公爵令嬢の身の上

「……ハジメマシテ?」


 お客さんが来たとなれば、家主として迎えねばなるまい。

 ひとまず温泉宿に入って貰った令嬢ご一行。


 貴族との挨拶とか実際どうして良いか解らんよ。

 まあ、所詮聖教国の肩書きなんだから俺が気にする必要もないのだろうが。

 それを抜きにしても三千歳近くの爺さんに十代女子と話せとかハードル高すぎる。

 何を話題にして良いのやら。


 ちなみに2号の件もあってか、シュテンが護衛として隣にいるが、シュテンの本当の目的は違うんじゃないかなって勘繰ってる。


「サンライズ聖教国公爵パレスの娘、ミレニアと申します」


 ご丁寧な自己紹介痛み入るが、聖教国の貴族の名前とか重要性とかあんまり知らないから「ふーん」っていうしかない。

 聖教国の情勢とか一応入って来てるんだけどね。

 スィンにまとめさせて、自分の記憶からは消してる。

 メモリもったいないから。

 外国の政権なんぞ、覚えるのは大統領の名前くらいでいいでしょ。


「アタイ達は冒険者のルヴィ。

 このお嬢さんの護衛です。

 コイツ等はアタイの仲間で、こっちからサフィラス、トーパス、エメラダでございますよ」


 赤髪の冒険者……鉄板だね。

 冷静に考えて、人間の髪が真っ赤な時点で俺的には充分ファンタジーだ。

 獣人を俺が見るのは初めてだが、やっぱり人間の耳の部分は髪で隠れてる。

 あとはドワーフとエルフか……ふと思ったけど、日本でこいつら見飽きてる自分もどうなの?


「ミレニア嬢はとある事情で家を追い出されたそうだ。職を探してここに来た」

「令嬢が実家にザマァか。定番だな」

「違います!」


 おや?


「父は……父は私を守る為に……」

「……どゆこと?」

「詳細は聞いていない。だが実家にはもう戻れないと言っていたのを聞いてな。多分そうじゃないかと……」


 シュテン。お前が持ってるラノベ後で全部没収な。

 光の書をうらやましがるから、タブレットを渡していくつかインストールしてやったらこれだ。


「あー、じゃあ何があったんだ?」

「兄が……兄が勇者に選ばれました」


 勇者しんにゅうしゃいん

 エスカレーター式で就職先が決まる、人によってはうらやましさ満載のご身分だ。

 彼女をヤコウにNTRされちゃうって難点はあるけど。


「それを知った母は兄を返すよう教会に掛け合い……異端者の烙印を押されました……

 父はこのままでは私の身も危ないと……」


 つまりザマァの送り先は教会か?

 まあウチじゃないならどこでもいいけど。


「それで、職探しだっけ?」

「兄は!」


 質問には答えようよ。反抗期か?


「兄は優しい人でした……責任感に溢れ、苦しいときも笑いかけてくれて……」


 急に泣きながら身内自慢されても迷惑なのだが……


「トキ殿」

「ん?」

「聖教国では、勇者は皆サイズタイドで戦死したと伝わっているのだ」

「そうだっけ? そらまたデマがひでえな」

「だからこのままではこの娘も母親も、その兄の命がと考えたのだろう」


 なるほど。

 自分のメンタルを守る為、消してる記憶がこういうときアダになるのね。


「誤解も甚だしいが、だったら文句はサイズタイドに言ってくれないかな?」

「いや、聖教国はサイズタイドを魔王国の一部と見なしているのでな」

「……そだったね」


 お嬢さん的に俺はお兄ちゃんの未来の仇か。

 ザマァの前払いとか、聞いたことないんだが。


「まあ、勇者に選ばれたんなら、もうすぐ来るだろ。

 頃合い見計らってサイズタイドに一度連れてってやってくれ」

「うむ。承知した」


 ……ついシュテンに頼んじゃったけど、シュテンとこのお嬢さんを二人きりにして良いのだろうか?

 もう警察なんていないし、いっか。


「あれ? 雪崩式にウチに住むこと決まってない?」

「問題はなかろう」


 シュテンがほくほく顔だ。

 謀ったな貴様?

 まあ機械ボディの此奴には三本目の脚がない。

 手を出したくても出せなかろうし、放っておこう。


「で、職探しだっけ?」

「……」


 お嬢さんが泣き顔でキョトンとしてる。

 就職面接で泣いて質問無視。普通不採用だよね?


「あー、魔王様?」

「……返事しなきゃダメかな」

「え?」

「そういえば名乗ってなかったけど、吉備津兆ね。吉備津でも兆でも良いけど、どの変な呼び方はやめようか」

「え? あ? えーと、じゃあキビツ様?」

「何?」


 お嬢さんの代わって赤髪冒険者ルヴィが発言する。

 気まずい沈黙が下りたとき、こういう人いると助かるよね。


「その……お嬢さんのお兄様は……」

「言っても信じないだろうけど、多分サイズタイドで黒騎士に就職することになるだろうね」

「それは……どういう……?」

「歴代の勇者って名乗る奴らは、皆サイズタイドで黒騎士になってると言ってるんだけど」

「……はい?」


 難しい言葉は使ってないと思うんだけど。

 信じろとは言わないが、理解ぐらいして貰えないものかね。


「まあ、詳しく話すと長くなるから後で」


 スズカにでも押しつけよう。


「で、職探しだったよね」

「ミレニア嬢は教師になるのが夢だったらしい」

「そら丁度良い」


 シュテンと話した方話が進むな。

 スズカ案件と割り切った以上、俺から話すことはあんまりない。

 シュテンにここは任せて、後で報告させればいっか。


「住居とかの手配は任せていいな?」

「承った」


 シュテンに気を使って追い出すって選択肢を考えなかったが、まあ戦力的に害になることはないだろう。

 シュテンと、念のためスィンに一応RAPPIDで監視させておいて、もしもの時は居候達に任せる方向で。


 逃げ出すように宿から出た自分に気付く。

 やっぱ女学生との会話はハードル高いわ……



◇◆◇◆◇


『随分と明るいね』

『夜だとは思えん』

『あれはエルフ?』

『エメラダ、アンタの同族があんなに』

『ドワーフもいるぞ』


 夜シュテンが御庭を案内すると言っていたので、会話を聞いてみた。

 ノリが修学旅行だ。


『見て! 怪鳥が飛んでる』

『あどこにいるのは魔狼か』

『巨猿も……絵画に描かれているのは全て本当だった……』

『それじゃあ、あのスズカって女も……』

『地獄の大淫婦スズカ……普段は人のように振る舞っているが、その正体は下半身が蛇の魔女』

『間違いないだろう……さっきの噴水を見たか?』


「スィン、もういい」


 後ろからすっごい怒気を感じる。


「徹底的な教育が必要なようね……」


 スズカ……いや、何も言うまい。

 聞いてるとスズカや、オーガ、シュテン、ヤコウは俺以上に頭の温かい渾名をつけられていた。


 しかし、地獄の大淫婦か……。

 後半部分、若干否定できねえんだよな……。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る