酒の味は気分で結構変わると思う
問題が一つ解決したところで、当初の問題。海の魔獣である。
黒くて大っきくて固いらしいソイツを仕留めんと士気高々だが、まずは見つけないことにはね。
しかしそんなデカいなら餌にも困ろうよ。放っとけばどっか行くんじゃね?
水吐くだけなら火事になることもないから、俺的には放置でもいい気がしてきたが、現地の菜食エルフはヤル気満々らしい。
お前ら菜食ちゃうんかい!? と思ったが、街にはヤコウ系列もいたわけで。
街でヤコウ系列の為、畜産の話も上がっているたのだが、畜産をすると言うことは畑の収穫物を家畜に食われると言うことで、結果エルフ達が困ると。
自分たちの食文化を守る為に、漁業に出て黒騎士達には魚食って貰おうと。
船を安心して出したいから海の魔獣を仕留める必要があると。
食文化の違いは余り無視しない方が良い。
エルフとヤコウ系列は住む場所を分けた方がいいのかもしれんね。
その辺は置いといて、今は海の魔獣だ。そうでした。
発見出来れば仕留められる武器はあるので、見つけられないのが問題なら行動を予想するしかない。
まず何をしてるのか?
初めはフットハンドルに現われた。
次に西に移動し、サウスタイドの近くに現われた。
次もまた西に移動するとしたら、サウスウィンドの近くに出没する感じか? データが少なくて確かではないが。
しかしなんのために移動してんだろ?
ホントに餌のためかもね。巨体を維持するために目に付く魚を泳ぎ食いしながら移動してるんじゃないだろうか?
まあ、あるかどうかも解らん変異した魚の思考回路はともかく、本能に忠実に動いているなら、いそうなところに撒き餌でもしとけば食いついてくるだろう。
◇◆◇◆◇
「ふー。酒が旨い」
駄々っ子領主の案件が片付いてから約1ヶ月。
シュテンが酒を旨そうに飲んでいる。
厄介事が片付いたんだろうな。
俺も飲もう。
なんだ、話を聞いて欲しいのか?
まあ、聞くらいしてやろう。
話を聞いてみれば案の定、魔獣については片が付いた。
予想通りサウスウィンドの近海で、海の大きな魔獣を撒き餌作戦で誘き寄せた所を仕留めたそうだ。
バイデントが大活躍だったらしい。よかった。やっぱどんな生物であれ、中からビリビリやられれば生きてられないよね。
「その後聖教国と揉めたようで、まだ一件落着とはいってないが」
「……何があったよ?」
魔獣を仕留め、イェーイってなってた所に水を差した者がいた。
RPGみたいに裏ボスが現われたってわけではない。出て来たのは聖教国の船だ。
聖教国も船造ってたんだね。1隻だけだったらしいけど。
で、衝突が起きた。
簡単にいうと縄張り争い。
ここはサウスウィンドの海だと言い張る聖教国の船。
誰が戦国時代の礼儀を教えたのか、ジャックと名乗りを上げたそうだ。
ここは自分たちの領海だ。仕留めた獲物を置いて失せろ。さもなくば攻撃する。
そんな要求を叫んだらしい。
多分、獲物を横取りして手柄にしたかったんだろうな。
つか、領海って概念があったんだね。
ただそれ、事前に取り決めてなきゃいけないヤツだと思うんだけど。
実際それでエルフ達はブチギレた。
ふざけんな! そんなん知らねえわ! 大体魔獣にビビって隠れてた奴らが終わった後にしゃしゃり出て来て、縄張りとか笑わせんじゃねえぞ!? ヤッてやんぞ、ア゛!? って感じ。
草食になってもエルフ達の人格は肉食超えて暴食系だ。
カツアゲされたらボコり返して相手の財布を奪うタイプ。
必然的に両者は武力衝突に突入。
多分、聖教国側はバックに聖教国いんぞコラ、って言っとけば穏便に済むと思ってたんじゃないかな?
