発展し続ける拠点の今

 人間時代の日本で、皮膚が真っ黒で爪が伸びきった筋肉ムキムキのオッサンが歩いていたらすぐに警察に通報され、マスコミのカメラに晒されていただろう。

 なんてったって目立つし。


 昔侍にあこがれた外国人が日本刀……多分模擬刀かな? 持って路上で立っていたら、やっぱり通報されてマスコミに全国へその間抜け面を放映されていたのを覚えている。


 今はどうだろう?

 言わずもがなだね。全然見つからんもの。


 写真に写るヤコウ似の角男達はおそらくといわずHC実験体だろう。

 俊敏性で言えば新人類の中でも最高位に位置するHC実験体をボコれるということは、ある程度特性も読めてくる。


 どうせめっちゃ早いか、固いか、その両方か。


 身体に金属のような光沢があるのだから、固いのは間違いなさそうだ。

 金属を生やすスケーリーフットとかいう貝がいた記憶がある。

 火を噴く魔獣がいるならば、身体を鉄化する魔獣がいてもおかしくはないのだろう。


 鉄のように固いのなら鉄を貫く威力で撃つか、固さを無視して内部に響く攻撃を放てば良い。熱するとか、電気流すとか、高いところから突き落とすとか。


 早いなら動きを止めてしまえば良い。

 後ろから不意をついて網を投げてやるだけで、早さなんてステータスは無意味だ。


 強弱で言えば魔人よりウチの居候は弱いのかもしれないが、勝敗は必ずしも強弱で決まらない。

 ウチの居候達はその辺を誰の教えなのか、きっちりわきまえている。


 だから討伐に関してはなんだかんだ、なんとかすると思っている。

 ただし見つかれば。


 心配なのはそんな奇人・変人が見つかることなく、今もどこかを歩いているということだ。

 プライバシーがしっかり保護された世の中でなによりだよ。

 こういうのを体感すると、「ああ、まだまだ人間時代の世には追いついていないな」と実感する。


 各拠点がどんどん近代化して来て、それなりに不便なく皆生きているおかげで時々勘違いしそうになるけれども。

 

 各拠点は三種の神器を手に入れ、ウチを含め機関車で繋がった。

 主戦力が望みの武器も手にし、防衛力も不足なし。

 紙幣は皆の手に渡り、多少貧富の差はあれど上手いことやっているみたいだ。


 何でも欲しければ金を払っていた人間時代と違い、肉が欲しければ狩る時代に変わりはない。

 金がなければ飢える訳ではないというのが、多少の格差を許容できる理由になっている訳だから、金でしか何も手に入れられない前の世の中もどうかと思う。


 いや、国家が民衆を統治する上で何事にも金を必要とする世の中というのは、国家側にとって便利だよねってのは解っちゃいるけども。

 鳥獣保護法とか漁業権とか、食料を無許可で獲られる方法って精々家庭菜園位だったし。


 ふとしたことで前時代の愚痴が出るこの癖はいい加減なんとかしたいものだ。

 

 さて、人の文明ってのは勝手に成長していくものだ。

 各拠点の文明にもう手を出す余地は殆どない。

 つまるところ俺の仕事はそんなに多くない。


 ボロボロの豪華客船を虎皮共が引っ張ってきたら、それを改造する。

 以上。


「それって、今何もすることがないって言わない?」

「待つことも仕事だよ? スズカ君」


 魔人討伐も俺の出る幕はない。

 あって欲しいとも思わないが。


 一日かけて今日の晩飯は何にしようかを考える。

 俺にとって、俺の生活はそれ位で丁度良い。


 今日は培養タラバのカニしゃぶにしよう。

 口に入れるのも大変なくらいぶっとい半茹で半生の蟹足を、蟹味噌に浸して食べる。

 間髪入れずに口に放り込むビールが最高だ。

 想像するだけで涎がでる。

 何年生きてても美味いものは美味い。


『マスター、緊急連絡要望です』

「んあ?」


 折角美味なる妄想にトリップしかけてたっちゅうに邪魔しおって。

 誰やねん?


『要望元はエリア住人、個体名称シュテン』

「?」


 シュテンが緊急連絡を要望するような案件があっただろうか?

 考えるより聞く方が早い。


「まあいいや。繋いで」

『トキ殿、聞こえるか?』

「聞こえてるよ」

『食道楽からの報告だ。魔人が見つかった』


 あらま良かった。朗報……をわざわざ緊急連絡はしてこないよな?


『場所はウィンドルーム。魔人は突如現われ街の中で暴れた。爪で騎士達を斬り裂き、掌から鉄の杭を撃ち放った』


 結構な難敵のようで。


『街は焼かれ、畑は壊滅状態だ』


 ……おいおい。


『増援が現われると逃走を開始し、姿を消したそうだ』

「……あん?」


 それって……


『魔人はいまだ逃走中だ』

「いや、待て。そんな解りやすいヤツどうやって逃がしたんだ!?」


 その前にどうやって街の中に潜り込んだ?

 ウィンドルームの警備はザルか?


『こちらも詳しいことは解っていない。ウィンドルームに怪しまれぬ範囲で食道楽の店員達も捜索は実行したが見つからなかったらしい』


 食道楽の連中は能なしか? と割り切ってしまうのは簡単だが、そういうことじゃないんだろう。

 つまり……


「魔人は姿を消すことが出来る、とでも言う気か?」

『そうとしか考えられん』


 そりゃまた、厄介な……

 この異世界化した世で魔法と呼ばれるそれは、実際はただの物理現象だ。

 生物が持ちうる機能の延長上にある。


 姿を消す生物なんて……カメレオンとか保護色系なら普通にいるね。


 OK。

 姿を消すことが出来る前提で考えよう。

 その場合最悪は?


 ウチの拠点、或いはウチに入られることだ。


「スィン、全拠点に通達。

 今後警備の者は全て“鑑定”の魔術の使用を持って任に当たれ」

『承知しました』

「スマートグラスを常時装備。

 サーモグラフによる監視を実行させろ」

『はい、マスター』

 

 とまあ、予想できれば対応することは難しくなくなった。


 各拠点の発展に乾杯。

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