歴史に刻まれる魔王の戦い

 仮に俺が魔王だとすれば、天使なんてのはラスボスだ。

 ルシファーだってミカエルに殺られてんだし。

 ……殺られたっけ? ゴメン、知ったかぶった。


 なのに、俺はいま更なる敵との戦いに向っている。

 裏ボス戦?

 まさか。


 人はこれを”残業”と呼ぶ。

 俺が一番嫌いな奴。

 クソがマジふざけんな! ファックファックファックファックファアァァアック!!

 ガルルゥ……


 予定通りビリオン達を吹き飛ばし、SINにW,Eシリーズの発進とドランの回収を命じる。マサル達にはドランをさっさと直して貰わねば。


 Wシリーズには荷台を引いてお嬢さんを合流地点まで連れてきて貰った。

 お兄ちゃまが心配でしょうがないんだってさ。

 ブラコンか? 残念だったな、シュテン。


 お嬢さんはバギーの後ろに乗せ変えて出発。

 スズカと共に戦ったマガミ隊とトリィ隊とも合流し、W,E全軍と共にサイズタイドへと向う。


 お嬢さんの顔が青ざめているのは、お兄ちゃまへの心配故か、只の車酔いか。

 前者であることを祈る。

 今のモチベで背中にでも吐かれたら怒りのままに突き落とす自信あるし。




 運転疲れに帰りたくなる衝動を抑え、ひたすらバギーをフルスピードで走らせる。

 鉄道のおかげでスピードは出し放題だ。

 

 機関車で塞ぎ止められた鉄道からバギーを外に出すのにちょっと苦労しつつ、ウェストサイズとサイズタイドを抜ける。

 虎皮共よ、ちゃんと納車しとけや。


 SINがちゃんと連絡入れておいてくれたおかげで通過がスムーズだ。

 途中でシュテン達の所に向うオーガ達とも合流したので、黒騎士達を閉じ込めてあるサイズタイドを守るよう指示した。




 そんなこんなで到着したサイズタイド。

 構わず戦線まで走り抜けてみれば、一応SINから情報はあったがシュテン達がなんとか持ち堪えていた。

 六時間以上の戦闘。

 戦力配置をミスったかな。

 シュテンもヤコウもボロボロだ。


 生きてんだからミスじゃなかったんだろう。


「おぉおおお!」


 いきなり襲いかかって来たHC実験体。

 暗殺者が声を出して襲いかかってくるのはどうなんだろう?

 てか、ヤコウと顔が似ているので紛らわしい。


「シュテン、ヤコウ、下がれ! お嬢さんを頼む」


 ヤコウを間違えて撃っちゃうかもしれない。

 あと、シュテンにはお嬢さんの護衛を頼もう。頑張った部下への御褒美だ。

 この後もう会えなくなるかもしれないし。


 熱線銃で襲いかかって来た実験体の額を撃ち抜き、一応手刀で心臓も貫きつつ指示を出す。

 なまじダメージを与えても復活してくるからね。

 確実にトドメをささなきゃならない。


「オメギス!」


 今殺ったヤツの名前かな?

 一体の襲撃を皮切りに、怒濤の如く襲いかかってくる実験体。


 頭を握りつぶし、ついでに首を折りつつ短剣を奪う。

 次に飛び掛かってきたヤツにカウンターで奪った短剣で胸を突き刺す。

 ソイツを盾にして四体目、五体目の襲撃を防ぎ、蹴りをいれて距離をおく。

 四体目を銃撃で腹を撃ち抜き、その隙に跳びかかってきた五体目の顎を蹴り上げ、喉に短剣を突立てる。

 そのまま地面に釘付けにし、トドメの踏み抜きを突立てたナイフ越しに喰らわせる。

 這いつくばってはいるがまだ動いている盾にした三体目の頭を踏み抜きつつ、四体目が襲いかかってくるのを視界に入れる。

 ヘッドショットで死ぬかどうか確認。

 流石に頭撃ち抜けば死ぬのか。なるほど。


 そういえばこの後ウィンドルームにいるだろうHC実験体共も排除しなきゃいけないんだった。

 熱線銃は節約した方がいいかな。

 さっきの確認が無駄になった。


 後ろから襲いかかって来た実験体を後ろ蹴りで蹴り上げる。

 弧を描いて頭上まで飛んで来たのでキャッチ。

 運の悪いことに手を口の中に突っ込んでしまった……ばっちい。


 折角なので両手を口の中に入れ、顔を上下に引き裂く。

 返り血が臭え……早く風呂に入りたい。


 シェルターを手に入れるまで戦いまくった昔をちょっと思い出す。


「これが……魔王の戦い……」


 見覚えのある赤い髪の冒険者からそんな声が聞こえた。

 俺から言わせればHC実験体との正しい戦い方なのだが、説明している時間とかないよね。

 「俺、またやっちゃいました?」とか言えばウケるだろうか?

 ……やめとこう。スベる未来しか視えない。


 マガミ達も指咥えて見ていたわけではない。

 狼が指咥えられるのかどうか知らんけど。


 俺が七体目の心臓を握り潰したところで他の実験体も片付いていたので、さっさと次の目的地に向う。

 今日は徹夜かもしれない。

 なんかちょっと泣きそうです。




 ウィンドルームへの道のり。

 今までの人生を振り返る。

 転生した。最強にもなった。なのにここ最近俺TUEEEした覚えがない。

 もしかして今俺は本来あるべき俺史上最も正しい行動をしているのかもしれない。


「奴らは何処に?」

「多分、館の地下だろ? 確か獣人共が生産されていた施設があったはずだ」


 考えに水を差す、何故か着いて来たシュテンに返事をする。

 何故かって言うのも無粋か。

 お嬢さんを背に乗せていることから解っている。

 同乗しているヤコウが気まずそうだ。




 別にウィンドルームに行ったからといってやることは変わらない。

 HC実験体のことは冒険者達は知らなかったらしい。

 つまり聖教国はなんとか奴らを国民から隠していたわけだ。

 昔のSATみたいだね。


 人を隠せる場所は限られている。

 なら、いる場所にも見当はつくし、そうそう間違えない。


 こっちはG、Wの合計百体のフル装備。

 街に入ったら住民達が恐怖に逃げていった。

 お騒がせして申し訳ない。

 だが文句は君達の国のお上の方々に言って欲しい。

 あ、もう死んでんのか。


 悲鳴を上げながら逃げ出す住民達を尻目に、館に突入する。

 なんか一丁前に武装した実験隊どもが三百人程おりましたが、圧倒というか、圧殺というか、圧勝というか。

 うん、ただの作業です。

 何か知らんけど折角持ってる銃使わないんだよね。


 俺を殺したかったんじゃないんだろうか?

 ……あ。

 もしかしてコイツ等、俺の顔知らねんじゃね?

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