ウィンドルームへの支援

 畑を耕し、畝を立てる。

 種を蒔く。

 雑草や害虫を駆除する。

 上げる肥料と水の量は多すぎても少なすぎてもいけない。

 作物が出来たら痛めないよう丁寧に収穫する。


 畑作業ってのは大変だ。

 

 農耕機械が発達し、最終的に都市型農業と言われる高層建築塔でのロボット農業まで行き着いた人間時代にそういう人はいなくなったが。


 今は一部を除いて機械が発達していないから、大変なままだ。


 ガスグレネードを手に入れてひとまず満足したエルフ達が、最近魔術展示会にリクエストするトレンドは耕耘機や噴霧器だったりする。


「噴霧器にカプサイシンを溶かし込んだ液体を入れて使うと狩りでも大活躍だって喜んでたけど……」


 ……農業で活躍しているはずだと信じている。

 たとえその言葉が、エルフ拠点の領主の言葉だったとしてもだ。




 で。

 その農業でウィンドルームが大打撃を受けた。

 正確には農業どころじゃなかったらしいが。


 魔人が暴れたからだ。

 どうやって侵入したのかウィンドルームに現われ、容赦なく暴れに暴れたそうだ。

 どこからか家屋に火が回った。

 魔人が暴れているのだ。消火している場合じゃない。


 勿論ウィンドルームも黙って指をくわえていたわけじゃない。

 自慢の騎士団を派遣したが、騎士の剣は魔人に効かなかったようで。

 集まった騎士達を自慢の爪で斬り散らし、さらに暴れ続けた。


 暴れる魔人は何が気に入らなかったのか、火の付いた材料をぶん投げたりしたらしい。おかげで余計に火災が広まった.

 建屋が逝った理由はそれだけじゃなく、魔人が殴り壊した建屋もあったらしい。


 魔人とはいえ人一人。

 住宅を殴って壊すとか、俺にだって……まあ、できんこたぁないが、それは俺だからで。

 なんにせよ聖教国の建屋は欠陥住宅なんじゃないだろうか?

 一応地震大国よ? ここ。


 散々暴れに暴れ、疲れたのか、それとも数の不利を感じたのか。

 魔人は衛星街からの救援騎士隊が来ると逃走。

 逃走しながら今度は畑で大立ち回りを繰り広げたそうで。

 正確には魔人が暴れ、それと戦うべく騎士が走り回った。

 沢山の人の足跡で畑はぐちゃぐちゃだ。

 そこはちょっと考えようよ。


 最終的に真っ赤な火に染まったウィンドルームはやっと火が消えたらしい。


 建屋が燃え、住む場所を失った人々。

 でも魔人の脅威があるから、騎士を見回りの為に集めなければならない。

 騎士の食料が必要だが建屋を壊され、建屋は燃えたから農民の住む場所がない。

 多分崩壊状態だろう。立て直すのも大変だろうね。


 とまあそんなこんなで、自分達でどうにも出来ないから、他人に頼るしかなくなったと。




 野獣が魔獣になるのだから、野人が魔人になっても不思議はない。


 野人は野獣より大抵弱い。

 人間が頭も道具も使わず生身で獣と対峙すれば大抵負けるのだから仕方ない。

 野人達は野獣の餌として活躍しているのが基本だ。

 多少不思議なパワーを持った魔人が現われても、野獣に狩られてしまっていたのだろう。


 俺が存在を知った魔人は今回のヤツが初めてだが、魔人自体が珍しいということはないと思う。

 水鉄砲ごときでは野獣に勝てなかったか、炎の魔法で自ら焼き肉になったかは知らんが、きっと野獣の腹の中には沢山いたのだろう。


 魔人であるか魔獣であるかは、あまり大した意味がない。

 どうせ討伐対象だし、人間もまとめてしまえば獣だし。


 街の中に入り込む能力と黒騎士に抗しうる能力を持った存在がいる。

 判断材料が少ない内はそう考えるだけで良いだろう。


 勿論おかしいのは解っている。

 弱いはずの野人が複数の能力を手に入れられたのは何故か?


 理屈の上では簡単だ。

 魔獣を複数種喰らって能力を取り込めば良い。

 弱肉強食って摂理を否定しなきゃならなそうな言い分だが、単にハイエナみたいに屍肉を喰らった可能性もなきにしもあらず。


 何か違和感を感じるのは何故だろう?

 考えたところで解らんものは解らん。


 今はその魔人による問題に集中だ。


「支援ね……」


 これが魔人による問題。

 2号からの要請だ。


 被災地に隣国からの救援物資。

 まあ、普通じゃなかろうか?

 余裕がなければ無視するが、余裕があるから素直に受けた。

 といっても寄付ではなく、多少安値で売るだけだが。


 それはいいんだ。


 気にしているのはタイミングだ。

 東北拠点に財力を集めたい俺達にとって東北拠点の輸出量は増えれば増える程いい。そんな中ウィンドルームで魔人による飢饉が起きた。


 肉だ野菜だを問わなければ、ウチの各拠点の食物収穫量は、本気を出せば必要量を大きく超える。


 サイズタイドはそこまででもなかろうが、サイズタイドからウィンドルームへ、中部拠点からサイズタイドへとロケット鉛筆方式で輸出できれば、東北拠点には尚金が入る。


 対価は聖教国の通貨。

 それを両替してやって、聖教国の通貨自体は食道楽に送ってやる。

 そうすれば聖教国での食道楽の影響力は大きくなる。


 いっそウィンドルームの生活事情を輸入に頼らせてしまえば、東北拠点にはずっと金が集まり、食道楽の影響は大きくなり続けるだろう。


 少し前に聖都に学園を建設する際に、食道楽グループとして出資したという話も聞いた。

 目立ってはいけないので徐々にだが、教育内容を改変させ、ウチへの敵意を削いで行くという政治的戦略も考慮に入れつつ。


「大分聖教国の教育って偏ってるみたいよ。

 教科書とかないみたいで、詳しくは聞いていないけど」

「教科書なしでどうやんの?」

「定期的に学会ってところで講師に聖教国の統一見解を教えているみたいよ?」


 戦後日本の教科書をGHQが墨塗させたなんて話があるが、なるほど。

 教科書が元々なければ改訂もさせ難い。

 あちらさんも対策済みか……教科書用意するのが面倒くさかっただけかも。


「学会とかの裏にはやっぱ聖人がいるんだろうな」

「でしょうねぇ。

 教会も挟んでるみたいで難しい組織みたい」


 聖人戦争を勝ち抜いたピッタとか言う奴は時々聖都に顔を出すものの、基本的には西の端っこに引き籠もっているらしい。

 聖人が一人しかいないなら山田2号はピッタで決まりだろうが、まあ今はその話はいっか。


「現地のヤツに一度聞いてみたいものだな。

 どんな教育受けてるのか。

 なぜかサイズタイドに旅行に来た聖都の学園生とかいねえかな?」

「いないでしょう……多分。

 いたとしてもどう言って連れてくるの?

 誘拐するわけにはいかないのよ?」


 そらそうだ。

 出来たばかりの学園の生徒となれば、まだ集まるのは裕福な家の子供ばかり。

 お偉いさんのお子さんが消えたとなれば、国とて動かないわけにはいかない。


「まあ、何事も可能性はゼロじゃないから」

「一応シュテンさんには伝えておくけど、期待はしないでね」

「ああ、解ってるよ」


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