億と兆

 スズカは何とか勝ったみたいだな。

 彼女を戦場に送るとか彼氏としてどうなの? とは思ったんだが、人材不足って本当にキツいね。


 虎皮共もなんとか勝利したみたいだ。

 正直キツイかなーと思ってたからよかった。


 相手はアンドロイドだ。

 必ず勝利条件を満たす戦い方をしてくる。

 だから前提である勝利条件を如何にぶっ壊すかが俺の勝ち筋だった。


 山田や2号の前で俺は今まで仲間と共闘したことがなかった。

 指示とか出したことはあったけど、基本居候に任せっきりか自分でカタをつけるかのどちらかしかやったことがない。


 今回もそうしようと思ったが、奴らが空で待ち構えていると言うことはドランを撃ち落とす手段を持っていたわけで。

 実はちょっと悩んだんだが、アイツらを頼ることにした。

 信用した?

 いや、他に勝率高める手段がなかっただけです……ホントだよ?


 結果は上々。

 なぜだろう? ちょっと複雑な気分だ。


 さて、スィンから送られて来た速報に一安心といいたいが、まだまだ事態は終わっていない。次の事に集中せねば。


 ここまで追跡してきているんだから、ビリオンが退却することはないだろう。

 ここでとって返しても天使は既に山田一人。

 ラインと同じ要領で撃ち落とされるだけ。

 仲間の勝敗はともかく山田ももう戻れない事は解ってると思う。


 つまり、この戦いは俺VS山田。

 あとシュテン&ヤコウVSHC実験体ズって構図になる。


 はっきり言うとシュテンとヤコウだけでHC実験体の相手は厳しい。

 厳しくないところがないな、オイ。


 街の人達が手伝っても勝ちは拾えないと考えている。

 だってアイツらゾンビみたいに復活してくるし。


 おそらくだけどHC実験体は首斬るか焼くかしないと倒せないと思う。

 ボウガンとかで足止めは出来ても倒すには至らない。

 だからシュテンとヤコウが出来るのは足止め、要は時間稼ぎだけだ。


 つまり俺達がさっさと天使をぶち殺して援軍に向う。

 それができるかどうかがサイズタイド戦の勝敗を分ける。


 あんまりのんびりと事を構えていられない。

 俺のキャラじゃないんだけどね……まあいいや。


 だったらもっと天使達と当たる戦力増強した方がいいんじゃね? って思われるかもしれないが、コイツ等となら戦っても勝てる、と相手が判断しないと足止めにならないというジレンマ。


 そのせいと拠点を守る必要もあって、スズカを窮地に追い込んだのは素直に心苦しい。


 まあ勝ったから良いでしょ。

 ともかく後は俺がさっさとビリオンを片付けなきゃいけないわけだ。


 ビリオンの電磁加速砲はあと一発。

 まさか足にも内蔵してないよね?

 尻から発射したりしたときには絶対に避けねば。

 そんな一撃で死にたくない。


 まあ、まだ内蔵してたら追跡に業を煮やして、あと一発位撃ってると思うからしてないと思おう。


『迎撃位置に到着しました』

「あいよ」


 さて、始めようか。




◇◆◇◆◇


 追跡していた邪竜の如き姿の戦闘機、ドラン。

 邪竜は突如急旋回し、ビリオンにその頭を向けた。


 ふとビリオンに危険信号が点灯する。

 追跡の足を止め警戒する。


 今まで逃げていた者が迎撃態勢をとった。


(この地に何かある? それともハッタリかな?)


 ビリオンがやるべき事は変わらない。

 その身に宿す一撃を、邪竜の頭にふち込む。ただそれだけだ。


 自動照準式大口径熱線砲はガスグレネードに換装されている。

 電磁加速砲はチャージ時間を見極められる。

 気にすべきは熱線バルカンによる弾幕と兆が仕掛けたであろう何か。


 おそらくビリオンの気を逸らす為の何かだ。

 魔王国が対空迎撃兵器を拠点の外に設置したという情報はない。


 万が一の反乱に備えるならば、自身の身に危険を及ぼす兵器を外に置くはずがない。

 故にその何かはビリオンを撃つ決定打になり得ない。


 だが一抹の不安はある。

 既に兆はビリオン達の予想を裏切った。

 仲間に頼らぬはずの敵は、仲間との共闘という形でビリオン達の脅威に立ち向かった。


(何をする気かは知らない。知ったことじゃない)


