担当の者が変わります

「アッヘェエ~~」


 風呂に入る。

 気持ちいい。


 身体をちょっと震える位にキンキンに冷やしきってから入る風呂。

 人間時代から続く悪癖だ。

 このせいでよく風邪ひいてた。


 特に疲労したとき程、痺れるような快感が身体を駆け抜ける。

 さっきインストールしたプログラムを試したおかげで、身体が、特に外皮が悲鳴を上げている今、これほど気持ちの良いものもないだろう。

 痛いよ~、グスン。


 インストールしたのは“限界突破”。

 落ち着け諸君。ここは現実リアルだ。


 ウォーターショット対策に組み込んだこの限界突破。

 その名の通り体のリミッターを外すプログラムだ。


 アンドロイドも人間と一緒で、肉体を守る為に出力を抑えるよう設定されている。

 その制限を一時的に取っ払う。


 本来自己防衛を命じる第三原則のおかげで、こんなことできないんだけどね。

 アンドロイド側が目の前にある脅威を認識し、自己防衛の為に使用許可を出した。


 なぜ居候にびびって自分を改造しなきゃならんのか?

 若干理不尽な気もするが……

 まあ、それだけウォーターショットが使える能力ってことだろう。


 今まで虎皮達が発現してきた能力は他にもある。

 少し紹介すると、


エアバレット空気砲

 風属性。口から放つ名前の通り空気砲。所詮空気なので威力もたかが知れてる。前日ニンニクを大量に食べると、敵に一時的に不快感というデバフ効果を付与できる。


ストーンピューク石のゲロ

 土属性。飲み込んだ石を超高速で吐き飛ばす。使用するためには事前に石を飲み込むという拷問を自らに課す必要がある。


エレクトリックイール電気ウナギ

 雷属性。体から電撃を発生させる。当然自分も感電する。


アンダーファイア炎上商法

 火属性。体の一部から炎を出す。当然自分も燃える。


 とまあ、如何にウォーターショットが当たりクジであるかをご理解頂けると思う。


 後半2種を引き継いだ者たちはご愁傷様だ。

 なぜこの使えない魔法を引き継ぐためのトマトを、今もエルフ達はちゃんと育てているのか……俺には理解できない。


 まあ、その使える水属性魔法ってやつも、避ける事は難しくないのだが。

 放たれた弾丸自体は避けられる程遅くはないが、相手が使うと解っていれば、射線から予め外れておけば良いわけで

 相手の挙動さえ見逃さなければ、腕の延長線にいなければ良いだけだからね。

 限界突破で高速回避なり熱線銃カウンターなりで対応可能だ。


 パワーアップしたことは悪いことじゃない。

 人は常に進歩するものだ。

 そう自分を納得させることにしよう。


 そう……進歩するんだ。


 魔法に限らず居候達もなんだかんだで進歩している。

 現在開発中の蒸気機関車が実用運転されるようになれば、更にそれは加速するだろう。


 手にした覚えは元々ないが、いずれあいつ等は俺の手を離れ、独自に成長し続けるようになるんだろうな。

 さっさと手元を離れてもらうためにも、成長の礎を築いておくっていうのは、長期的に見て悪いことじゃない。


 電波塔か……


 かなりの大仕事になるが、そう考えれば悪くないかもしれないね。


 西暦4500年。

 このキリのいい年に文明の節目を迎えるというのも、なんというか……

 強い運命力を感じたりしなくもない。


 俺の負荷デカいんだけどな~。


 ま、いっかー。

 そう何度もやることじゃないし。

 他にやることがあるわけでもないし。


 新たな時代へ進む居候達の門出に、デカいプレゼントをしてやろう。


 材料は自分たちで集めさせるけどね。




◇◆◇◆◇


『マスター、何者かが西門に近づいています』

「お? 映像回してくれ」


 害獣撃退機の設計に勤しんでいたところで、スィンからの緊急連絡。

 画像を見てみれば


「山田?」


 いや、だったらスィンが山田と言ったはず。


 過去のデータと照合してみれば、顔は山田だが、背丈、体格に若干の違いを発見した。


 元々山田もマスクで顔変えていたからね。

 そのマスクを引き継いだってことは……


「スィン、サーモ映像に切り替え。2秒だ」

『承知しました』


 アンドロイドなのは間違いなし。


「スィン、MOUSEを起動。客に接続してくれ」

『承知しました』


 確認するまでもなく山田の後継者なのだろう。


「聞こえますか?」

『ああ、聞こえている』

「どこまで引き継いでいます?」

『狼たちに誘導されればよいのだろう?」


 さすがアンドロイド。

 急に担当が変わったもので~、とはならなかった。




◇◆◇◆◇


「さて、あー、なんと御呼びすればよろしいので? やっぱり山田次郎?」

「どうせ偽名だ。一郎でも三郎でも構いはしない。好きに呼んでくれ」


あそ。じゃ


「山田2号さん。本日はどのようなご用件で?」

「……」


好きに呼べって言ったじゃねえか。


「今日のところはただの挨拶だ」

「はあ」


出た。絶対挨拶だけじゃないやつ。


「知っての通り、今までの遣いであった者が事情により今後来れなくなった」

「そうですか」

「代わりを主より命じられてな。ならば諸々の確認も踏まえて、まず来てみることにした」

「はあ」


おや、本当に挨拶だけ?


「…………」

「えー、あの?」

「フッ」


お、いきなり鼻で笑ってくれましたよ、コイツ?


「会ってみたいと思っていた」

「!?」


俺にBL属性はねえんですが?


「アイツがなぜ俺を……」

「もしもし?」


いきなり自分の世界に入んなや。

情緒不安定か? アンドロイドだろオメー。


「今日はこれで失礼する」

「お、おう?」


帰るんかい!?

いや、いいけど。


「見定めさせて貰うぞ」


そう言って山田2号は本当に帰って行った。


……何だったの?


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