東北拠点の産業
昔家事というのは大変なものだった。
洗濯は洗濯板で一枚一枚洗う。
乾燥機もないから日の出る時間はとても大事。
朝洗って乾かすから、早起きしないといけない。
炊事は毎日買い物に歩いて行き、火を熾し、水だって汲みに行く。
掃除機も取り替え式のワイパーもない。
箒で掃き、水を汲んで雑巾で拭き掃除をする。
家事に手間がかかれば、それ以外のことが出来なくなる。
夫婦共働きが当たり前になった時代のバックグラウンドは様々あるが、その一つに家事がどんどん楽になっていったという事情がある。
各拠点に様々な電化製品が配られた。
そう、我らが拠点にも共働きの波が来ている。
その波が顕著なのが虎皮共だ。
桃から生まれた侍の爺婆の如く、旦那は山に虎狩りへ、妻は井戸に洗濯へ、だったこの妻達が暇になり始めたわけだ。
今までも虎皮の女性陣は家事しかしていなかったわけではない。
石けん造ったり、調味料造ったりと分業しながら色んな産業に手を付けていた。
とはいえ、その生産量は自分たちで使う量で精一杯だ。
が、女性陣に時間が出来たことで、その生産量の増加が可能となったわけである。
東北拠点の発展は我らが課題でもあった。
だが、石けんや調味料を東北拠点で大量生産して輸出する様にすればコレも解決。
東北拠点にお金が集まっているわけなのだよ。
「んー、解決策があるなら税金を弄るより良いかもしれないわね」
拠点防衛のためには肉を食おうが食うまいが魔獣狩りは必要だ。
ヴィーガンなエルフ共は肉を食わないのに狩りに出なければならない。
加えて虎皮ファッションもやめたわけではない。
食わないだけで、エルフ達の狩りの手間は虎皮共と変わらない。
一方虎皮共は拠点維持の為に炎上トマト含む作物栽培はやっている。
だが食生活を農業に依存しているわけじゃない彼等は農業にそこまで人手を割いていない。
黒騎士達の活動範囲はサイズタイドと中部拠点の周囲と、他の種族に比べて異様に広い。女性達も戦えるので家事は街人の末裔の仕事だ。
街人の末裔達はエンジニアを目指す者が多く、空いた時間は勉強に当てている。
つまり共働きの波はまだ虎皮共にしか来ていない。
ただ人手がある。
それって集団としては結構大事な能力だよね。
もちろん集めた人手は最大限効率化する。
東北拠点はいわゆる工場制手工業を実現した。
工程平準化や工程改善も当然常に実行している。
会社嫌いの俺が工場を建てたわけだ。
なんか気分が悪い。
スィンが増税を迫ったのはより気分の悪いモノを見せて、これをまだマシに感じさせるためだったのかも?
