悪役令嬢の到着
西暦5000年……5000年て。
人間だったら途方もない長さに聞こえるんだろうけど、俺その半分以上生きてんだよね。
大半がシェルターの中だけど。
よく飽きずに生きているものだと我ながら感心する。
記憶を消したりとかして自己防衛していても、普通なら自殺する長さじゃないだろうか?
それもこれも原則のおかげ。
良くも悪くも原則様々だ。
人には刺激が必要だ。
アンドロイドだって必要……とは言わないが、あった方がいい。
勿論命の危機を感じない程よい刺激が。
「だったらマサルちゃん達を手伝ったら?」
「却下で」
仕事する位なら何もなくて良いけどね。
マサル達はリヴァイアサンの建造に着手している。
すでにほぼほぼ形になっており、その気になればいつでも出航出来る。
念入りに最終調整をやっているだけで、現在の仕事内容は地味の一言。
はっきり言うと手伝ってもつまんない。
好きか嫌いかで仕事を選べる御身分だ。
人間社会でこんなやついたらヘイトを集めるだけだろうけれど、今の俺は魔王様。
何やったってアンチ君達から文句言われる動画主みたいなもんだ。
ヘイト上等。
やりたいことで生きていくんだ。
稼ぐ必要もないんだけど。
まあ、今はやりたいことってヤツすらもない。
スズカとベッドであれこれする位?
ものづくり? もう飽きたよ。
「何か事件でも起きねえかな……」
俺に危険も面倒もない範囲で。
「また変なフラグ立てようとするんだから……」
常に事件に巻き込まれる御都合主義系主人公じゃない俺の人生は大半が平穏だ。
今までそれなりに事件があったが3000年近く生きてりゃ事件の一つ二つ起きない方がおかしいわけで。
虎皮やシュテンが住み着いた頃が懐かしい。
御庭に居候が増えるのはノーセンキューだが、俺に危険も面倒もないって意味では、あれ位の出来事があると酒の肴にはなる。
サイズタイド含む各拠点は現状回線が繋がっており、その気になれば各拠点を一日中覗いてられる。
ウチに関係ないところ……そうだなー。
サイズタイド当たりで追放された冒険者とかが領主にでもザマァしてくれないだろうか?
拠点もウチの御庭もサイズタイドも、何もしなくても勝手に文明成長している今日この頃。
折角回線が繋がったというのに言うべき事が何もない。
あったら言うのかと聞かれると言葉に詰まるが。
いや、まあ俺自身が望んだ形でもあるのだが。
この地に住む新しい人々は、前時代の人類のように自分たちで進む道を決めている。
俺の干渉する余地がない世の中。
俺が只俺という個人でしかない世の中。
かつてリンディアさんに言った言葉を思い出す。
世界の在り方に正しいも何もない。
何が正しいかなんて俺個人が決めることじゃない。
なのに結局、身を守る為というか、俺の都合のためというか。
この世界に生きる人々の進む方向性に関与してしまった感がある。
結局、俺には大きな影響力を持つってことがストレスでしかないのだろう。
だが自身が望まぬとも世に影響を与える存在というのは在るもので。
「考えたら魔王って大変だよな」
「どうして?」
「封印されて、何も出来ないのにヘイト集めて、いざ目覚めたら勇者パーティーとかいう不法侵入者に集団リンチされんだぜ」
「……まあ、そういう物語もあるわよね」
あれも有名税というヤツだろうかね?
イヤだイヤだ。
『マスター、緊急入電です』
「どこから?」
『場所はサイズタイド。個体名シュテンからです』
「……」
事件が起きて欲しいと言っていたが本当に起きるとただただイヤ。
この気持ちを解って貰えるだろうか?
しかもシュテンが俺宛に連絡を寄こしたということは、俺の裁量が必要な案件なわけで。
つまり俺に少なくとも面倒がかかるということだ。
「スルーでいい?」
「フラグ立てたのは自分でしょ?」
ですよねー。
「繋いでくれ」
『承知しました』
……
『こちらシュテン。こちらシュテン。聞こえるか?』
「ああ、まことに遺憾ながら」
少し間をおいて出たシュテンの声の感じは、そこまで重い案件じゃなさそうだ。
長い付き合いだからね。
声でテンションとか諸々解る訳よ。
『そちらに招きたい客人がいる』
「どちらさんよ?」
『聖教国の学生とその護衛達だ。大分前だが要望があったと思うが……』
言ったことあったね。そういえば。
『こちらに来るまでは大等学部に通っていたらしい』
小中高大と並べると高だけ違和感感じるよね。
聖教国も同じ感性だったのか学校は小等、中等、大等学部の三つに分けているらしい。
大等学部って事はそれなりに裕福なところのお子ちゃまのはずだ。
「へー。どこから拉致ってきたんだ?」
『拉致はしておらん』
「じゃあ、なんでそんなんがサイズタイドに転がってたんだ?」
言うには言ったが実際に出てくると思ってたわけじゃない。
『どうやら教会絡みで聖教国を追放されたようだ。公爵令嬢だそうだが』
ウチに来ちゃったよ。
ザマァとか欲しくねえぞ? 俺マゾじゃないし。
追放されたってことは悪役令嬢か?
なんか属性だけでお腹いっぱいだな。
なんとなくスズカを見ると聞こえてたらしく、「あら、ラッキー」って顔してる。
自分で言った手前却下とも言いにくい。
「よくそんな都合良い……のか悪いのか解らんが、見っけてきたね。
あー……解った。
お前も一緒に戻るのか?」
『ああ。サイズタイドでの用は済んだからな』
◇◆◇◆◇
列車の到着がスィンから報されたから、列車ホームのカメラ映像を見てみると、通称ベヒモスが到着し、人が下りてきた。
シュテンの言っていた奴らだろう。
見慣れないヤツが5人。
「シュテンが見つけられた理由が解ったわ」
「……そっくりね」
シュテンが書いたソーンの顔に一人そっくりなのがいる。
「約1000歳の爺さんと10代の少女か……犯罪だな」
「いつかシュテンさんに斬られるわよ?」
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