自己紹介
異世界に召喚された常盤達は、王や王女、そして自分達を指導してくれるという騎士団長の前でそれぞれ自己紹介をすることになった。
常盤、真鍋、霞はそれぞれ済んでいるため、残り7人の挨拶である。
まずは髪を茶色に染め、ワックスで上げている強面の男。ポケットに手を入れながら話し始める。
「……チッ──
続いては例の異世界に来て歓喜している彼だ。
「おれは
視線を向けられた常盤は理解する。「あ、こいつ浮かれすぎて役になりきったんだな」と。そしてそっと視線を外した。
そして次は巻かれた赤茶色の長い髪を指でくるくるとしているギャルのような少女。肌は真っ白で塗った口紅がとてもよく目立つ。
「
「お、オタくん……ふっ、こ、これだからクソビッチは嫌なんだ。まぁ彼女すら将来的には僕のハーレムに加わるんだし、今回ばかりは目を瞑ってやろう……」
悲しい言い訳のあとは、短めの茶髪で、制服のボタンを開けている青年。因みに真鍋と同じくサッカー部である。
「
まだ命をかけるという意味を本当には理解していない発言に、特にヴィクタは眉間にシワを寄せる。しかし彼はそれに気づかない。
そして次は、金髪にワックスをつけしっかりとおしゃれをしているハーフらしき青年。顔立ちはすごく整っており、目は青い。
「じゃあつぎはこちとらの番かな? こちとらは|瀬川アレックス、日本とアメリカのハーフだぜっ! アレックスじゃ長いからアレクって呼んでくれ! 年は17で趣味はチェスなり! 魔法ってハリポタ的なのだろ? すげぇやってみたい気がする! 魔王はもちろん倒すぜ! ドラクエで倒したことあるし大丈夫だろ!」
明らかにおかしな言葉遣いにギャルである濱崎が静かに突っ込む。
「アレくん言葉遣い変じゃね? 何こちとらって? 聞いたことないんだけど。まぁ日本きたまだ1年だししゃあないけどさ」
「あり? こちとらってちゃうのか? 日本カーテューンではそんな喋り方あったけど?」
「それってこちとら〇〇だぁくらいっしょ? てか本当にそんなキャラっていんのオタくん?」
突然振られた神囿は、完全に気を緩めていたのか素がでる。
「えっ? あ、いやいません」
「だって〜。あと他もぶっちゃけ変だよ。ちゃうのか? とか。まぁ聞いてて面白いから直さなくていいけど」
「ほぇ〜、そうなんやね。ありがとう気をつけるぜ!」
爪を見ながら話しているため、正直本気で話しているのかは分からない。だが言っていること自体は的を当てると皆は思った。
「(もしかしてあれか? オタクにも優しい系ギャルって奴なのだろうか? 本当にいるんだなそんなやつ)」
常盤はそんなどうでもいいことを頭の中で漏らした。
そんなキャラの濃い人のあとに話す可哀想な人は、眼鏡をかけた黒髪で目が隠れるほどの長さをした彼。表情からは不快感が溢れている。
「……
どうやら根暗な性格のようで、正直聞き取りにくい声で話していた。彼の話を聞くため静かになったのが余計にきついように見える。
そんな彼の下に神囿は近づいていき、肩を組んで耳元でささやく。
「おい奥田よぉ、この世界では僕らみたいのが最強だったりするんだよ!お前だって見たことあるだろそういうの」
「あ……あるけど、ぼくはそんな自信は――」
「大丈夫だ! 将来最強の勇者になる僕が保証してやる、お前は僕の右腕になれる!」
「は、はぁ……(それでも右腕なんだ)」
最後は女子だ。青っぽい髪は後ろでポニーテールにし、手にはミサンガをしている。もうすぐ切れそうだ。
「えっと、
その自己紹介の後、本当に小さく濱崎から舌打ちが聞こえる。
「濱崎さん、芽衣のこと嫌い?」
「……別に。ただよくその歳で一人称下の名前で言えるよな〜って思っただけだし。でも好きにしたらいいんじゃない? 個人の自由っつうの?それだから」
永守はこの言動から、男子には変な人気があったが、女子からはものすごく嫌われていた。その代表格が神囿と濱崎である。
正直彼女に興味のない常盤や真鍋は、この光景を引いて見ている。
「勇、あんな女だけはやめとけ。見たかあの「嫌い?」って言った時の表情、まじ怖かったぞ」
