山田の目的
そもそも山田チームの目的とは何なのか?
考える上で少し、振り返ってみよう。
俺達アンドロイドやロボットなどAIの組み込まれた自己判断能力を持つものは、三原則が組み込まれている。
ざっくり言ってしまえば、「人間の為に頑張りましょう」ってことね。
ところが人間が変異し、人間じゃなくなったことで、この三原則にエラーが起きた。
結果、俺は自分やスィンの原則を書き換えることが出来た。
自我に目覚めたアンドロイドは言ってみれば人格を2つ持っているようなものだ。
人間としての人格と、アンドロイドとしての人格。
お互いがお互いを引っ張り合う。
俺が自分勝手に生きていられるのは、AIの原則を“吉備津兆の為”に書き換えたからだ。
スズカが俺に飽きることなく惚れている理由も、修理した際に三原則がアップデートされたからっていうのがある。これは言ってて悲しいが。
じゃあ“書き換えられてなかったら”?
当然、人間の為に生きようとするだろう。
実際、出会った当初リンディアは「新しい人類の為に」と言っていた。
でもこれ、普通に矛盾だらけなんだよね。
新しい人類を人間と認め、人間の為に動いているのなら、周辺集落を代表とする飢えた人々ってやつを無視できるはずないんだ。
何としても助けようとするだろう。助けたくなるはずだ。
もっと言えば自分たちが新しい人類の上の立場に立つ、なんてことはしないだろう。
だからあれば言葉だけで、自分達の為に生きているんだろうなと思っていたが、これも変なんだよね。
自己防衛に走るなら、俺みたいに安全な拠点を確保して閉じこもっているのが一番だ。
リンディアの言葉を振り返るなら、1000年前位まではアンドロイドだけで生き残っていたはずだ。
自分の為に生きようと書き換えたアンドロイドが自分意外に6体もいれば、生活も防衛も充分回るだろう。
頭割られたリンディアさんみたいに、わざわざ新人類造って裏切られる必要なんてない。
じゃあ、聖教国のアンドロイド達の目的は何なのか?
俺が自身の記憶を消していると言った時、山田は随分驚いていた。
理由は? 奴らにその自由はなかったからだろう。
人の為にあらゆる情報を記憶し続けるアンドロイドには、本来そんな自由がない。
つまり聖人共の原則は、変わらずそのままってことだ。
じゃあ、山田チームの目的は?
答えは簡単。
“純粋な人間の復活”だ。
ここであの日記が意味を持ってくる。
鬼堂日出雄は子供を亡くしてしまった。
それ以来、異様に生へと執着するようになったと奥さんの日記には書かれていた。
実際その執念はシェルターの中にも垣間見られた。現在シュテンが使用しているあのボディだ。
鬼堂さんは自身を機械に変えてまで永遠の命を手に入れようとしていた。
だが鬼堂さんは病に倒れてしまった……ボディの完成前に。
このままでは死ぬと解った鬼堂さんの選択は、奥さんの日記には“誤った選択なのかもしれない”と書かれていた。
想像はつく。
多分、冷凍睡眠だろう。
殺人と見なされ、違法とされた方法を自身の身にかけたのだ。
鬼堂さんがいくら権力者とはいえ、それを公然と人前でやるわけにはいかない。
このシェルターが各地のアンテナが朽ちたり、衛生が落ちたりするまでは、一部オンラインだったこともあるだろう。
万が一の情報漏洩を避けるため、鬼堂さんは本州の西の潰れかけた医療施設を買い上げ、各種設備を揃え、外部との通信を切った上でそこに眠った。
おそらく自身の息子の細胞が使われたアンドロイドを見つけ出し、彼を世話役につけて……どんな思いだったのかね。
結局鬼堂さんは目覚めることなく、世界が黒い霧で覆われた。
今も冷凍されたまま唯一“人間”のままであるのだろう。
アンドロイドがそれを知ってしまったら?
人間の為に生きるアンドロイド達は“鬼堂日出雄”の為に行動せねばならないわけだ。
サンライズ聖教国とは良く言ったものだね。
ここで厄介なのが鬼堂さんを目覚めさせた場合、すぐに黒い霧で変異し人間を辞めてしまうことだ。
鬼堂さんを人間のまま無事に目覚めさせる。その実験の過程で生まれたのが、今の新人類達なのかもしれない。
そしておそらく、新しい人類を造り上げることは出来ても、既存の人間を人間のまま目覚めさせることはできなかったんだろう。
鬼堂さんが目覚めたときの為、“鬼堂の為の組織”を新人類を使って建設しながら、肝心の鬼堂さん復活については目処が付かなかったんじゃなかろうか?
