獣人の攻略法

 大仕事になると思っていたが、設計図は既存のシステムをほぼほぼパクるだけ。

 気がつけば簡単に終わっていた。


 アンテナ自体はウチの屋上にもあるし、非常電源はシェルターに備わっている。

 メンテの都合上設計図データはスィンが持っていたから、俺はそれを小屋型になるよう弄るだけだった。


 拠点のどこに配置するかとかはスィンがシミュレートしていたので考える必要なし。


 というわけで久々の休暇だ。


 小屋は誰が建てるかとか、もう悩んだりしない。

 一度通信機を使って話が出来るってことを実演してみせれば、シュテンや虎皮のことだ。

 こちらで言わなくても人員を手配するだろう。


 後は皆が忙しく働くのを横目に、食っちゃ寝するだけで---


『マスター、緊急連絡要望です』

「あん?」


 いいやと思っていたのに。


『要望元はエリア住人、個体名称シュテン』

「あー、はい。繋いで」


 こういうときに限って「無視するのはどうかなー?」って思う程度には重要人物からだ。

 送り出したときは問題なかろうと思いつつも、タイミングを合わせてシュテンに虎皮達の状況確認だけを頼んでいた。

 多分それ絡みだろうしね。


 因みにタイガなら当然シカトだ。言葉通じんしな。


「何かね?」

『虎狩りの民が獣人達の制圧作戦に失敗した。幸いにも死者は出ていないが、重傷者は出ている』

「お?」


 ……マジすか?




◇◆◇◆◇


 いつもの会議室。空気が若干重い。

 

 居候達の失敗談なんぞ腐るほどあるが、戦闘での敗北となると話は別だ。


 魔獣だってなんだかんだ狩りまくるプロフェッショナルハンター虎皮。

 敗北とかあんまり聞いたことなかった。


「身体能力では向こうが上。防壁に守られた場所でしっかり見張りも立てられ、奇襲もできず、弓矢も防壁で効果が薄い」


 だから何があったのかと状況を聞き取りしてみたが、うん、妥当な結果かもしれない。

 虎皮の身体能力って黒騎士とそんな変わんないし。


「得意の罠はどうした?」

「陽動に全く乗ってこなかったようだ」


 だが獣人共は頭悪いって聞いてた気がするんだが?

 ……虎皮も虎皮でアレだったね。


「向こうも自分達の弱点は理解しているようだな」


 知能では劣ると理解した獣人達。

 何をされても立て籠もる、と強い意志で踏ん張っているそうだ。


 状況により使う道具の違いはあれど、虎皮達の戦法は弓矢とかの遠距離攻撃で獲物を動かし、罠に嵌め、近接攻撃でトドメを刺すってのが基本。

 その戦法が通じない状況になったわけね。


 仕方なく近接戦に挑んだ虎皮達。

 バイデントやガスグレネードなど強力な武装を持つオーガ&タイガ組はともかく、一緒に踏み込んだ仲間が傷を負った。

 攻城戦は傷を負った仲間を庇いながらの撤退戦へと状況が変わり、結果敗走したらしい。 


 山田の言っていた獣人の身体能力ってのは本物みたいだ。


「どうする? 良ければ私も参戦するが」

「んー……」


 それはどうなんだろう?

 今回の件はやっちまった虎皮達の名誉挽回戦だ。

 絶対勝てない相手なら賛成だが、出来ればアイツらの手で決着させてやりたい。


「いや、結論を急ぐのはまだだ。相手が立て籠もってるってんなら、逃げやしねえだろうし」

「しかし……何か手があるか?」

「あー……ところで獣人達ってのはどんな奴らだった?」


 敵を知り、から始まるアレの通り、まず相手が知らなきゃね。


「一応聞いている。頭に毛に覆われた三角の耳があり、尻に尾を下げた珍妙な連中だったと」


 ガチで獣人なのね。

 頭に耳があるって事は脳体積が少ない訳か。

 なるほど、知能が低いわけだ。


 ただ、考えるってことが出来ないわけじゃないと。

 厄介だな。


 山田の言う通り、獣並の五感と身体能力を持つ上で、一応の知能がある。

 

 人が獣に勝てるのはなんだかんだで道具があるからだ。

 道具を人並みに使いこなす獣とか普通にゾッとする。


 感覚は人間を超える、となれば奇襲も通じはしまい。


 嗅覚はしらんが、少なくとも耳が動物と同じ形してるなら、聴覚は少なくとも獣並みだろうからね。


 ……ん? 


「あー、因みにさっきの話だと、防壁から奴らが出てくれば虎皮達は勝てるってことでいいのか?」

「む? ああ、そこは問題なかろうが」

「なるほど。じゃあ、今回の件は虎皮達に任せよう。シュテンは手を出すな」

「何? いや、しかし---」

「代わりにこっちで支援する。対獣人専用の特別兵器だ」

「?」


 さて、イワザル達に頑張って貰おうかね。




◇◆◇◆◇


「じゃあ、頼んだぞ」

『うむ、頼まれた』


 それから2日後、シュテンは新兵器を持って虎皮達の所へ向って走って行った。

 シュテンの速度なら本日中には到着するから、明日には良い報せが聞けるだろう。


 もう既にお気づきかと思うが、シュテンに渡したのは害獣撃退機だ。メガホン型の容赦ないやつ。


 音波攻撃を壁で防ぐってのは無理な話だ。

 獣波の聴覚をキンキン言わせて、のたうち回ってくれれば儲けもの。

 逃げ出すだけでも新兵器の役目は果たしたと言えよう。


 外に出してしまえば、虎皮フィーバータイムだ。

 後はよろしくちゃんってことで。


 電源を電池に替えたりと設計が必要だったので、即日作製とはいかなかったが、まあよしとして。

 相手は立て籠もってるって言うしね。問題なし。


 事態は九割方解決したようなものだ。


 ……と思ってたんだけどなぁ……

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る