「分かってるよ、それに申し訳ないが俺も自分のことを名前で呼ぶ人は苦手だ」
若干ピリついた空気を戻すため、霞は2人の間に割って入る。
「は、濱崎さん、永守さん、一旦落ち着こ、ね? 仮にも王様の前なんだし」
「は〜い!」
「……ごめん」
仲裁に成功し、常盤と真鍋の元に戻る霞の耳元に、永守は一瞬、しかしはっきりとこういった。
「――委員長仕事お疲れ様で〜す」
そう言った彼女の表情は、口元は笑っているものの目は笑っていなかった。
「おつかれ霞」
「大変だなゆあちゃん。今度は勇も手伝ってやったらどうだ?」
「俺が手伝ってなんかなんだよ?面倒くさい空気にするだけだ」
こうして10人全ての勇者が自己紹介を終えた時、王は欠伸をしていた。
「(この人ほんとに俺たちに世界を救って欲しくて呼んだのか? だとしたらこれは……)」
「ご紹介ありがとうございます! (何であんなに長いの……最初の人が長々と言うから……)ではこれからはこちらのヴィクタにより本格的に特訓を――」
その時、常盤がいてもたってもいられず、思いを口に出してしまう。
「あの、その前にいくつかいいですか?」
「はい、何でしょうか?」
「まず勝手に呼んでおいて王様のその態度はいかがなものでしょうか? 確かにお偉いのでしょが俺たちには正直関係ありません」
その言葉に王は眉を潜める。がしかし勇者という立場は相当なものらしく、文句は言ってこない。
「それと、今から全員特訓を始めるって雰囲気になりましたが、戦う意欲のない人はどうするんです? 俺はそのために魔王との戦闘意志を問うたんです。戦いたくのない人は戦わせるべきじゃない」
そう発言すると、まさかの援護射撃が飛んできた。
「……同感だな。無理やりこんなところ連れてきて、命かけて戦えってのが無理な話だっつの。つか大体おれらは帰れんのかよ? 今から帰せ!って怒鳴ったら帰れんのか?」
その声はヤンキーである相良だった。相良の質問に、王者であるイルメールは表情を沈めながらこう答えた。
「……申し訳ありません。この国は今戦力不足でして、
その事実に、相良をはじめ皆が一様に言葉を詰まらせた。事前にこういったシチュエーションを予想していた者達以外は。
「チッ! ってことはおれも魔王討伐手伝わねぇといけねぇじゃねぇか。めんどくせぇな」
「それって女子もですかぁ? 芽衣殺したりなんか出来な〜い」
「大丈夫だよ芽衣ちゃん! 悪しき魔王は僕が1人でも討伐するからね!」
「わぁ〜!頼りになるぅ! ありがとう暁人くん!」
「チッ!」
この自分勝手に話が広がり収集が付かなくなってきている状況を、王女は手を勢いよく叩き意識を強制的に自分たちに戻した。
「──え〜、とりあえずまずはヴィクタに付いて訓練場へと向かっていただけますか? 魔法の基礎から教えてくれるので。お願いね、ヴィクタ」
「……はい、かしこまりました。それでは勇者様方、私についてきてください。とにかく今は全員お願いします」
こうして勇者一行はそれぞれの思いを抱いたまま、ヴィクタに連れられ訓練場へと向かっていった。
その間、王の間では王が面倒臭そうにぼやていた。
「──なんだあの勇者たちは? わたしを立てることもせず不遜な態度で……洗脳魔法とかを混ぜれんかったのか?」
「そうですね……組み込んでおけばよかったでしょうか。(でもまぁ、こっちの方が見てると面白そうね!従順なだけのマウスなんて何も面白味はないし)」
「まぁいい、出来るだけすぐに使えるようにしておけとヴィクタなら伝えておいてくれ。わたしはもう寝る」
「はい、おやすみなさいお父様」
イルメールのみとなった王の間、召喚に使用した本をペラリとめくった。
「帰還方法……ねぇ。そんなの、もう一回召喚魔法使えばいいだけなんだけどね……! まぁそんな大事なこと、教えてあげないけどね!」
うっすらと笑うイルメール。そしてゆっくりと本を閉じた。
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