遊んだ後のお片付け
部屋が汚い人あるある。
「片付けてないんじゃない。自分の使いやすい場所に配置してあるんだ」
これは果たして言い訳だろうか?
実際自分の部屋を他人が片付けるとどこに何があるか解らなくなるから、結構本人は本気でそう思っていることもある。
俺もそうだ。
人魚像を削ったり、スズカの武器造ったり、タイガ人形を組み立てたり、バイデント加工したり……
他にも気が向いては色んなものに手を出してきた。
そして一度使った道具というのに、何故か俺は愛着を持つ方だ。
熱線銃も同じものを使い続ける程度には、なんか一度使ったものは使い続ける習性が俺にはある。
手に馴染むっていうのかな。
新しいものを使うとき同じものの筈なのに、なんか手に違和感を感じるって事はないだろうか?
俺はある。だから俺が使ったものはその場から動かさないようにスィンには命じている。
基本的にシェルターの中の掃除はスィンがコントロールするロボット任せなので、俺がそう言えば道具が片付けられることはない。
つまり俺が工房代わりに使っていた倉庫の一角は、俺なりにちゃんと配置を考えて……
はい、片付けますスズカママン。
前々から言われていたが、中々ね……はい、わかっています。
シェルターの倉庫は広大だ。
じゃあと元の位置に戻すと、また取りに行くのも面倒臭くてね。
「自分の道具は一ヶ所にまとめておけばいいんじゃないかしら?」
「なるほど、つまり今のままで--」
「せめて棚に整理して」
そう言われても都合良く空いてる棚なんぞない。
「要らないものを片付ければ良いのよ」
「例えば」
「本とかスキャンすれば原本要らないでしょ?」
……よく覚えてましたね。
200年以上放置した紙の本。
確かにスキャンしてポイしてしまえば棚が空く。くっ……コレが狙いか!?
「子供じゃないんだから、使った後の片付けくらい、ちゃんとしなさい?」
はい。仰る通りです。
自由には代償があるものだ。
好き勝手汚した床を見ながら、そんなことを考えてみる。
下らんこと考えてないでさっさと片付けよう。
本の保護パックを外し、片っ端からスキャンする。
一回視界に入れれば画像データをスィンが記録し、テキストデータに解析してくれるから、只目を通せば良いだけなのだが。
本の数が数だけに面倒この上ない。
自分でやっていると、これだけで今日が終わってしまいそうだ。
別に俺の目じゃなくても、スィンと繋がってれば構わないんだよね……ふむ。
「スィン、マサルを呼んでくれ」
スキャンしたデータは次に寝たときにインプットされるので、そこから必要ないデータを俺のバイオメモリからデリートする。
これがまた面倒くさい。
どれが要るもので、どれが要らないものか選別すると言うことは、まず要否判断のため中身を全部チェックするということで。
スズカがいくつか興味を示していたものがあったので、後で会話をされたときに困らん為にも全選択削除が出来ないのが悲しい。
棚に道具を並べるという地味な作業をこなしながら、明日の目覚めは少し憂鬱だなとか考えていた。
◇◆◇◆◇
生物というのは代わり映えのない平穏と安息の中で生きるには向いていないのかもしれない。
俺は自身を守る為、よく記憶を消す。
本来知っていてもおかしくないことも、消した記憶の中にはあったのかもしれないが、消しちゃったから思い出すことはない。
新発見のように驚きを感じる。
この本の中身を不本意ながら見たときにもそれがあった。
日記“ひーちゃん&みーたん”だ。
鬼堂シェルターにあった日記だ。よくよく考えずとも、当然書いたのは鬼堂一家の人。
ちなみに奥さんのみーたんこと
先に言い訳させて欲しい。
2000年以上前、ここに来たとき持ち主の名前や客の名簿の詳細は残っていたが、乗っ取る上でシステム上からは消去した。
個人名を登録したままにしておくとセキュリティーが面倒臭い。
人間が死んだことでスィンがエラーを起こしていたのをいいことに、このシェルターが俺の所有、管理権限を書き換え、ここを手に入れたわけで。
所有者に別の名前が残っていると、シェルターを使う上で諸々不都合が出る。
今や彼等の名前はスィンの中に“過去に使用していた人”としての記録が残るのみだ。
だからここを元々利用していた人達のことはよく知らない。
正確には知ってるけど記憶から消している。だってどーせ会うことないもの。
偉い人の名前が連なってたなーとか、持ち主が鬼堂さんってことはシェルター名から忘れようがなかったが、それ以上知ろうとは思わんかった。
うん、俺は悪くない。ね?
日記を序盤から内容説明すると長くなるから今は省略するとして、要点だけ言うとだ。
鬼堂さん。つまりひーちゃんの名前は“
ちなみに鬼堂さんには、不幸にも幼少で他界した息子がいたそうだ。
名前は“
由来は億万長者からだそうだ。どんだけ金の権化だよ。
しかし
まだ確信があるわけじゃない。
ただこれ、偶然なんだろうか?
リンディアさんがサンライズ聖教国の聖人、つまりアンドロイド達のリーダーがビリオンだと言ってた記憶がある。
……
只の偶然の可能性はある。
が、いや、そのなんだ……こじつけるといろいろ辻褄が合いすぎて。
取りあえずデータをデリートしなくてよかった。
飛躍しすぎた考えかも知れないけれど、もし偶然でないのなら、聖教国のやりたいことも見えた気がする。
山田にふっかけるか?
アイツ隙見せねえしなぁ……
裏で調査して確証を得るか。
多分聖人共にはウチのスパイ組織だってことがバレバレな食道楽。
役に立たなそうだなぁ。
うん、ゆっくり考えよ。
時間のあるときに。
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