魔王軍の作戦会議

「急に集まって貰ってすまない。

 集まって貰った理由は他でもない。

 聖教国聖都に飛行型の魔人……ここでは便宜上天使と呼ぶが。

 天使が現われた」


 3000歳にもなって天使とかメルヘンな言葉を吐くのは地味に辛い。


「スィン、モニターに例の映像を」

『承知しました』


 会議室にあるデカいモニターに聖教国の上空を旋回する四体の天使が映される。

 集まった者達が息を飲むのが伝わってきた。


「何……これ……」


 お嬢さんに至っては顔が真っ青だ。

 天使なんて読んでるが、メタリックなボディに凶悪な爪。

 禍々しさしか感じないその姿は、俯瞰的に見られる感性があればそれだけで悪役だ。聖教国の皆様は一度レーシックとかやった方が良い。


「80年前、ウィンドルームとウチに現われた魔人は覚えているな?

 スィン。2号の変身後の画像を映してくれ」

『はい、マスター』


 モニターに今度は魔人の姿が映される。

 その姿は明らかに天使と酷似していた。


 この数日でお嬢さんも魔人がウチに現れた事をスズカに聞いていたようだ。

 来た頃なら「嘘だ!」と騒ぎ立てたかもしてないが、今は何も言わず静観を保っている。


「これを見て天使と魔人が同類だと考えない理由もない。

 オーガ、もう一度状況の説明を頼む」

『はっ、報告致します』


 画面の左下に小さくオーガの顔が映され、映像はまたも聖教国のものへ。


『これは聖教国の食道楽の店員が早馬を飛ばして送ってきたものです。

 聖教国では千年祭なる祭りを開催しており、その開会宣言で天使が現われました。

 映像を見て解るとおり、聖人ピッタがどうやら彼奴らを召喚したようですが、何が起きたのか……見ての通り天使によって胸を貫かれ--』

「お兄様!!」


 オーガの報告はお嬢さんの叫びで遮られる。

 やっぱり兄ちゃんだったか。

 あの高さからゴミのように払われて、綺麗に放物線を描いて飛んでいったもんな。


「落ち着いて。

 オーガさん、先ほど壇上で薙ぎ払われた勇者さんの容態は解るかしら?」

『不明です。

 急ぎ確認致しますか?』

「お願い。

 ミレニア、気持ちはわかるけど落ち着くの。

 お兄さんはきっと大丈夫だから……」


 勇者なら即死さえしていなければ回復魔法で治癒できる。

 勇者の身体強度を考えるに、全身骨折や脳内出血位したかもしれないが、なんだかんだで死んじゃいないだろう。

 多分ね。

 まあ、正直死んでても俺は困らないが。


「オーガ、続けてくれ」

『はっ。

 天使はピッタの胸を貫いた後、聖教国の上空を旋回。

 その目的は不明です。

 聖都の民は現在衛星都市に避難しており、天使による被害は今のところ……』

「解った。ありがとう」


 さて、勿体ぶっていても仕方ない。

 急な事態に戸惑っている参加者に彼等の正体と目的を明かしてしまおう。


「スィン、先ほどの映像の音声を大きくしてくれ。

 ピッタが名を呼ぶシーンだ」

『承知しました』

『ビリ……オ……』

「トキ……これって……」


 スズカが気付いたらしい。

 シュテンも言葉こそ発しないが気付いてはいるようだ。

 ヤコウは……なんも考えてないな。


「魔人の正体が2号だったんだから、中身は聖人だと思って良いだろう。

 つまり、奴はビリオンだ」

「そんな……ッ!」


 お嬢さんは頭がパンクしている様だ。

 まあ、聖人が聖人をっちゃいました、なんて聖教国民なら信じたかないだろうが、当のピッタ様が直々に言っているのだから疑いようもないだろう。


「となると他の3体の正体も見当が付く。

 七聖人は五人しかいなかったんだからルナ、ウィシア、ラインってとこだろう。

 そう考えると2号の正体はヨハンだったのか? んー……まあ、いいや」


 仮に会うこともなく死んでいたどこぞの馬の骨が復活したからとて、俺視点では何のドラマもない。

 それより現状の問題に集中しよう。


「正体から推察するに、おそらく天使の目的は俺だろう」

「そうね」

「うむ? どういうことだ?」


 アンドロイドであるスズカを覗いて、この点は疑問らしい。


「約500年前、聖教国内で聖人戦争が起きたことは知っているな?