 自分は墜ちてもいい。

 兆を道連れにできるなら。


(いいさ)


 プロペラでゆっくりと近づいてくるドランの噴射口に火がともる。

 自身の残った片腕にある電磁加速砲を起動させる。


「いくぞ、魔王!」


 背中から炎を吐き散らし、再度魔王に突撃する。


 その行く手を阻むかの如くばらまかれる熱線バルカン。


 限界突破で反応速度を無理矢理引き上げ、銃口の向きから弾道を予測。

 弾幕の隙間に身をねじ込みながら邪竜へと近づいていく。


(さあ、何をする気だい?)


 ビリオンは後の事を考えなくていい。

 ドランが絶対に躱せない距離で、どんな姿勢でもいい。

 今帯電する腕に宿った一撃をぶち込めば、自分は墜落してもいい。


(僕が警戒して近づくのを怖がる。そう思ったかい?)


 右へ左へ。上へ下へ。

 踊るように身を躱す天使と邪竜の距離が徐々に詰まっていく。


 邪竜はそれを嫌がるように自身の喉笛を唸らせる。

 邪竜が撃つ最後の電磁加速砲。


「そんなものが当たるか!」


 砲身の向きから身を避けつつ、それでもビリオンは邪竜へと近づいていく。

 踊るような高速起動で邪竜から放たれる赤い熱線を天使は躱しながら、天使はとうとう回避不能の間合いに邪竜を捉えた。


 もう何が仕掛けられていても関係ない。

 ただ一撃を解き放つのみ。


「そして……これで終わりだ!!」


 引き金を引く。

 それで全てが終わる。


 その瞬間、ボンッと音と共に邪竜の頭が吹き飛んだ。


(!?……緊急脱出!?) 


 空中に吹き飛ばされた兆。

 一瞬の躊躇。


 その間に兆はすばやくパイロットシートのシートベルトを外すと同時にパラシュートを切り離し、重力に逆らえなくなったパイロットシートをビリオンに向って蹴り飛ばした。


 重力加速砲の鉄杭は決して大きくはない。


 パイロットシート越しに兆を撃ち抜く威力はあるが、弾道が逸れる恐れがある。

 既にビリオンと兆の間にあるパイロットシート。

 刹那ビリオンは迷った。

 迷ってしまった。


 まだ邪竜はその息吹を解放していない。

 例え主が脱したといえど、邪竜はスィンの制御の下、電磁加速砲でまだビリオンを狙っていたというのに。


 大地を揺るがすような轟音。

 空を引き裂く一撃がビリオンの傍らを突き抜ける。


「ぎぃっ!!」


 その息吹が生み出す衝撃はビリオンを捉えはせずとも、体勢を崩すには充分だった。


 ビリオンの狙いは兆から外れた。

 一方兆は・・・・・・


「まおおおおおおおう!!」


 重力に任せ落下しながらも、正確に熱線銃でビリオンを捉えていた。

 発射音は2発。


 頭と心臓を撃ち抜かれた天使は、力なく大地へと墜ちていった。



 ……



 ビリオンは大地に墜ちてもまだ意識を保っていた。

 とはいえ、もう回路を撃ち抜かれた身体は動かず、エネルギーポンプを撃ち抜かれた以上、後はこのまま消えるだけの命ではあったが。


 墜ちたビリオンはその視界にあるものを捉えた。

 AWAKEN SHEEP。

 兆が使うバギーだ。


 ビリオンは兆がこの場所を選らんだ理由を察した。

 そしてこの戦の結果もまた。


(なのに何故僕は……安らぎを感じて……)


 望まぬ望みを植え付けられ、生きることなく生かされる。

 そんな日々への終止符。

 億長にとって、死とは束縛からの解放だったのかもしれない。


(ごめん。父さん)


 果たせず思い残す念を抱えて、


(今……行くよ、母さん)


 意識を閉じる前、億長の最後の望みはしかし仇敵への呪いではない。

 あるかも解らぬ死後の世界での、愛する家族との再会だった。

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