魔力の定義

 虎皮共にエルフ含め魔法を使う奴が増えた。


 正確には魔法と彼等が呼称する、魔獣を食することによる変異だ。


 昔は事故ばっかりだったこの魔獣を食べるという行為は、エルフによってかなり改善された。

 エルフは菜食主義なので肉も魚も食わない。

 でも魔法は使いたかったようだ。


 前に釣り上げた海の魔獣。

 多分鯨の変異体だと思うけど。


 水鉄砲が得意な魔獣を、聖教国の船を破壊してまで持ち帰ったエルフ達。

 彼等はその能力を、なんとかして取り込めないかと考えた。


 そしてエルフ達は魔獣の肉に植物の種を埋め込み、その肉ごと畑に産めることで野菜ならぬ魔菜の開発に成功したのである。

 ちなみにトマトがいいらしい。知らねえよ。


 この方法はどういう理屈なのか、魔獣を直接食うよりも発現率が高い。

 今まで発現率は2%弱だったのが5%程まで上昇している。

 また発現した能力は子供に伝わることもある。それを喜んで良いのかはわからん。


 肉より野菜や穀物の方が身体に馴染み、結果能力の定着率を高める結果になったのでは? とかスィンが言ってた。

 理由はどーでも良いのだが、事故が減ったという結果は喜ぶことにしよう。


 ちなみに鯨パワーのおかげでエルフ達は水の魔法を使う奴が多い。

 水魔法は“ウォーターショット水鉄砲”と言う名前が定着した。


 俺はまんま水鉄砲と呼んでいたのだが、不評だったところをスズカが英訳した。

 スマホでゲームをやる程度には、スズカもファンタジーを知っている。


 どんな変異か、手首に小さな穴が現われ、そこから水が矢のように飛んでいく。

 赤と青の蜘蛛タイツ着たアメリカンヒーローが出す糸が、水になったと思って貰えれば良い。


 体内の水を撃っているので、撃ち過ぎると脱水症状になる。

 エルフ達の間では、脱水症状に陥ると「クッ、魔力切れか!?」と言うのが流行っている。誰が教えたんだよ?

 ポカリを魔力回復薬とか呼ばないで欲しい。


 水鉄砲の威力は結構馬鹿にならない。

 小型犬位は撃退出来るし、狙うところ狙えばそれ以上でも抵抗できる。

 ショボい? いやいや。


 別に水鉄砲を身に着けたから、他の武器を使って悪いことはない。

 特殊能力を得たヒーローが「いや、普通に銃使った方が強くね?」と思われてても特殊能力だけで戦うのとはわけが違う。

 いざと言うときの手札が増えたことが重要だ。


 追い込んだと思った相手が、間合いの外から高圧目薬ストライクとかかましてきたら、どんな生物だって嫌がるだろう。

 必ずしも致命に至る威力に拘る必要はない。


 そう、とても有効なのだ。

 銃は渡したくなかったのだが、結果代替え品がエルフや虎皮達に渡ってしまったことになる。

 気が進まないが、対策として俺の身体の機能強化をする予定だ。




 害獣撃退機の効果は実験済み。期待通りの成果が確認出来た。

 凶暴化した野獣も、襲う相手も見当たらないのに、嫌な音だけが襲ってくる……となれば予想通りに撤退するらしい。

 

 MOUSEで成功を確認したところで、これからどんどん鉄道保護用の撃退機も生産と配置をしなければならない。

 マサル達がやる気出しているから生産が滞ることはないだろう。


 配置はウチと中部拠点の間から実施することになった。


 ウチから中部拠点の害獣撃退機設置を虎皮、エルフ、黒騎士達の実施訓練を兼ねて実行させた後、ウチと東北拠点間を虎皮、南関東拠点までをエルフ、中部からサイズタイドを黒騎士が担当して設置することになった。

 設置工事中に野獣や魔獣が襲ってこないとは限らない。いや、野獣撃退機を稼働させてれば襲ってこないか。

 とにかく、虎皮共が外に出るときに関しては、魔法の存在が頼もしい。

 