ちまちま弓矢を飛ばしてくる相手の船を、バリスタで穴開けて海に沈めて来たエルフ達。聖教国の船は木造かな?
因みに船を捨てて逃げていく船員達は見逃したらしい。エルフ達も成長したもんだ。
……つーかさ、
「よく向こうもたった1隻で出て来たな」
「サウスサイズが船を造っているのを見て、対抗して作り始めたのだろう。小型の漁船は何隻かあるようだが、戦場に出られる船はまだ1隻だけだったようだ」
まあ、元々武力より聖教国の権威で戦おうとしていたわけで、聖教国盲信者なら出て来ちゃうのかもしれない。
ちょっとは上のヤツを疑って冷静にならないと、下のヤツは長生きできないぞ?
死んだ俺が言うのもなんだけど。
「まあ、おかげでウェストサイズの領主もご機嫌だ」
「なんで?」
「あの盗賊団の女首領が船にいたからな」
「?」
シュテンにとってというべきか、ウェストサイズの領主にとってというべきか。
予想外のボーナスがあった。
あのローズとか言う女盗賊が聖教国の船に乗っていたらしい。
そのローズが、船に穴開けられてあたふたしていたジャックとか言う騎士を、後ろからぶっ刺したそうだ。
エルフ達の証言だと服が必要以上に乱れていたから、何されていたかはお察しだ。
ちなみにローズとかいうのは、騎士ジャックを刺した後に海に飛び込んだらしい。
聖教国の船を沈めた後、頑張って水面にプカプカしてたローズを見つけたエルフ達は、仕方なく彼女を引き上げ、縛り上げ、サウスサイズ経由でウェストサイズに放り込んだそうだ。
おかげでシュテンと領主の仲は回復したそうで。よかったね。
「良いことばかりではないがな」
「聖教国か」
「ああ、龍の旗を掲げているのはサイズタイドも同じだ。龍を描いた帆をはためかせた船となれば追求もされよう」
「イーストウィンドは何か言ってきてるのか?」
「サウスサイズの取り調べをさせろと」
ふーん。
「聞いてやる義理もないように思うが、食道楽のことを考えると揉めたくもない。争いだけ避けるよう言って、後はサイズタイドの判断に任せた」
「船はフットハンドルに引き返したんだろ?」
「うむ。だから取り調べられたところで証拠はない。今回の件はどこぞの知らぬ海賊の仕業にでもなるだろう」
「しなくていい争いするより調べさせた方が、いらん消耗せんですむか。ならサイズタイドも馬鹿な事はしないね」
シュテン的にはほぼほぼ解決したわけだ。
そら酒も旨いわな。
「ただ、トキ殿には迷惑をかけるかもしれんな」
「あー、山田か……」
まあ、多分来るだろうな。
サウスサイズじゃないなら、疑わしいのはウチだよね。
「一応フットハンドルの船の帆は全部取っ替える方向で」
「うむ、もう指示してある」
「さすが200年仕事してると違うね。だったら大丈夫だろ。証拠と言えるもんもないし」
「ふむ、すまん」
「いいよ。バレてもどうせアイツ、笑ってすますだろうし」
「ん? 自分の船が破壊されたのにか?」
「ああ」
ウチと衝突しないように間取り持つのがアイツの仕事だからね。
国を失うリスクを天秤にかければ、船一隻如きで喧嘩売ってこないわな。
「今回の件を取りただして衝突することを望みはしないだろ。それより“互いの”平和の為にちゃんと領海を決めよう、とか言ってくるんじゃない?」
「トキ殿は彼奴のことをよく知っているのだな」
「いや、どっちかというと前世の社会人人生のたまものだな」
「?」
終わったことはいい。次どうするかを考えよう。
正論だが便利な言葉でもある。人を懐柔するにも、上司の責任逃れにも。
社会人時代に何回この台詞言われたっけなー。
あれ? この酒ってもうちょっと旨くなかったっけ?
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