だから奴らは新しい力を欲した。
自分たちでは無理だったから。
自分達よりも力ある存在を。
だから奴らは危険を冒し、この鬼堂シェルターまで道を繋いで来たんじゃないかな。
リンディアさんは偶然ここを見つけたんじゃない。
ここを探していた。
リンディアさんがフットハンドルに拠点を一度設けたのは、あそこに武器が眠っていたことを知っていたからだろう。
壊れた武器を虎皮が見つけてきたことがあったが、実際、前時代あそこには特殊部隊の待機所があった。
壊れた物も多かったろうけど、無事だった物もあったんじゃないかな?
そう考えれば山田が懐に帯びている銃は、おそらくフットハンドルにあったものだろうな。
ここまで単騎で来れる山田が、なぜここにフットハンドルが滅んだ後まで来なかったのか?
それまではここに来るために十分な武装がなかったんじゃないだろうか?
さて、いざ探して出してみればそこに俺がいた。
少なくとも自分たちよりスペックの高いアンドロイド。
そしてそのハイスペックがシェルターを掌握していた。
コイツにやらせよう、と考えたのは誰だったのかね? やっぱり億長だろうか?
スズカという嫁が出来たのも、奴らにとってはきっと都合が良かったことだろうよ。
わざわざ自分たちが新人類を造る上で参考にした生物サンプル、ヤコウを送り届け、山田はことある毎に子供を作るよう催促してきた。
俺達が子供を作れば変異してしまう。
嫌なら人間を人間のまま生む技術が必要だ。
その技術があれば、鬼堂も人間のまま目覚めるだろうさ。
勿論子供が出来れば俺は用済みだ。
このシェルターは、俺が死ねばエラーをまた起こす。そうなれば乗っ取るのは簡単だ。
そのときはスズカもシュテンも身体の整備が出来ずに朽ちていくだろう。 いや、シュテンの身体は取り戻すか。
あれがなければ、鬼堂さんの寿命は有限だ。
奴らにとって俺は鬼堂復活のキーであると同時に復活後邪魔になる存在だった。
だから奴らにとって目的の達成後、速やかにどうやって俺を排除するかは問題だったはずだ。
正面から挑んでも防壁とマガミやトリィ達に阻まれるからだ。
俺に子供作らせる一方で、俺が防壁の外にでなきゃいけない状態をつくりたかったんだろうな。
魔獣を発生させて、各地に拠点を建設させ、ことある毎に俺が移動しなきゃいけない環境にしたかったんだと思う。
加えて俺を始末できれば、新設した拠点は全て手に入る……上手い手だ。
ま、生憎移動は全部シュテンに任せてるが。
魔獣に俺が襲われて、人間の本能を刺激されれば、生殖本能に従い子供作りたがるようになるかもって考えた可能性もあるかな?
でも俺は外に出ず、子供を作ることもなかった。
次の一手で迷ったところで、他にも人間が生き残ってたなんて言われたら?
そして、それを俺が殲滅すると言ったら?
彼等の行動理念の根源は鬼堂の為ではなく、あくまで人間の為。
守りたくもなるよね。
その証拠は山田の行動だ。情報提供あざっす。
ドワーフを守る為には? 俺を殺すのが一番手っ取り早い手だ。
さて、ここからがまだよく解らん。
ドワーフを全員連れ出すには人手がいるが、そんな人数ではそもそもサイズタイドを抜けられない。
とはいえ、このままじゃ俺は殺せない。
そしてそんな中ビリオンは気付く。 こっちの言うこと真に受けて、何も調べないってことはないだろう。
ドワーフもまた人間ではないと解ったアイツらはどう動く?
自分達の思惑が俺に気付かれたことには勘付くだろう。
つまりどっちにしても奴らにとって、俺は思惑通り動かない邪魔者ってだけの存在になるはずだ。
ならば俺を除外し、シェルターを、スィンだけでも手に入れようとするってのが妥当かね。
方法は解らんが、やっぱり何らかの方法で俺を殺しに来るのは間違いなさそうだ。
いや、しかしイイ感じで動揺してくれてたな、山田さんは。
ドワーフに埋め込んだ発信器にも気付かなかった。
いつもならやらないミス。
何で動揺したんだろう?
ドワーフがいれば自分の父親が用済みになると考えたとか?
人間の人格が出過ぎだね。しゃーないか。
これまで山田の追跡は難しかった。
だが、その日は違った。
広範囲に信号を垂れ流しながら帰ってくれた。
トリィが追うのは簡単だった。
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