤は思いながら足を踏み入れる。そして真正面には椅子に座り、白い髭を蓄えた老人、その椅子の真横で立っている金髪の女性、そして顔立ちは凛としているが目が不安で染まっている赤毛の少女がいた。
「おお! お主らがイルメールの呼んだという勇者たちか! 存分に働いてくれることを期待しているぞ」
ここにいる10名のうち、ほとんどはこう思った。「こいつなんか偉そうだ」と。いや実際偉いのだ、王なのだから。だかそんな文化とはほとんど乖離した世界から来た彼らにとっては、昨日の王女の丁寧な説明も相まって不遜だというイメージは強まるばかりだ。
彼らは王の間の中心に移動する。すると、まずは王女があちら側の説明を始めた。
「おはようございます勇者様方! 早速ですが私達の紹介をいたします。まずはこちら王座に座しているのが私の父にして現国王、グラッソ・アウフェーラです。そして私が第一王女イルメール・アウフェーラ。最後にここにいる赤髪の子がこの国最強の剣士にして騎士団団長、ヴィクタ・ヴァインです!彼女には勇者様方の修行に当たってもらいます」
ヴィクタと呼ばれた彼女は一歩前に出て、挨拶をする。
「ヴィクタ・ヴァインです。至らぬ点などあるでしょうが、よろしくお願いします」
頭を下げる彼女。国内最強の剣士が頭を下げる、それほど勇者というのは敬うべき存在のようだ。ただ1人、そんな気がなさそうなものはいるが。
「では今度は勇者様それぞれのお名前などを教えていただけますか? もし魔法が分かったという方がいらっしゃいましたらそれも一緒にお願いします」
王女のその提案に、全員誰から行くのか?ということですソワソワしていた。これ以上やっていても無駄だと判断した常盤は先陣を切る。一つの選別も兼ねて。
「
最後、わざとクラスメイトに伝わるように話した。特に幼なじみである霞と真鍋には確実に伝わるように。
魔王を倒すというこの言葉に、他のクラスメイトはザワザワし始める。事前に俺が魔王と戦う意志があると知っていた霞と真鍋を除いて。
常盤がこんなことを言った理由は2つ。まずは戦う意志があることを王国側に伝える意味、そして2点目はここにいるクラスメイトの意思を知っておくためだ。そうすれば戦う意志のあるものを重点的に観察できると考えたからだ。観察しておけば、いざというとき連携をとりやすくなる。何も勇者であったとしても個別で行動しろ、なんて要望はないだろう。
そしてそれは霞と真鍋にもしっかりと伝わる。
「なるほどねぇ……おれは
正直勇者でなければ打ち首にされそうなポーズをとる真鍋。その証拠に王の額には青筋が浮かんでいた。召使の「失礼のないよう」という言葉は左耳から抜け落ちたらしい。
「じゃあ次あたしだね。
軽く頭を下げる霞。先ほどの真鍋のあとだからか、王も機嫌が戻ったらしく青筋が消えている。
「はいっ、俺たち3人は全員自己紹介を済ませたわけだが、ほかのみんなはしてくれるのか? 別にここには個人情報を使って何かできる情報技術とかはないだろうし、安心して曝け出してくれ」
しばらく数人は顔を見合わせ相談している。そしてやならければいつまで経っても終わらないと判断した面々は、自己紹介を始めた。
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