正しい魔菜の使い方

 気を取り直して。

 電波塔プロジェクトである。


 各箇所通信機とアンテナ、電源の確保が必要になる。

 蒸気機関車と違って「自分達で整備してね」といえないのが辛いところだ。


 シェルターのアンテナが各部交換ユニット式になっているので、これを真似しよう。壊れたらウチに持って帰ってきて貰って、マサル達に修理させればいいだろう。


 交換を考えると余り高い位置に配置も出来ない。

 電波塔とか言っておいてなんだけど、小さいアンテナ小屋をいくつか建てて中継バトンリレーして貰うしかないかな……

 まあ、通信できればいいでしょ。


 どうせなら鉄道沿いに建築し、各所通信機も設置して蒸気機関車の運行監視の役も兼任させれば丁度良い。


『マスター』

「うん?」

『電源にはバイオジェネレーターの使用を提言します』


 資源問題からバイオテクノロジーが発達した前時代、食物エネルギーはあらゆるものに利用された。


 食べ物で車が走った時代だ。

 発電だって出来る……が、なんでまた?

 ソーラーでよくない? 


『原則に従い、マスターの安全確保の観点から避難場所の確保が必要と判断しました』

「もしかしてアレか? ヤコウオリジナルの……」

『はい、マスター』


 この拠点が万全ではないことは、前回のヤコウオリジナル襲撃シミュレーションで証明されてしまった。

 スィンとしてはどうやら最悪の場合に備え、俺の避難場所を確保したいらしい。


『ソーラーエネルギーはエネルギー供給を天気に左右される為、安定性の面で問題があります。バイオジェネレーターであれば供給が絶えない前提ですが、その問題を解消できます』


 まあ確かに。

 ソーラーと並列で供給できるようにすれば尚良し。

 だが、そのエネルギー確保の為どれだけの食料が必要になるやら。

 拠点には虎皮やエルフが住んでいるわけで、流石にね……


『先日の機関車暴走を分析しました。

 アンダーファイアの能力を引き継いだトマトをエネルギー源に使用した場合、現状の南関東拠点の魔菜を全てアンダーファイアのトマトに生産を切り替えれば、現生産量で住民の食料を十分確保しつつ、各拠点へのエネルギー供給はシミュレーション上可能です』


 そこで魔菜が出て来ますか、そうですか。

 

 ということは何か?

 ガス精製因子&身体構造改変能力を持つ爆弾トマトの生産を俺は推奨しないといけないわけか?

 ダメじゃない?


『マスターの安全が最優先です。是非一考を』

「……考えておく」


 爆弾トマトが大量生産されている拠点が安全だろうか?

 まあ、ガソリンタンクみたいなもんだと思えば管理次第だよね。


 しかし、あの事故がまさかポジティブな方向に役立つとは。

 世の中ってのは解らんものだ。




◇◆◇◆◇


「随分派手にやらかしたものだな」

「お恥ずかしい限りですよ」


 山田2号にとってサイズタイドはここに来るまでの通り道だ。

 当然あの事故も見られている。

 ……見られたくなかった。


 一応忍んで侵入してきている山田2号。

 道中誰かしら人がいる鉄道建設期間中は流石に来れなかったらしい。

 12年越しのご登場だ。


 2発目の来訪で見たのが街に突っ込み横たわる機関車。

 例え悪意がなくとも、皮肉ぐらいは口走るだろうね。


「ところで道中にあった害獣撃退機だが……」

「お気づきになられました?」

「ああ、道中おかげで害獣を気にしなくて済んだ。中々に良い物だな、アレは」

「それはどうも」


 気の狂った野獣共を気にしなくていいってのは、その間を通過しなきゃいけない者にとって随分と気が楽だろう。


「取引がしたい。撃退機の輸出は可能か?」

「報酬次第ですね」


 勿論ただでやる気はないが。


「こちらが出せるのは情報と金だ」

「そちらの通貨はこっちでは意味がないんですがね」

「サイズタイドであれば話は別だろう? ウィンドルームと取引しているわけだしな」

「……」


 ちょうど賠償の仕方で迷っていた俺のマインドにクリティカルヒット。

 聖教国から買えるものなどたかが知れているが、周辺集落を建設中のサイズタイドにとって、材木だろうがレンガだろうが今は欲しいところだろう。


「……解りました。取引しましょう。輸出条件は情報の内容によるということで」

「いいだろう。情報は獣人についてだ」


 本当に急所を突いてくる。

 確かに欲しい情報だ。


「事の発端は聖教国の主権争いから始まる」


 そう言って始まった2号の情報はこんな感じだ。


 鬼堂日出雄の死から始まった聖人達の争いは、2号の主が4人の聖人を制したことで決着した。

 その争いで最後まで抵抗したのはウィンドルームの聖人ラインだった。


 ラインは勇者や魔獣など、聖教国のファンタジー生物開発担当でもあったそうで。

 そんなラインの次なる作品が獣の力を持つ人、獣人。

 ……本当にガチな獣人を開発していたらしい。


 そんなに異世界に行きたいのなら、トラックに轢かれて死ねばいいのに。


 高い五感、身体能力を持つ獣人たちは、代わりに知能が人に劣るという欠点はあったものの、戦闘能力は高く、さらなる改造によって勇者を超える新戦力として期待されていたらしい。


 実際彼等は現段階で、勇者に勝るとも劣らない身体能力を発揮するそうだ。

 勇者と街人の血が混じる、言わば劣化勇者とも言える黒騎士相手に一体一でやり合えた、ってのも頷ける話ではある。


 その獣人をラインは聖人戦争で引っ張り出したらしい。


 一方2号の主も戦いの中にHC実験体を投入。

 勇者に勝ててもオリジナルとなれば話が別だ。


 結果ラインは抑えられ、生き残った獣人達は東へと逃げて行った。


「獣人達が黒騎士達に襲い掛かった理由って……」

「HC実験体と同じ匂いを嗅ぎ取り、敵と判断したのだろうな」


 そういうことね……


「あの争いでHC実験体にも少なくない被害が出た」

「増やせば良いだけでしょう?」

「MINDWEDGEの数に限りがある。増やす意味がない」


 さいで。信じないけどな。




◇◆◇◆◇


「それで結局、撃退機の輸出はどうするの?」

「材料はあっちが支給。ウチは作るだけ。生産工数分費用は請求」

「一番のネックは材料だものね。でもいいの? 聖教国に……」

「渡してウチの害になるもんじゃないしね」

「……それもそうね」

「材料の収集ペースが生産ペースに追いつかないからな。電波塔や電源配備しててもGの一部は手空きになっちまう。Gの暇潰しがサイズタイドの賠償になるってんだから、いい取引だよ。20番隊辺り専属で就けてもいいだろう」

「じゃあ、G21には名前つけてあげないとね」


 そうだな……うん、じゃあイワザルで。


「ところでスィンの提案はどうするの?」

「……やる」

「本当に?」

「ああ、爆弾トマトの生産は今もどうかと思うけど、備えられるものは備えるべきだ。それに……」

「それに?」

「電気が通れば居候にも拠点の連中にも今より良い生活をさせてやれる。そしたら、スズカも喜ぶだろ?」


 結局、俺の動く理由なんて、どんなに時が流れてもそんなもんだ。

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