 その結果ピッタが勝者となり、山田……つまりビリオンは姿を消し、天使として生まれ変わった。

 詳しく言うと長くなるので省略するが、主と決めたものの命令がない限り、聖人は自身を変えようなどとはしない。これは言い切れる」


 一応俺達を純粋な生物だと思っている連中に原則の話をしても通じないからね。

 困ったもんだ。


「間違いないわ。

 言いたくないけれど、元聖人の私が保証します」

「ふむ、そういうものなのか」

「そういうもんなんだ」


 納得してくれ。


「ならばビリオン達をあのような姿に変えた主は誰だ?

 当然ピッタだ。だがピッタは殺された。本来これはあり得ない。

 これも聖人達の性質、として捉えて欲しい」


 シュテンが再度スズカを見る。


「間違いないわ」

「ふむ……」


 人として考えれば聖人だって裏切るんじゃね? って思うだろうな。

 納得出来ない顔で、でもスズカが頷いているので、シュテンもそう思おうと割り切ったようだ。


「説明できる理由は2つ。

 1つ目は正直考えにくいんだが……魔人化することで2号同様暴走した。

 それで原則を破れるものなのかは謎だが、とにかく主を失った奴らは自分を守ることを最優先に行動する。

 この場合、天使間で戦いが起きるはずだが、それがないのだから、やはりもう一つの理由なんだろう」


 整理の為に言ったつもりだが、通じてないだろうな……


「2つ目はピッタに変わる主が現われた。

 ピッタに成り代われる者……おそらく……」

「クローンね」

「ああ。

 そしてビリオン達はピッタをクローンの敵として認識した」

「どういうことだ?」


 シュテンの頭もパンクしたらしい。

 まあ、解れって言うのは酷だろうなーと思って話してはいるけど。


「今のピッタより第二のピッタを優先したってことさ」

「第二のピッタ?」

「ああ。

 といってもまだ細胞レベルで培養槽の中だろうけど……

 いや、忘れてくれ。

 とにかく、天使達は別の誰かを守るべく今聖教国の空を旋回しているってわけだ」

「……ふむ……」


 まあ、大事なのは理由じゃない。

 これから何が起きるかだ。


「守るという行為が、空を旋回であるということは、詰まるところ奴らが警戒しているのは?」

「……邪竜……トキ殿か」

「そういうこと」


 奴らの心理はともかく行動から目的を察することは出来る。

 最初からこう説明すれば良かったか?


「この状況が伝われば、俺が攻めてくる。

 そう思っているのだろう。

 つまり、邪竜の戦闘能力を分析し、四体なら勝てると予測したってことだ。

 敗北すると思っているなら主を抱えて逃げるだろうしな」

「そうね……となると、トキは行くわけにはいかないわね」

「とはいえ放っておけば奴らはこっちに攻めてくる。

 おそらく、HC実験体を率いてな」


 HC実験体はMINDWEDGEで欲望をコントロールされている。

 事前に天使に着いていくよう指示されていれば、天使がどんなに得体が知れなくても着いていくだろう。


「使える齣、全部使ってんだ。

 ピッタはこの戦いを決着に選んだはずだ。

 となれば総力を出すのは当然。

 HC実験体が出てくるなら黒騎士達は護りに使えん」


 いつぞやのシミュレーションを思いだす。

 そういえば、まだリヴァイアサンは完成してないな。


「四体で勝てるってんなら分散させりゃいい。

 こっちの齣は何も邪竜だけじゃねえんだ」


 向こうにHC実験体がいるように、こっちにも居候達がいる。

 むざむざ後れを取る気はない。


「というわけで、これから言うことをよく頭に叩き込んでくれ」


 向こうが総力を挙げてくるっているなら、こっちもそうしよう。

 こうして、西暦5000年に相応しいビッグでクソッタレなイベントが始まった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る