13章 ~魔人の咆哮~

ASR1000年 そして向うは……

「あー、それで……その、シュテン……様?」


「うむ」


「その……どうして、アタイ達なんぞを何処に連れて行こう言うんで……」


「宿と職を探しておるのだろう?

 困った者がいるならば手を伸すのは当然であろう?」


「いえ、その、ありがたいんですよ?

 ありがたいんですが……恐れ多いというか……なんというか」


「そう気を張る必要もない。

 何、只の老人のお節介よ。気にするな」


(気にしないわけいくか!?)


「お主ら聖教国から来たのであろう?」


「え、いや……聖教国からってわけでは……」


「そうか?

 名前の最後にネを付けぬエルフの女衆など、聖教国にしかおらんのだがな」


「え!?」


「獣人は寄りつかんし、戦いを仕事にするドワーフも魔王国にはおらん。

 お嬢さんなどと呼ばれる貴族もな」


「……」


「サイズタイドの門番が問題なしとして通したのだ。

 お主らがどこから来たとて、どうこうする気は更々ない」


「あー、そうですか。

 いやあ、それなら一安心ですよー……で、そうなるとアタイ達は何処へ連れて行かれるので?」


「宿と職のある場所だ」


「いや、だから---」


「80年前の“悪魔飢饉”でウィンドルームに多くの死者が出、街は荒廃した。

 貿易先の援助の為、サイズタイド領は物資の余剰分をウィンドルームに輸出している。

 サイズタイドは今、住民達が我慢を強いられる程ではないが、余所者を無条件に受け入れる程余裕があるわけではない」


「はあ……自分達で送り込んだ悪魔被害に援助ですか。

 魔王様ってのは随分物好きな方なようで」


(物に善い悪いはない。互いに特があるならば敵対と貿易は別。

 ……と聞いてはいたけど……援助?

 ウィンドルームとサイズタイドの関係はアタイが思っているより深い……?)


「フム。聞いてはいたがやはりそう伝わっているのか……まあ良い。

 サイズタイドの宿はウィンドルームの運送役を客として優先している。職も引く手があるのは貿易商が殆どだ。

 わざわざそのナリでこちらに来たのだ。ワケありであろう?」


「へへえ……仰る通りでございますよ」


「お、オイ、ルヴィ。いいのか!?」


「聞いてて解っただろ? 全部お見通しだよ、この御方はね。

 それでシュテン……様」


「その慣れない敬称や敬語をやめたらどうだ?

 聞いてて違和感が酷いぞ?」


「あー、じゃあお言葉に甘えて。

 で、アンタは一体アタイ達をどうしようってんで?」


「聞いてなかったのか?

 困っていると言うから手の差しのベたのだ。

 宿と職がある場所に連れて行く、それだけよ」


「それは何処!?

 てか、何の義理があってさ!?」


「そこのお嬢さんが昔の知り合いに似ていてな」


「? ……それってこの500圓の人?」


「ああ」


「何者よ?」


「もう800年以上前の人物だ。

 知っても仕方あるまい」


(800年!?

 四天王が不死ってのは本当!?

 いや、それともハッタリか……)


「じゃあ---」


『間もなく~、1番線に~、列・車が参ります。

 危ないですから~、黄色い線の内側まで~お下がりくだぁさい。

 間もなく~、1番線に~、列・車が参ります。

 危ないですから~、黄色い線の内側まで~お下がりくだぁさい』


「じゃあ、アタイ達を何処---」


 ガッタンガッタンガッタンガッタンガッタンガッタンガッタンガッタン

『ポーーーーーーーーーーーーーーー』

 プシューーーーーーー


「……」


「おや、シュテン殿?

 ベヒモスなど必要ありますまいに、こんな時間にこんな所で如何なされた?」


「御苦労だな、オーガ。

 乗せていって貰いたい者達がおってな、ここまで連れてきたのだ。

 私の背よりベヒモスの方が乗り心地もよかろう」


「構いませんが、何者です?」


「聖教国の貴族のようだぞ」


「さようで……なんですと!?

 いや……それでどこまで?

 中部拠点まででしょうか?」


「いや、我らの拠点……魔王城までだ」


「「「「「「え!?」」」」」 「ガウ?」


「よろしいので?

 いえ、シュテン殿の言うことではありますが……」


「彼等の身柄は私が責任を持とう。

 何、どやつも虎狩りの民やヤコウの末裔が手こずる相手でもあるまい。

 ましてトキ殿の危険になどなり得まいよ」


「……まあ、そうでしょうな。

 承知致しました」


「……ガウ」


「うむ、頼むぞ。

 車両があるから私は同乗できぬが、後ろを追いかけよう」


「ちょ、ちょっと---

 今、え? 魔王城っていったかい?」


「ああ。

 もう随分前になるが、スズカ殿に学園の生徒で連れてこれる者がいたら連れてくるよう言われたのだ。

 魔王城にはスズカ殿に恐れ多いと教師役のなり手が少ないからな。

 その点でも丁度良かろう。

 そのお嬢さんは教師になりたいのだろう?」


「いや、その……」


「相席だったのだ。

 全て聞こえておったよ。

 さあ、乗るが良い」


(おい、ルヴィ?)


(サフィラス、解ってるだろ?

 逆らえる状況じゃない。ひとまず、乗るしかないよ)


(グッ)

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