シュテンの働き方改革

 シュテンはアホ程に忙しい。


 一番の理由はシュテン専用車両のせいだ。

 一応ウチの庭や他の拠点では移動用に馬を育てているが、速さがまるで違う。


 大使とかいう大それた役職を持ちながら、やってることは馬車馬の代わりだ。

 他に代行できる者がいないから一人で頑張るしかない。


 この人程不老って良いことばかりじゃないぞ? って事実を体現している人も珍しくないだろうか?

 不老の人がそもそも珍しいね。


「鉄道でも敷けば話も変わってくるんだろうがねぇ」


 スズカとの夕食。少し冗談交じりのいつもの会話。


「野獣や魔獣がいるものね」

「レールは敷いた先から壊されていく、か」

「ええ」


 講堂で流れる動画の中でシュテンや虎皮達も鉄道については知っていた。

 だから、それが現実的ではないことも知っていた。


 鉄道、つまりレールというのはまあデリケートだ。

 間隔は一定に。野獣がいたずらにじゃれついて、歪ませようものならばそれだけで役立たずだ。

 脱線事故とか笑えない……かどうかは乗ってた奴による。


 そもそも鉄道に拘る必要もないのだが。

 単純にシュテンの負荷を減らそうと思うなら、地下で眠っている車両を稼働させれば良い。


 何故やらないか? 誰が乗るのかって話だ。

 というか乗るとすれば虎皮共だ。

 どうシミュレーションしても事故る未来しか見えない。


 だったら一定以上速度が出ず、かつ一定の場所しか走れない車両なら良いのでは? という案は前からあった。

 それが鉄道だ。


 電車を動かすには当然それなりの電力が必要だが、蒸気機関なら電気は要らんし、燃料は薪でいい。

 でも結局レール敷いても壊されるよね、の一言でこの件は終了する話題だった。


 実際、このとき俺の中で解決案はあった。 

 ただレールとかそも誰敷くねん? と。


 巻き込まれるのはゴメンだ。

 だから敢えて黙っていた。


 で、その敢えて黙っていた解決案が知られる事になったのは、数日後のことだった。




◇◆◇◆◇


「クゥン」

「ん?どうした、マガミ?」


 マガミが少し寂しそうな目ですり寄ってきた。

 モフモフなでなで。


 これが一代プロジェクトの始まりになったと考えれば、我ながら呑気だったものだ。


「わふぅ」


 理由はなんとなく察しが付いた。


 常に外敵駆除に忙しく、またここぞと言うときの偵察で大活躍のトリィに対し、マガミは活躍場所が少ない。

 よって褒められることも少ない。


 犬の本能も全くないわけではないのだ。マガミ達は基本的に寂しがり屋である。


 顔をペロベロと舐められながら、垂れた耳の根元を弄りつつ本気で考えた。

 ウチのかわいいペットの為だ。当然だよね。


 マガミが暇と言うよりトリィが忙しすぎるというのが実際の所だと思う。

 仕事なんてない方がいいのだ(決めつけ)。

 というわけでトリィの働き方改革を進めることにした。


「となるとやっぱり害獣撃退機が一番だよな」

「害獣撃退機って、猫除けのこと?」

「ああ、MOUSEを使えばかなりの射程をカバーできるだろ?」


 お庭の壁も、相手が空を飛ぶなら高度次第では侵入を許してしまう事がある。

 また撃ち落としに成功しても、変異したデカい鳥が落ちてきたら下の奴らが危ない。


 結局飛行する相手はEシリーズが撃つと同時に捕まえて、お腹の中に収めるのが一番ってことになっている。 


 トリィ達は物理的に常在戦場。一方マガミ達は虎皮のサポートで猪を狩るだけ。

 余りに仕事に差がありすぎる。

 じゃあ空中から野獣が入ってこなければ良いじゃない? 


 鳥除けと言えば案山子、といえたのは昔の話。昔もそんな効果あったかは知らんけど。

 今は寧ろ襲って来ちゃうからね。

 見た目で脅そうとするのは逆効果。


 そこで音で撃退出来ないかと考えたわけだ。

 鉄道守備案として考えて、なかったことにした案を引っ張り出しただけともいう。

 危害を加えれば興奮し、やり返そうとする野獣達も、出本の解らん攻撃なら話は別。やり返しようがないしね。

 


 

 とまあ、そんな経緯があった日の夜。

 会議室で飲みながら、ウチのペットかわいい自慢のつもりで話していた際、つい流れで害獣撃待機の話をしてしまったわけだ。

 そして鉄道と猫除けの相性に気がついたのは何故かコイツだった。


「ケモノ、ヨラナイ。テツドー、ツカエル?」

「「はっ!?」」


 ヤコウなりにパパを心配したのかもしれん。


 目を大きく広げ、ヤコウを見るシュテンとオーガとタイガ。

 気持ちは解る。


 解るが、ちょっと待って欲しい。

 MOUSEが届くのはウチの庭のちょっと外まで。

 鉄道を守ろうとするなら害獣撃退機を大量生産し、レールの両脇に設置していかなければならない。


 その害獣撃退機を誰が作ると思っている?

 マサル達だ。

 イヤ、そうだけど……アレよ。

 設計図を引くという面倒くさい作業を誰がやると思っているのか?


 そしてレールは誰が敷くんだよ?

 君達、狩りだなんだでそれなりに手一杯だよね?


「トキ殿……」


 ハゲ親父に見つめられても何も嬉しくない。

 

「……やろうとすると電力の確保が必要になる」

「電線を引くのは流石に難しいから、ソーラーパネル付きで単体稼働出来るっていうのが条件になるかしら?」

「そうなるな。必要な材料は自分達で集めるように」


 組織変更した強化葉緑体がベースの前時代最新ソーラーパネルなら、日光さえ当たっていればまだ使えるだろう。

 音の発生装置、つまりスピーカーの部分はそこら辺の遺跡に落ちてるものを回収して再利用だ。


 スマホやタブレット、PCやテレビやスピーカー。

 その気になって探せば材料はある。

 ……大分朽ちちゃってるかもしれないが。


 最悪、ウチの全く使われていない客室にあるモニターなんかも回収すれば数量は間に合うはずだ。


 撃退機の設計、試作、使用試験。

 試作結果から必要な材料の数量試算。

 大量生産に向けての金型設計と作製。


 ……やることが多すぎる。スィンも巻き込もう、そうしよう。




◇◆◇◆◇


 とまあ、そんなことがありまして。

 ウチの庭の一角には大量の前時代の遺産が集まってきている。

 どれだけ使えるか解らないが、回収ペースは順調だ。


 2000年以上放置されていた前時代の遺産は流石に汚い。

 それらがどんどん山積みにされ、ちょっと近づきたくないゴミ山が出来上がっている。

 スズカママンが御不満そうだ。


 スズカは言わなかったけど、多分「はよ片付けろや」という本音もあるんだろうね。

 ええ、解っておりますとも。


 山田なんぞ気にしている場合じゃないのです。

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