 レールの設置はドワーフ達が担当することになった。


 ドワーフたちは鍛冶が得意だ。しっかり異世界設定に従うスタイルだ。

 いや、まだ得意ではないのか。

 

 一度逃げ散った彼等は、その後東北拠点に現われ、降伏の意を示したらしい。


 多分、他に生きていける場所を見つけられなかったんだろうな。

 言葉が解らんので、真意は不明だが。


 実際ずんぐりむっくりで動きも速くないドワーフに、狩猟は合っていないらしい。


 力はあるんだけどね。

 罠を使い、魔法を使う虎皮達にとって、腕力だけが取り柄の相手など「当たらなければどうということはない」を地で行くノロマ位の認識なのだろう。


 大工仕事に鍛冶仕事、諸々の運搬作業。

 腕力自慢のお仕事は拠点に一杯転がっている。

 言葉も覚えなきゃならないので、外に出ている暇がなかったりもする。

 

 生憎仕事もしないニートを囲っていられるほど、どの拠点も余裕ってわけじゃない。

 さっさと戦力になって貰うべく、鍛えられているドワーフ達。

 将来的に鍛冶と大工が彼等の得意分野になりそう、と言うべきか。


 そんな狩りの苦手なドワーフでも、理屈の上では害獣撃退機が発動すればレールの設置は安全に作業できることになる。

 だったら力が取り柄の彼等こそ最適な人材だと。

 まあ、俺じゃなければやるのは誰でも構わない。


 レールは前時代の物を使おうかと思ったが歪みが酷く、新規に作るとしてもあんな精度の高い鍛冶を居候達に求められはしない。

 そもそも必要なのはレールじゃなくて、虎皮共が機関車に乗ってあちこち行かないようにするリミッターだ。

 機関車は車輪が回れば走るわけで……じゃあ車輪は普通のタイヤにして、走る道の両脇を壁で囲ってしまおう、ということで落ち着いた。


 壁の高さは俺の腰くらいまで。

 虎皮が道を外れず走らせればいいので、機関車を側面から抑える想定。

 正面衝突に耐えるほどの強度は必要ない。

 ドワーフ達が作る壁でも充分機能するはずだ。


 各拠点の入り口近くで、機関車のUターン用に大きい広場の面積をとって、そこも壁で囲う。

 手間かも知れないが頑張って頂きたい。

 



◇◆◇◆◇


「さて、出来上がりが何年、何十年先かはまだわからんが……機関車が各拠点に繋がったら、その後はどうするか考えているのか?」

「いや。東北拠点と南関東拠点をオーガに任せることになると思っているが」 

「ガウ」


 会議室でお馴染みになりつつあるメンバーと酒を飲む。

 シュテンは確かにサイズタイドとの外交に専念した方がいい。


 中部拠点を含めてどうやって間を繋ぐかは考えておくべきだ。


 誰が? 俺が? エー。

 まあ、考えるぐらいはしよう。


 レールが守れるなら電波塔だって守れよう。


 いっそ各拠点と電話か無線繋いで、領主代行に往き来して貰うようにした方が良いか?

 悪い案じゃない……俺の労働負荷を度外視すれば。


『マスター』

「うん?」

『山田と名乗るアンドロイドがこちらに向ってきています』


 はい?


「山田って……あの山田?」

『はい。如何致しましょう?』 


 まさかの単身乗り込み。

 予想外だ。

 人間がいなくなった後、自己防衛を徹底すると思っていたのに。危険を冒して来るとは。


「スィン、相手は間違いなく独りか?」

『はい、マスター』

「解った。皆、すまんが、俺は山田に会いに行く。皆はゆっくり飲んでてくれ」


 相手が単体なら負けはないだろう。

 なら、なんで来た? とか考えるより会って聞いた方が早い。


 山田を温泉施設に誘導させ、俺も温泉施設にバギーで向う。

 道中、なんとなく山田と会うのは今日が最後じゃないかって気がした。 

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