単に間違えただけかな。スィンの予測も完璧じゃないし。
勿論他拠点でも石けんや調味料は作っているのだが、余分に作った物はウィンドルームを通し聖教国に売れるから問題なし。
聖教国にはサイズタイドから輸入品を聖都に輸送するルートを構築した貴族がいるらしい。
なんでも聖都東の衛生街を治める公爵だそうで、先日危険も顧みずサイズタイドまで来たそうだ。
まあ危険を顧みずとは言ったが、害獣撃退機が聖都にもある程度普及したので、ちゃんと備えれば聖都から来ること自体が難しいことではなくなっているのだが。
おかげで聖教国全土がお客様だ。
輸出できる物はなんでも売れば買って貰える。
公爵様々だな。俺魔王だけど……クッ。
とまあ、虎皮共が稼げるようになったわけで、スィンの税金調整要求の圧からも解放された。
政治とか絶対に嫌。
好きでそんなことがやれるなら、自分から王様を名乗ってるわ。
既に金の価値も定着し、課題も虎皮共が解決してくれた。
「俺は、自由だ!!」
「スィンからは各拠点の防衛能力強化も催促されてるでしょう?」
……はい、そうでした。
各拠点の課題はまだある。
防衛能力の強化だ。
これについては答えにならない答えを見出している。
「内容はともかく、誰が造るの?」
「それなんだよね」
実現出来ない答えを答えとは言うまい。
とはいえ、解決できる手段がこれしかないのだから仕方がない。
「確かに理論上は完璧だと思うわよ? 移動要塞リヴァイアサン計画」
「その名前いつの間に公式になったの?」
シェルターほどの防衛力を期待できないのなら、シェルターにはない回避力を。
つまり、超でっかい船造ろうぜと。
炎上トマトというのは栽培生産できる石油だ。
デカい船の上で土撒いて育てれば、理屈の上では船は永久に動き続ける。
コイツを東北拠点の港に停泊しておく。
シェルターやっべ → 機関車で東北拠点に逃走だ → 船に乗り込んでバイバイキ~ン。
出来れば三拠点全部に配備できるのが理想。
でかい船を造ることは別段技術的に不可能じゃない。
人間時代空母なんて物が海上を浮いていたのだから。
大事なのは誰が造るか、それだけだ。
昔造った漁船とは規模が違う。
漁船は昔港だった場所に行けば残骸が浮いていた。
だが今回の計画では少なくとも豪華客船レベルの巨大な船体が必要だ。
そんなもん簡単に落ちていない。
それにマサル達も忙しい。
聖教国向けの害獣撃退機、電波小屋から度々送られてくる機材の整備。
「何にせよ、まずは船体の確保からだよな……人手は諸々の整備を街人の末裔さん達に頑張って覚えて貰えば、マサル達の手も空くし」
「肝心の船体のある場所に心当たりがないのが辛いところだけど」
「いや、あるよ」
「あるの!?」
そりゃあるさ。
場所が遠くてどうしようもないだけで。
高級肉文化が消え、車も環境規制が厳しくなった前時代末期。
アンドロイドも手に入れた金持ち達が更に金を使える場所。
それが旅行だった。
セレブの欲求の捌け口の一つ、走る海上リゾート、豪華客船クイーン・カーネルタザイト。
日本製の豪華客船だ。
シェルターの元客達は金持ち達だ。
豪華客船常連さん達だ。
渡航履歴位データを探せば簡単に見つかる。
海上を元気に走り回っていた頃から2000年も経っているのだから、当然動くわけがないが、ウチには腕利きの技術者がいる。見た目はゴリラだが。
材料さえ手に入れば何とでもなる。
「それで、どこにあるの?」
「北海道」
「それは……遠いわね」
「東北拠点の虎皮共に船で引っ張ってきて貰えば、何とかなるとは思うけど」
ただし、それで虎皮を派遣しちゃうと、拠点の虎皮の人手が足りなくなって税金問題を考えなければいけなくなるという罠がある。
◇◆◇◆◇
前にスズカとそんな会話をしてから、どれだけ経っただろう。
200は年を数えたと思う……
グダグダだね。
リヴァイアサン(笑)はまだ卵にもなっていないよ。
街人の末裔達がマサル達から仕事を引き継ぐのに大分時間を使ってしまったのが一番の原因だ。
拠点の生活が近代化していたのは基本マサル達のおかげ。
メンテはマニュアル通りやって解らんところはマサル達の所に持ってくる。
身についた頃には老体となって代替わり。
60歳で定年なんて決めるんじゃなかったかな……
通信機から洗濯機からモニターまで、あらゆるものをメンテし、場合によっては一から組み上げることが出来るようになるまでにかかった時間としては寧ろ短いと思うけど。
前時代の機械工場で、人一人がちゃんと一から習熟するのって、新製品でバージョンアップはあれど、カテゴリーとしては一種か二種だよね。
街人の末裔達が彼等が魔術と呼ぶ機械のメンテや製造に、マサル達を頼らなくなったのはつい最近のことだ。
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