10章 ~誰が為の生か~

ASR1000年 とある学園の歴史講義⑨

<講堂>


「ところで皆、千年祭とは何かは解っていような?


 聖教国建国より千年が経った。

 勿論、それだけでも祝うべきではあるのだが。


 この聖教国をここまで発展させてきた偉大なる先人達に感謝を捧げ、そして次なる千年がより良き未来であるよう、皆が団結する為のものだ。


 詳細はまだ明確ではないが、千年祭では神との対話を終えた聖人の方々がその御身を我々の前に現される。

 そして、新たに選ばれた勇者に今までにない奇跡の力を御与えになる、と言われている。


 聖人の方々が魂を還された等と噂する不届きな連中もかつていたようだが、その様な者達も一掃されることであろうな。


 我々学者にとっても、待ち遠しい時であった。

 歴史を知る聖人の方々のお声を頂ければ、今まで仮説とされていた歴史の空白も埋まることであろう。


 そうなれば学会で歴史を議論すると言うことも必要なくなるであろうな。

 我々講師は歴史を研究する立場から、歴史の真実を語り継ぐ立場へと変わるわけだ。


 ファルテン」


「はい」


「君の家は確か騎士の家柄であったな。


 確か父君は北の親衛騎士隊隊長だったか?」


「はい、仰る通りです」


「ふむ。では千年祭を境に騎士はどう変わるかね?」


「騎士が変わる、ですか?」


「うむ」


「それはどういう……?」


「質問が難しかったかな?


 皆も今一度頭に入れて欲しい。

 過去に学び、未来を予測する。それこそが歴史を学ぶ最大の意義である。


 千年祭で聖人の方々が勇者に奇跡の力を与える。

 つまり、これが意味するところは何かな?」


「それは……魔王を討ち倒す、とうことでは?」


「そう。つまり千年祭は魔王国との最終決戦を宣言する狼煙でもあるのだ。

 疑う余地もないが聖教国の勝利は揺るがぬであろうな。


 さて、では魔王が討たれれば何が起きる?」


「魔王が討たれれば?」


「そうだ。


 魔王に備え今まで聖教国は力を蓄えてきた。

 だが、その魔王がいなくなる。つまり聖教国から敵が消える。


 ここで思い出して欲しい。


 聖教国が魔王国の出現によって実行した政策は?

 そう、富国強兵だ。


 だが、その魔王国が崩壊すればどうなる?

 もう解るであろう?」


「我が国はまた、領地拡大に動き出す……!」


「その通り!


 そしてその時、騎士のあるべき姿は今と同じであろうか?

 答えは否だ。


 ヤコウの影に備える必要はもうない。

 護りから攻めへとその方針を転じるであろうな。


 しかし、防衛に主を置いた今の騎士達は、領の外の世界を知らぬ者も少なくない。


 ではどうする?」


「それは……冒険者ギルドとの連携……!」


「うむ。


 まあ、これはあくまで戦略に関しては素人の私の勝手な推測であるがな。


 人がその役割を果たす為に学び続けることは重要だ。

 とはいえ時間は有限で、人の学べる量には限りはある。


 要はそのように時代の先を読み、次に何を求められるかを予測し、今自分が何を学ぶべきかを考えることが、人の上に立つ者には重要だということなのだ。


 といっても、試験の前に山を張ることを推奨しているわけではないぞ。フハハハハ。


 では、政治に関しても聞いてみようか。


 ミレ……おっと、彼女は学園を離れたのであったな。

 もう一月にもなるというのに、いかんいかん……


 では、フィフト」


「はい」


「政治に関しては君に聞こう……」




◇◆◇◆◇


<ウェストサイズ~イーストウィンド街道>


「ルヴィ! 右だ!」


「ッぶなッ!? ヤバイ、抜かれた! エメラダ! お嬢さんを!!」


「きゃあぁあッ!?」


「任せて! “ウォーターショット”!!」




「大丈夫かい? お嬢さん」


「ええ、エメラダさんが助けて下さいましたから。その……今のは?」


「魔法さ」


「ッ!?」




「エメラダ、助かった。アンタのソレがなかったら、ミレニアが危なかったよ」


「フフ、いいのですよ。というか、私の魔法が効く相手でよかったです」


「確かに。もう少し“結界”の数を増やしてくれないと気が休まるもんじゃない」


「それでも、昔よりはよい時代になったと聞きますよ?」


「そうなんだろうけどさ。あー、まいいや」




「やれやれ。しかしツいてないね。もうすぐ世間は千年祭だってのにさ。魔王領目指して、野獣に襲われて」


「私の為に申し訳ありません」


「謝んないでよ。仕事だし、アンタに文句言ってるわけじゃないさ」


「あら意外ですわね。ルヴィも祭りに興味があったのですね」


「あるわけないだろ? エメラダ。ただ、今回は聖人のご尊顔を拝顔できるっていうからね」


「その様ですわね」




「アタイは聖人達は死んだ方に賭けてたからね。それがホントなら大損だよ」


「ルヴィさん。それは余りにも不敬では?」


「怖い顔しなさんなって、お嬢さん。実際去年までそんな話もなかったんだ。そんな噂が流れたって仕方ないだろう?」


「仕方ないって……」


「小等学校で歴史を教わったときは、正直講師をバカにしてたもんさ。研究なんてしてないで聖人に聞いて来いってね。大人になれば、じゃあなんで聞けないんだって勘ぐる奴らだって出てくるよ」


「それでも、聖人様方をその様に……」


「はいはい。でも気をつけな」


「はい?」


「そんなことで不敬なんて言ってたら、逆に目をつけられる所にこれから行くんだ。前を見なよ」


「っ! ……あ、あれが」


「ああ、黒き騎士の守る街、サイズタイドの西の領。ウェストサイズだよ」


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