聖教国の異変
お嬢さんはスズカとシュテンに任せるとして、冒険者達に関して。
お嬢さんが職と住処を見つけた時点で御役御免らしい。
依頼主に状況説明が必要とのことで、一週間程お嬢さんの護衛という名目で滞在していたが、心配なしと判断したらしい。
聖教国ではトップクラスの三つ星レストランである食道楽級の料理が、こっちじゃ只の家庭料理だって事に随分ショックを受けたようだから、ここの生活に慣れると大変だと考えた可能性もあるが。
ウチの庭では子供達が遊んでいる。
子供達が笑顔でいられる場所。それだけで安心できるのが人ってものだ。
「オーガ、無事送ってやってくれ」
「はっ」「ガウ」
冒険者達は列車でサイズタイドへ。
別れも済ませたらしく、目に涙を浮かべながらお嬢さんは冒険者達を見送っていた。
「こっちの状況が少しでも聖教国に伝わってくれるといいんだけど」
「無理じゃね?」
この一週間ミレニアに着きっきりのスズカはお疲れだ。
聖教国の情報ねつ造が思っている以上に酷いそうで。
嫌々ではあったが、スズカはミレニアに元リンディアさんだとカミングアウトしたらしい。当時の頭割られた動画見せたりして。
最初は聞く耳持たずだったお嬢さんも、証拠が揃っていると流石に何も言い返せないよね。
おかげで勇者に選ばれたお兄様とやらの、未来の仇って見方も変わってきているようで。
世間知らずの嬢ちゃん一人が喚いたところで大した問題にならんから、別に誤解が解けなきゃ解けないでもいいんだけど。
「やっぱ事件を期待するもんじゃねえな。平穏が一番」
「そうね。それもフラグっぽいけど」
「……」
スズカさん疲れてちょっとご機嫌斜めかな?
『サイズタイドより緊急入電。
エリア住人、個体名称オーガ』
「ん?」
オーガからの緊急入電。
嫌な予感がする。
多分列車のトラブル関係。
久々にどこぞの街でも轢き潰しやがったのだろうか、あのバカタレ共は。
「こちらトキ。
今度は何しやがったんじゃい、ゴルァ!?」
『こちらオー……え!?
いや、トキ様。食道楽より至急耳に入れたいことがあると言われて……』
あれ? 予想が外れた。
「ゴホン。
それでオーガ君、何があったんだい?」
『聖教国で異変との報告があったようです。
情報の発信者は聖都のセンチュリア……確か貴族と間諜の間に生まれた娘ですな』
「異変とは?」
『はっ。それがその……』
ゴツいマッスルおじさんにモジモジされても迷惑だ。
「何が恥ずかしいのか解らんが言うてみ?」
『それが、天使が……聖都に天使が現われたと』
とうとう本当にダメな薬に手をつけたかな?
あ、でも連絡元は食道楽か。
『動画を預かっております。
転送致します』
「おう。スィン、再生頼む」
『承知しました』
意味がわからんがひとまず動画があるなら見るとしよう。
これで食道楽の店員がコスプレ始めました、とかだったらどうすっかな……
「え!? ……マジで!?」
動画に映った天使はそんな可愛いものではなかったが。
いつぞやの魔人を思わせる姿に、純白の翼を持ち空飛ぶ。
天使と言えば天使か。
『今こそ約束の時!』
仰々しくオッサン、てかピッタじゃんこれ。
食道楽からの画像で見たことある。
そのピッタが高所恐怖症には辛い高さの壇上で、なんか叫んでる。
『勇者ラスティスに力を与えたまえ!』
お、天使降りてきた。
『今、勇者ラスティスは力を与えられた!』
嘘くさ……さすがカルト国家。
演劇でももうちょっとマシな演出するんじゃね?
『ガブッ!』
へ?
『ビリ……オ……』
ビリオンつった今?
まあ、2号が魔人になるんだから億長が天使になっても不思議じゃないか?
いや、不思議だね、うん。
で、なんでピッタ刺しちゃったの?
そんなに身体も心も尖ってなかったよね山田君。
『な、何をグウッ!!』
とばっちりで吹き飛ばされるラスティスとかいう若造。
勇者とか言われてたな。
あ、これがお嬢さんの兄貴か。
なんかそう思って見ると似てるね。
『ご覧頂けましたでしょうか?』
「どっきり映像じゃなさそうだな」
ところでファンタジー世界の天使って、分類するとUFOとUMAどっちなのだろう?
生物だったらUMAなんだけど、生物に該当するのかね。
『あれは、その……』
「敵だね」
俺の中のアンドロイドがそう言っている。
なんでか知らんがコイツらは敵だと確信している。
確かに味方には見えないが。
『如何致しましょう?』
「監視は?」
『食道楽が継続しております。
天使達は現在聖都の上を旋回しているそうです』
「多分待ってんだろ」
『待っている? 何を?』
「俺」
俺が攻め入るのを警戒し、迎撃するべく警戒している。
それが旋回している理由だろう。
「作戦会議だ。
オーガはサイズタイドで待機。
テレビ会議になるから、部屋と通信器機一式は領主に言って確保。
会議は準備ができ次第行う。
いつでも連絡に出れるようにしておいてくれ」
『はっ』
「スィン、スズカとシュテン、ヤコウを集めろ。
場所は会議室。
あー、あのお嬢さんも呼ぶようにスズカに伝えてくれ。
ここじゃ聖教国内部に一番詳しいからな」
『承知しました』
スズカの言うとおり本当にフラグになったな。
お嬢さんがミジンコに見える位、厄介で面倒なことになる。
人間としての予感も、アンドロイドの分析もそう言っていた。
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