追跡の翼

「ふー。ひとまず一人。

 天使の単位が人でいいのか知らんけど」


 結構危なかったと思う。

 腕に電磁加速砲仕込むとか人間だったら正気を疑うよね。

 撃った瞬間、反動で腕が吹き飛んでたし。


 自分の命を二の次におけるアンドロイドだから出来る捨て身技だ。

 何で腕に仕込んだよ?

 銃持たせればよかったんと違いますのん?


 ……外付けじゃバッテリーが重くて無理か。

 羽で飛んでんだしな。


 構想自体は悪くはなかったと言わざるを得ない。

 あれがまともに当たってたらドランがヤバかったしね。


 戦闘機であるドランは空飛ぶ都合上、重量を増やすと遅くなるから装甲は戦車ほどに厚くない。

 戦車でもヤバかったろうけどね。

 カスタムすれば厚く出来たけどしなくてよかった。


 四体でなら勝てる! って待ち構えているんだから、一体減らせば後は余裕じゃね? なんて高を括っていた。

 奇策が通じて、当初の予定通り一体殺れたけど、うん、三体でもまだこっちの分が悪いんじゃなかろうか?

 まだまだ油断は出来ませんな。


 という事で一匹一匹ちまちま潰すしかないらしい。

 

 今まで否定してきたが、今回に関しては自分が魔王だと言われてもしゃーないかと思っている。

 天使を民衆の前で撃ち殺すとか、悪魔しかやらんよね。


 とはいえそんなこと理由に、ためらってる場合じゃないんだよね。

 こっちにも守らなきゃならんものがある。


 彼等の立場に同情しないわけじゃない。


 流石に俺の中のアンドロイドもスィンも今回に関しては諦めたらしい。

 今まで疑うこともさせて貰えなかったが、今なら解る。

 俺には既に俺の分身がいるらしい。


 いや、全く思い入れはないんだけどね。


 なんだろう。

 全く身に覚えがないのに「あなたの子よ、認知して」って言われてる感。

 はっきり言うと他人事。

 遺伝子検査でもなんでも受けますよ弁護士さん。だから裁判ではよろしくおなしゃす。

 あ、遺伝子検査されたら負けんのか。俺のクローンだし。


 うん、とにかくそんな感じ。

 ただ、全く気にならないわけでもなく……


 まあ、そいつの事は後にしよう。

 ウチにスズカや居候達がいる以上、何にせよ、シェルターは守りたい。


 ならアイツらは“敵”だ。


 “罪人”は過去の犠牲に目をつぶれば許すことは出来る。

 相手の境遇に同情し、自分の払った代償を我慢できるなら、罪だけを憎んで人を憎まないことも、どこぞの聖人とかなら出来るのかもしれない。

 いや、その相手ってやつが自称聖人だったりするんだけども。


 “敵”に何もしなければ、今の犠牲を強いられる。

 犠牲に払う対価が絶対に失いたくないものなら、相手の境遇なんぞ関係ない。

 想いも理想も正義も大義も、聞いてやるだけ時間の無駄だ。

 やるべきことは抵抗して退ける。それだけなのだから。


 奴らの狙いが俺であれ、俺の卵であれ、負けたらスズカも居候達もヤバそうだし、なにより俺は死にたくない。

 だから俺を狙う奴らを、スズカと居候の居場所を脅かす奴らを、俺は撃つ。


 撃つと決めたら躊躇はしない。

 冷静に冷徹に冷酷に。

 やるべき事をやり、成すべき事を成すだけだ。


「なあ、山田。お前もそうだろ?」


 後ろから追っかけてくる三体の天使。


 背中から炎を吐いてドランのスピードに何とかついて来ている。

 ブースト機構がアンダーファイアと同じ原理なら、奴ら自体が燃え上がりそうなものだが、その為の金属装甲かな?

 電磁加速砲発射時感電しないって事は腕も電導遮断されてる訳だから、うん、ピッタさん相当いじり回したね。


 もしかしたら後ろから撃ってくるかと思って警戒したけど、腕一本犠牲にするとなれば電磁加速砲も撃ち難いみたいだ。

 確実に当たると思えるところで撃ちたいだろうから、その点ではアイツらの設計仕様に感謝だ。




 さて、正直追っかけてくるかどうかは半々で考えていた。

 追っかけて来なかったら、また戻って一匹一匹潰すしかない。

 

「ちょっと難しいかなーとか思っちゃったけどな」


 あと五本も腕がある。

 一発当たるだけでアウト。難易度ハード過ぎない?

 TAS搭載の身で言うのも気が引けるんだけど。


「ごめんね。

 熱いラブコールをふっちゃって」


 半々で考えていたのだから当然追っかけてきたときの対処法も考えている。

 というか、追ってきてくれてよかった。


「頼むぞ、オーガ」




◇◆◇◆◇


「父上、来ました!!」

「御苦労、ヒューガ。

 皆聞いたな! 行くぞ!」

「「「「「「おう!」」」」」」 「ガウ!」


 西の空に映る影。

 それは虎狩りの民の主、兆の姿。

 そして、その後方に三体の影。


「天使といえど空飛ぶ獣に変わりはない。

 我らは狩人。

 空飛ぶ獲物など腐る程仕留めてきた」


 イーストサイズから東へと向う鉄道の上を通る主が飛び去る姿を見送りながら、陸の覇者ベヒモスが蒸気を噴きながら動き出す。


 アンダーファイアによって加速し、一気に最高速まで達したベヒモス。

 その屋根に足をかけ、整列するように立つ虎狩りの民達の精鋭は30人。


「着火! 構えよ!」


 矢に着いた導火線に火を点け、すぐさま引き絞られる弓。


「テェッ!」


 放たれた矢は狙い通り、龍を追いかける天使達の前で炎を上げた。


「何よ!?」


 炎上トマト果汁を先端に仕込んだ炎の矢。

 空中に突如現われた炎に前方を覆われ、道を塞がれたウィシアは、動きを止めた。


「構うな! 狙いは魔王ただ……!?

 ウィシア、避けろ!」


 その瞬間を狙って前方から放たれた電磁加速砲。


「きゃああああ!」


 ビリオンの声に反応し、ウィシアは限界突破で何とか身を躱すも、弾丸はウィシアの翼をかすめた。

 破損する翼。バランスを崩す身体。


 飛べないわけではないが、ビリオン達について行くのは難しくなった。


 このまま追えば、足手まとい。

 回復を待ち、魔王を逃すわけにもいかない。

 そう考えたのだろう。


「行って! ビリオン!

 私はこの虫けら共を片付ける!」

「……解った。任せるよ」


 ウィシアの矛先はベヒモスの天井に構える虎狩りの民へと向けられた。

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