最悪の予想

 さて、山田にああは言ったものの、ドワーフを殲滅する気はなかった。

 山田を動揺させる為の一言にすぎなくて……すぎなかったんだ。


 誰だ!?

 ドワーフに特攻仕掛けるよう指示した奴は?


「ガウ?」


 散々長々と語ってきたが、コレが俺が汚い風鈴を見るハメになった理由だ。


 俺と山田の話を聞いていたタイガが、オーガに指示してドワーフに特攻をかけた。


 つまりアレ。忖度ってやつ?


 上司の考えを先回りして動くっていうのは悪いことではないが、間違えると悲惨だってことはちゃんと頭に入れておいた方が良いと思う。

 確認って大事。


 ドワーフを捕まえ、帰りが遅いと訝しんだ連中が探しに出てたようで、現場がヤキモキしていたと。

 判断を焦りすぎだ。


 野獣に囲まれた生活で、誰かがいなくなるなんぞ普通だろ。

 建設中の壁に気付いた奴だけ吹き矢でピュッして、あとは放っとけば時間の経過と共にドワーフ達もいなくなった仲間の事なんぞ忘れただろうさ。


 ドワーフは散り散りになって逃げたらしい。

 一応逃げ込んできた奴が拠点にきた場合は受け入れるよう各拠点に通達した。


 

 

 とまあドワーフのことは置いておいて。


 茶を飲んで外でゆったり構えてたのは、何も汚えガラクタを見ているためだけだったわけじゃない。

 かわいいウチのペット、トリィをお出迎えする為だ。


 ウチの上空だけ警護してれば良いところを、危ないお外に行って貰ったわけだから報わぬわけにはいかん。


 トリィを特別扱いしているわけじゃない。

 マサルが街や船の建設をお手伝いして帰ったときも、ちゃんとナデナデしてもふもふして各々の好物をあげている。


 そしてトリィは帰って来た。

 つまり山田がどこに帰ったかが解ったわけだ。

 

 場所は聖都。

 聖都の領主がビリオンだってことは流石に解っている。

 てことは少なくとも山田とビリオンに何らかの繋がりがあることは間違いなくなった。うん、スッキリだ。




 スズカとの夕食を終えた後、今後のことを考える。


 山田の反応と帰り先を考える限り、俺の考察は間違いってことは多分ないから、奴らがどうやって俺を排除するつもりでいるのか予想してみよう。


 聖教国の領同士は、少なくとも通信で繋がっているってことはないはずだ。

 衛星もアンテナも壊れてるし、アンテナは復旧できても野獣共がすぐに壊すし。


 だから俺にとって一番の理想は、俺を排除する算段は何もなく、皆で集まって相談する為に山田チームが聖都に聖人達を集めるって展開。

 そうしてくれれば誰が山田チームに属しているのかもわかる。


 ま、俺の推測が正しければ、聖人達全員がそうなんだろうけど。人間がいる限り原則の書き換えはできないだろうし。


 と、いつもなら奴らがどんな行動をとるのか待つのだが、相手が殺意満々アンドロイドだと想定するなら、あんまり舐めてかからない方が良いだろう。

 勝算なしで動いてるとは思えないし。


 とはいえ、俺がシェルターにいる限り排除が厳しいことを奴らは知っている。

 じゃあ奴らはどんな手を使う? どんなカードを持っている?

 

 奴らはフットハンドルで武器を手に入れたはずだ。

 ある程度整備は出来たと思った方が良い。

 これを前提条件として。


 どんな武器があったんだろうか?


 街が拓けるまで放置されていた場所だ。

 戦闘機みたいな地上にある飛空系の大物を地下にしまう奴はいまい。

 地上のアレコレは野獣達が長い年月をかけてガラクタにしてくれているはず。

 地下に保存されているものは? 歩兵武器が精々か。


 じゃあ使える歩兵はいるのか?

 勇者(笑)とか?奴らに銃持たせたらちょっとだけ面倒かも。

 HC細胞で強化された人間が前時代の兵器を使いこなしたら庭の防壁に小さい穴くらいは開けられるかもしれん。

 でも言い換えればその程度。勝算と呼べるようなものじゃない。


 ……HC細胞?


 あ、そうか!?

 アイツらの勝算ってそういうことか。


 ヤコウは現代で造られた。

 つまりHC実験体を奴らは造れる。或いはオリジナルがいるんだ。


 どっちでも良いがヤコウオリジナルがいるとしよう。


 サイズタイドから中部拠点の黒騎士連中はヤコウの言うことに従う。

 なら、当然ヤコウオリジナルにも従う。

 それ以前にヤコウの様な複製体が1体とも限らないんじゃん。


 つまり現状奴らは中部拠点までをその気になれば一気に攻略可能。しかも、攻略ついでに戦力を増強できる。

 そいつらが銃で武装したら?


 ……アカン。


 お庭の防壁じゃ保たない。

 黒騎士の数それなりに偉いことになっとるし。


 GとEと居候ズの防衛陣は……今のサイズタイドと中部拠点の黒騎士全員に銃が行き渡って攻めてくる最悪計算だと……ダメやん。

 そしてシェルターの防壁で黒騎士は全滅ってところか。代わりにシェルターの防壁も無事ではすまないな。 


 だがまだ俺を殺せてはいない。最後の一押しはどうやる?

 軍事アンドロイドの直接攻撃ってところか。

 

 相手の人数と相手の武装次第じゃ負けがあるか。

 

 さてどうしよ?


 防衛戦で負けが見込めるなら、先手を打って攻撃に出るしかない。

 流石に寝て待ってる場合じゃないようだ。

 

 なるほど。

 気は進まないが飛んでってドカンとやるしかなさそうだね。


 ……やだなー。 結局こうなんのかよ。



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