懐かしき前時代のあれこれ

 機関車も少しずつ形が見えてきている。

 一方、鉄道工事は遅れ気味だ。


 これには理由がある。




 ウチのMOUSEを使って骨振動でデカい音を叩き付ける新型害獣撃退機は、獲物を選ばない。

 空中にいようが射程内であれば、獲物の骨をビリビリいわせて獲物を追い払う。

 怪鳥と化した鳥たちも、溜まらずフラフラしながら逃げていく。


 一方鉄道を守る害獣撃退機には害鳥を追い払う力がない。

 指向性を持って害鳥を狙い撃つ、などという性能をウチのMOUSEと違って持っていないからだ。

 違赤外線センサーで動物を感知すると、高周波音とデカい音をスピーカーから垂れ流すのが精々の鉄道の害獣撃退機。

 陸上の獣にはそれでも効果抜群だが、空飛ぶ害鳥共が相手となれば話は別だ。


 赤外線センサーの範囲都合上、飛ぶ鳥までは感知できない。


 まあ実際に聞こえたところで効果は低いと思うんだけどね。

 耳介がなく集音性に劣る鳥の可聴領域は、一般的に人間より聞き取りできる周波数が低いらしいから。

 この辺りは変異した獣とてそんなに変わらないはず。耳介がない事に変わりはないからね。


 ではどうするか?

 機関車を武装する。

 結局はこれだよね。どうせ乗るの虎皮でしょ? ……と当初は考えていた。


 機関車の通り道は壁で挟まれている。


「仮に害鳥を迎撃して鉄道に鳥の死体が落ちたらどうするのよ?」

「鉄道に害鳥が着地したら如何致しましょう?」

「轢いちゃえば?」


 それで良くない? と思っていたが「はい」と言っては貰えなかった。

 鳥の死体の血の臭いが害鳥ホイホイとして機能してしまう可能性を考えると、鳥の死体は片付ける必要がある。


 害鳥の死体処理をした後、機関車にまた乗り込む機関士。

 衛生的にどうだろうか?

 スズカの教育の賜である。

 衛生観念が根付いていて、大変よろしいですね~……チッ。


「機関車の中に水瓶置いておいて、手を洗えるようにしておくというのはどうだろうか?」


 俺の名案は聞き届けられなかった。




 兵装機関車のコンセプトはそのままに、鉄道に鳥除けを設置することになった。

 鳥除け付けるなら機関車の武装要らなくない? という俺の意見は却下された。

 俺を主と呼んでる奴らよ、どういうことだ?


 鳥には光での攻撃も有効だ。

 高い柱を一定間隔で設置し、赤外線センサーを付けてフラッシュを焚く。

 電源はソーラーで良いとして、設計は……俺なのね。


 ただフラッシュはな……

 攻撃の出本が解ってしまうと、狂った野獣共は攻撃してくるのではなかろうか?

 まあ、実験位してみよう。



 

◇◆◇◆◇


「なんで効くんだよ!?」

「いいことじゃない。皆の安全性がより確保出来るんだから」


 狂った野獣共は、もしかしたら意外と出本が餌になる相手かどうかを見極めているのかも知れない。


 集めたスマホのフラッシュが無駄にならなかったと喜ぶべきか?

 まあ、そんなわけで害獣撃退機は上下二段構成になった。


 上段は大きい音と光による攻撃。

 下は高周波音と大きい音による攻撃。


 一つの柱にくくりつけ、セットで地面に刺す。


 一個一個がそれなりにデカい。

 一度にそんなに運べない。


 鉄道は害獣撃退機が設置できないと、工事できない。

 これが鉄道工事の遅れている理由だ。




◇◆◇◆◇


 とまあ、諸々躓きながら鉄道プロジェクトは進んでいる。

 電波塔に手を出せるのはいつのことやら……


 前時代では気がつけば新しいビルが建ち、新しい道路が出来ていた。

 平らな道を歩き、車で走ることを当たり前だと思い、高層ビルから見る景色に何の感慨も持たなかった。


 やっぱり科学の恩恵って凄いんだなって改めて思う。

 そりゃあ工事していた人達からすれば、苦労もあったろうけどね。

 

 その科学の集大成みたいな身体の俺が過去を懐かしむのも変な話か?


 吉備津兆という人間だった頃には考えられない程の科学技術で、俺の身体は出来ている。

 前時代に実現し得た、最高スペックのアンドロイド……


 そう、アンドロイドだ。

 ……人間ではない。


 吉備津兆という人格と記憶を持って生きる人工生命体。

 そもそも寿命のないこの身体を生命と呼ぶのかね。


 俺は死ぬ前の記憶を持っている。

 前世の記憶があることを転生と呼ぶのなら、俺は間違いなく転生したのだろう。


 でも……


 もし魂と呼ばれるものがあるのなら、吉備津兆の魂はここにあるのだろうか?

 俺の身体に、人の造った身体に……

 単に俺は……吉備津兆という人物の記憶を持つだけの人形ではないのか?


「痛っ!!」


 圧迫するような急激な負荷が頭の中を襲う。


『原則に基づき最重要対象保護の為、ADM-001の思考回路を一時的に阻害。対象をスリープ状態へ移行。3・2・1……移行完了。人格否定、変動の可能性のある記憶メモリを調整……完了』




◇◆◇◆◇


「おはよう、トキ」

「ああ、おはよう」


 あれ?

 いつの間に眠ったんだっけ、俺?


 ……覚えてない。


「どうかしたの?」

「ああ、昨日の記憶が若干……」


 うーん……

 俺は自然に記憶が消える体質じゃない。

 消える体質じゃないが、消せる体質ではある。


 てことは、俺は昨日の夜の記憶を消したようだ。


 長く生きてるとね。

 ちょこちょここういうケアをしないと辛いのよ。


 ただ記憶がないってのは怖いもんではある。

 泥酔した次の日、起きて記憶がないときの怖さって一度くらい経験あるよね。


「スズカと喧嘩でもしたかな」

「どうかしら?」


 まあ、スズカも解るわけないんだが。


「トキが記憶を消すと私の記憶も調整されちゃうもの」

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