文明開化の音がする

 西暦4562年冬。


 お庭に建てた和室で、こたつと半纏という最強装備でぬくぬくしながらアイスを食べる。

 暖房は敢えてつけない派だ。障子を透ける日光の暖かさ位で充分。

 アイスで身体が冷えたところで、「さんっむ!!」って言いながらこたつに潜り込むのが好き。


「もうすぐ今年も終わりね」

「そうだなぁ……」


 時間の関係ない不老の身になっても、やっぱり年末というのは何か感慨深いものがある。

 年明けイベントなんぞ虎皮共が酒飲みながら腰振る位しかないのだが。

 お外で寒くないんだろうか?


 年明けカウントダウンがゼロの時に昇天するのがサイコーなんだってさ。

 そのまま本当に昇天してしまえばいい。


 ……気を取り直して。

 誕生日とか年末とかってのは時の流れを教えてくれる特別な日だ。

 

 こういう日が来る度に、時間が経つのはあっという間だと思う。

 2000年生きていると50年や100年前ですら、つい昨日の事のように感じる。


 機関車暴走事故を引き起こしてくれたオーガも既に2回代替わりをしている。


 機関車もなんだかんだで運転され、電波塔ならぬ電波小屋も各所に建設された。

 当然発電機も要所要所に設置されている。

 

 居候達にも文明開化が訪れたわけだ。

 そういえば旧日本で電信や鉄道が始まったのは、ザンギリ頭をペチペチ叩いてた頃だったか?


 諸々あべこべな部分はあるが、現状確かに居候達の文明はそのレベルかもしれない。

 

「ここまで長かったわね」

「ああ……」


 俺達の感覚値でいうなら50年や100年は短い。

 でも、やっぱり長い。


 スィンの提案は架空拠点を避難場所として機能させることだ。

 まだ精々各所通信できるようになりました程度の発展しかしていない。

 感情のないはずのスィンの機嫌が最近悪いように感じるのは、俺の気のせいだろうか?


「まあ、あくまで拠点の発展は万が一の為の策だから、うん」

「そういう風に後回しにしてるとスィンが拗ねるわよ?」


 スィンに感情はないんだってば。


「これからペースアップするから。ほら、文明って指数関数的に発展するものだし」

「現代に関して言えばトキのヤル気に比例すると思うけど……」

「ぬぐっ……」


 否定はできんな。


「とはいえ、各所に近代文明ばらまいたところで、住んでる奴らがな……」

「文明が高度化するほど専門分野に秀でた知識が必要になるものね」


 そこなのよ。

 虎皮は狩りで忙しく、黒騎士は街の防衛で忙しく、エルフは農業で忙しい。

 ドワーフも鍛冶と大工で手一杯だ。


 機械はいずれメンテナンスが必要になるから、ただ導入してもある日機械が止まってましたって事になりかねない。


 全く人手が割けないわけでもないんだけど、今の生活で満足している人達に生活変えろって言うのは中々難しい。


「街人の末裔達を各所でエンジニアとして配備するしかないかな」


 街人の末裔達、所謂普通の人達はウチのお庭と中部拠点にいる。

 他の面子に比べ身体的弱者である彼等は、護衛なしでは外にも出れず、ドワーフのように種族特有の得意科目があるわけでもない。

 要はいまいち活躍場所がない。


 世に言う誰でも出来る仕事って言うのは、誰かがやらなきゃいけないから、別に仕事がないって言い訳しながら遊んで過ごしているわけじゃない。

 食道楽なんかでは黒騎士達と一緒にスズカの料理教室を受けて、マニュアルとか作ったり、サイズタイドとの貿易では数量管理したり、結構縁の下でしっかり成果を残している。


 ウチの拠点の中で一番まともな種族かもしれん。


 機関車が開通したおかげで、今は戦う力がなくてもお外に出られる時代。

 初めは少数精鋭のスペシャル整備班を組んで、各拠点を巡回しながら人を増やしていって、いずれは各所で働くって感じで良いんじゃないだろうか。


「そうね。じゃあ、教育は私の方でやるわ」

「お、いいの?」

「設計データとメンテナンスプログラムをインプットすれば、私にも出来るし。面倒臭いからって先延ばしされるのも困るもの」


 お手間をお掛けします。


 俺が最優先なのはスズカも一緒だ。

 いつもなら俺に人とコミニュケーションをとらせる為に、主らしく自分で教えろと言ってくるところだが、今回はそれ以上にスピードを優先したらしい。


「だからトキは拠点の発展のことを考えて」

「へ?」

「今、あ、俺の仕事終わった、って考えたでしょ?」

「……ダメっスかね」

「ダメよ。トキが住める拠点にしないといけないんだから」


 久々にスズカママン登場だ。後でオギャらせてもらおう。

 んー、俺の住める拠点ね……


「理想はこのシェルターと同じレベルまで発展することだけど……」

「無理だろ、流石に」

「そうよね」


 いざ住める条件て考えるの難しいね。

 会社から片道30分以下、家賃4万円以下、風呂トイレありの1K以上とか贅沢言おうと思えば言えるけど、最低レベルを言えと言われると、人間頑張れば野外でも生きていけるわけで。


--カラン--


 ん?

 おっと気がつけばアイスが液状クリームに変わってしまっている。

 長いこと話していたらしい。

 いくら冬でも溶けるもんは溶けるよね。


「時が経つのは早いよな」

「そうね……」


 アイスがいつの間にか溶けるように時間は容赦なく進んでいく。

 今は脅威ではなくなった聖教国も、いずれまたウチを脅かす戦力を持つのかもしれない。


「大丈夫。ちゃんと考えるよ。少なくとも……年末までには」

「……そうして頂戴」


 どうやら俺はまだまだ忙しい日々を過ごすことになるらしい。

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