11章 ~獣の嘆き~

ASR1000年 とある学園の全校集会

<校庭>


「気を付け! 礼! 休め!

 

 では学園長、お願いします」


「はい。 コホン。


 ごきげんよう、皆さん。

 学園長のドミナです。


 あまりこうして皆さんとお会いする機会も少ないですから、忘れられていないか不安だわ。ウフフ。


 さて、皆さんご存じかとは思いますが、来週から本学園は千年祭の期間、お休みとなります。


 今からワタクシも楽しみだわ。

 でも、まだお休みまでは日があります。

 気を抜かずに勉学に励んでくださいね。


 千年祭……聖教国建立より千年を祝う大きなお祭りです。


 学園長として、こう言ってはいけないのかもしれないけれど、お祭りの間は勉強のことは忘れて、目いっぱい楽しんできてくださいね。


 ただ、楽しむといっても何でもして良いというわけではないの。


 大きなお祭りですから、大勢の、様々な人が集まるわ。

 獣人、エルフ、ドワーフ……


 人が集まれば、その中には影ができます。

 その陰の中は、皆さんの危険になる場所であるかもしれません。


 だから皆さん。休みに入る前に、考えてください。

 楽しいって何でしょうか?


 ワタクシはね、幸せを感じ、噛み締めることだと思うの。


 この素晴らしき時代に生まれた幸せ。

 素晴らしき先人達が築き上げた、この素晴らしき国に生まれた幸せ。


 学園で出会った友人たちと過ごせる幸せ。

 家に帰れば笑顔で迎えてくれる家族がいる幸せ。


 お祭りの中では聖人様方もその御姿をお見せ下さると聞いています。

 誰よりも尊き方々に導かれ、今私達はこうして良き生を歩んでいます。


 ワタクシ達は今、幸せなはずよ。


 でも、時にその幸せは簡単に壊れてしまうわ。


 あなた方が不幸になれば、悲しむのはあなた方だけではないの。


 家族や友人と、楽しかったと最後まで笑顔で過ごせるように、過ごして下さい」


「気をつけ! 礼!


 学園長、ありがとうございました。


 休め!

 

 今、学園長がおっしゃった通り……」




<学園廊下:全校集会後>


「んー……」


「何唸ってるの? ティウォ」


「あ、オーネ。

 いや、千年祭さ。何も考えずに楽しみにしてたんだけど……学園長の仰ったことが気になっちゃって」


「亜人のこと?」


「うん」


「そうねぇ……」


「気にすることないって」


「スリエ」


「ティウォが気にしてるのはアレでしょ? 亜人は魔王国と繋がってるって噂」


「ちょっとスリエ、声が大きい」


「あ、ゴメンゴメン」


「……でも、実際どうなんだろう?

 エルフは魔法を使うし、獣人は魔王国を恐れ崇めてる。ドワーフだって……」


「男なのに相変わらず気がちっちゃいねぇ、ティウォ

 要は亜人の集まるところに近寄らなきゃ良いだけよ」


「スリエが大雑把すぎるんだよ……でもまあ、そうだね」




<ウェストサイズ>


「何とか通れたね」


「そうですわね」


「今回ばかりはアンタに感謝だよ。エメラダ」


「エメラダさんを見た途端、衛兵の警戒が解けましたからね」


「ああ。

 こうなるとエルフの里が魔王国にある、なんて伝承も案外本当なのかもしれないね」


「ルヴィさん! それはエメラダさんに失礼では!?」


「あら、いいのですよ、お嬢さん。ルヴィさんの口の悪さは今に始まったことじゃありませんもの」


「いえ、ですが……」


「へいへい、アタイが悪うござんした」


「おいルヴィ、それでこの後はどうするんだ?」


「それだよねぇ……」


「? 送り届けるのが依頼ではなかったのか?」


「いやいや、送り届けて、このお嬢ちゃんが職に就くなりなんなりして、一人で生きていけるまでの護衛が仕事」


「何!? お前そんな依頼を受けたのか?」


「仕方ないだろ? 借金背負ってる立場で、仕事選べる状況じゃないのはアンタも解ってるだろ?」


「むっ……」


「あの、すいません。私のせいで……」


「お嬢さんが謝ることじゃないよ。仕事と報酬天秤に乗っけてこっちで決めたことなんだから」


「確かにそうだな。余計なことを言った。それで、どうする? 何か当てはあるのか?」


「アタイにそんなものあるわけないだろ?」


「な!?」


「そんな驚くことかい? 魔王国なんて好んでくる奴がいるわけないだろ。だから情報だってほとんど入ってこないんだよ」


「ほとんど、ということは全くないわけではないのだろう?」


「全くに限りなく近いけどね。ウェストサイズということと黒騎士が守っているということ位? 後は……」


「後は何だ?」


「いや、これは今気にしても仕方ないよ」


「その言われ方ではかえって気になるだろう。いいから言ってみろ」


「はぁ。はいはい。ただの言い伝えみたいなものだけどね……

 このサイズタイドの東には嘆きの壁ってデカい壁があって、魔王の配下が見張ってるんだってさ。血に塗れたその壁は、常に魔王の配下が見張っていて、そいつらに魔の力を見出され、受け入れた者だけが通ることができる……」


「受け入れられなかったものは?」


「その場でバッサリ……」


「「「……」」」


「ま、噂だけどね」


「……フン、くだらん噂だ。その壁を見た者はどうやってその話を持ち帰ったというのだ」


「アンタが言えって言ったんでしょうが!

 ……ってああ、もしかしてサフィラス、ビビってる?」


「そんなことはない!」


「“シバの教え”だったっけ? 魔王国に近づく事なかれ。その地では生きることも死ぬことも許されぬ、とかなんとか」


「うるさいぞ!!」


「まあまあ、それで本当にどうします?」


「そうだねぇ……ひとまず宿と食料は確保したいけど……」


「あら? ルヴィさん、あれ、食道楽では?」


「ん? おや、ホントだ」


「こっちにもあるんですねぇ……」


「ここで当てもなく彷徨うより、行った方がいいだろう。お嬢さんの疲労も限界のようだしな」


「そうだね。よし、ひとまず今後のお話は腹に旨いもの入れてからにしよう。いいね? お嬢さん」


「はい」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る