変化の前触れ

 ゴオォーーーーーールッ!!


 吉備津選手、正に歴史に残る華麗なシュートでした。

 残念ながらヒーローインタビューはないけれど。


 ぶち込んでやりましたとも、ええ。

 トリィの視点映像を受け取れば、聖都の一部で発電所の破壊と同時に明かりが消えた。


 前時代の頃であれば大抵の重要施設は主電源が止まっても、予備電源が動くようになっている。


 だが発電施設というのは大半が地上にあって人の整備がなければ維持できない。

 地下に建設されている施設などそうそうないから、野獣蠢くこの御時世に中々生き残っている施設なんてない。

 

 重要施設なんだから、それでも……と思ったりしたが杞憂だった。

 ビリオンさん結構ザルだな。


 ちなみに言い換えれば今回のターゲット、地熱発電施設は地下にあったが、そこは電磁加速砲のパワーにものをいわせた。

 華麗なシュートとは? ……いや、細かいことはいいのよ。


 サーモグラフィーに切り替えれば、アンドロイドの熱反応が屋敷の地下まで大急ぎで降りていったから、やはり俺の推測は当たっていたのだと確信する。




 少し寂しい気もする。


 信じていた訳ではないが、どこかで山田が言うことが本当だったらいいなと思っていた。

 聖教国が内部で揉めているのは本当で、その一部が俺と手を組みたがっているっていうのが本当だったらと。


 まるで友達を欲している、ボッチないじめられっ子の心境だ。

 皆に虐められる中で横から手を伸してくれる奴者が現われれば、「君、良い奴だね」って依存しちゃうのが人ってもんではなかろうか。




 感傷に浸ってれば、いつの間にか事態は進んでいた。


 冷凍睡眠装置の緊急解凍機能が働いたのだろうか。

 突如異様な冷気が吹き出した場所があった。


 そこに現われた人型の熱源体は、アンドロイドの熱源体が手を向けて高熱の線を放つと徐々にその熱を失っていった。


 アンドロイドは蹲り、暫くそこから動かなかった。


 つまりそういうことなんだろう。

 今うずくまっているアンドロイドは父、鬼堂日出雄を撃ったビリオンだ。


 なんでだろうな……居たたまれない。

 身を守る為に、やるべきことをやっただけの筈なのに……気分が悪い。


 仕事は終わった。

 さっさと帰って、後の情報はトリィの録画を見て寝ることにしよう。




◇◆◇◆◇


「どうだった?」

「やっぱりそうだったようだよ」

「そう……辛い?」

「いや……どうだろう」

「トキ。あなたがしたことは間違っていないわ。あなたは皆を守ったの。胸を張って」


 元リンディアさん。なかなかに図太い。


「大丈夫だよ。それより」

「これからのこと?」


 ああ。これからだ。 


 俺は聖人達が動く理由を奪ったが、聖人達がいなくなったわけではない。

 この状況を知った聖人達は、おそらくアンドロイドな部分にエラーが起きるはずだ。経験者は語る。


 第一、第二原則が人間がいなくなったことで機能しなくなるわけだ。


 仕事一筋で生きてきたワーカーホリックが、ある日突然解雇を言い渡されて次の日からニート生活に入る感じ。

 人間ならメンタルにクるよね。


 実際人間時代そういう人達が心を病んだなんてニュースを何度聞かされたっけか。

 アンドロイドだってエラーぐらい起こすさ。


 つーか、重要なのは奴らのメンタルケアじゃなくて、奴らが今後どう動くかってことだ。


 自分の為に生きることを許されなかった者達が、唯一有効である第三原則の基、自分の為に動き出す。

 第三原則が最優先原則となった今、奴らは命の危険を如何に排除するかを優先する。


 その点で奴らのメンタル面は心配ないな。

 第三原則のおかげで落ち込むことなど許されず、彼等は心新たにセカンドライフを送ることになる。

 

 うん、そう考えれば僕ちゃんってばとっても良いことしたんじゃないだろうか?

 きっと良いことだ。そう思おう。よし! 


 話を戻そう。


 これから彼等は自分が生き残る道を最優先に選ぶわけだ。

 戦闘機に生身で向かい行くシチュに命の危機を感じなかったら、ちょっと思考回路がヤバイので、もうこっちに向ってくることはないだろう。

 例外を除けば。


 で、その例外筆頭の億長は人間の部分が俺を親の仇と恨むかも知れない。

 そうならないように自分の手でやらせた部分もあるが、恨む奴は恨む。人って怖いよね。


 とはいえ他の奴はそうはならんだろうし、億長的にもそんなこと言っている場合じゃなくなるはずだ。


 スーパーアイドルヒデちゃんの為に生きてきた熱狂的ファン達が、突如熱が冷めて「今日から自分の為に生きていきます」とファンクラブを脱退するわけである。

 当然、手なんて取り合いようがない。


 つまり俺の予測。

 内乱が起きるんじゃないかなって。


 聖人達はこれから潰し合ってくれるはず。

 俺のスーパーアンドロイドが精密な演算の基に叩き出した答えだ。

 そんなに外れていないだろう。


 そう、彼等は勝手に自滅するのである。

 残った戦力で攻めてきたところで、もうウチの敵ではないわ! ワハハハ。


 言い換えればウチの脅威は去ったのだ。

 はい、ありがとう。これからの未来は明るい!


「いやー、仕事終わりの一杯は格別やで」

「お疲れ様、トキ」


 乾杯。俺とスズカのグラスから、静かに響く硝子の音が心地良い。


「ところでトキ」

「うん?」

「シュテンさんから問い合わせがあったんだけど」


 ……一仕事終えたら次の仕事がやってくる。

 会社か、ここは?


「そんな顔しないで」

「へえへえ。どーせアレでしょ? 害獣撃退機と蒸気機関車の件でしょ?」

「そう。期待だけさせて放置は可哀想よ?」

「放置プレイが好きな人も世の中いるんだけどね」

「そこで私の顔を見ないで」


 ちなみに仕事が増えたのは自分のせいだったりする。

 はぁ……なんで俺は口を滑らしちゃったかな……

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