冥王の槍
星座の名前の由来となる程に有名な前世界の神話において、不遇なる冥王様が持つと言われる槍。
バイデント。
その名を冠するこの大きな矢は、雁股矢の如く鏃が二股に別れている。
そしてスイッチを入れると、
「う゛おぉお!?」
って制作者がビビる位の電撃が走る。
そう、これが海の魔獣を狩るための兵器だ。
只のデカいテイザーガンと言うことなかれ。いや、実際その通りだけど。
いくらデカくても丈夫でも、死ぬまで焼けば良いだけのこと。
「敵が一騎当千の強者ならば1001人でリンチにしようぜ」が俺の基本戦略だ。それが一番楽だし。
加えて漏れ出た電撃が周囲の魚も水面に浮かべ、回収すればその日の漁は正に入れ食い。
一石二鳥の賢者武器だ。
会議室でお披露目したらオーガも欲しがった。
地下で眠っている車両のバッテリーや、旧世界の廃屋からパクった鉄骨を加工すればいくらでも数は出来るが、欲しがるオーガの目に狂気を感じるのは気のせいか?
確かに更に巨体化した陸上の魔獣にも有効な武器ではあろう。族長オーガの専用武器として用意してやろう。
でも狩人の身にバッテリーの重量を追加するのはどうだろう?
電源はタイガにしよう。
ケツの穴の奥のプラグにケーブルぶっ刺す方向で。
どうしたタイガよ、そんな羨ましそうな顔するな。
槍が振れる身体じゃないだろう? お前にはオナラ臭いファイアボールがあるじゃないか。
魔獣を倒せる武器が出来れば、後は狩るのみ。シュテンも一安心だ。
使い方のレクチャーを終え、笑顔が戻ったシュテンとオーガを見送る。あとは頼んだぞ。
どうした? スズカ?
「今度こそ後片付けはしたのかしら?」
……さて、家に戻ろう。
てな感じで意気込んで出て行ったが、その後魔獣が出てこない。
海の中で探しようもなく、シュテンの悩みは終わらない。
そこは「いなくなったんだ。じゃあ、これで普通に漁できるね」じゃダメなのだろうか?
「不安の芽は早く摘んでおきたい」
伊勢エビのガーリックシュリンプを豪快にかじりながら、ビールを飲みつつ、煌めく頭を抱えるシュテンを眺める。
最近会議室が仕事で愚痴るシュテンを慰めながら、酒飲む為の場所みたいになっている気がする。
居酒屋で飲むのは嫌いじゃないから、おかげで会議室まで出てくるのが若干ダルくなくなった。
一度シュテンはヤコウを見習うべきかも知れない。
見ろ、お前の話なんぞ気にせず飲んで食って、今や寝ているこのフリーダム精神。
あ、だから飼い主の苦労が絶えないのか。
◇◆◇◆◇
魔獣が姿を見せたのはあれから3ヶ月後のことだ。
サウスサイズでもフットハンドルを真似て船を造り、漁に出たところで魔獣が現われたそうだ。
フットハンドルと違い、武装も貧弱で船の数もまだ3隻しかなかった。
加えてウチみたいな加工技術もなく船はオール木製。結果折角建造した船が1隻ぐっしゃりとやられたらしい。
それなりに
漁の釣果はサイズタイド全体に分配され、今やサウスサイズの貴重な収入源となりつつあった、だけではない。
現在進行形で聖教国に侵食しつつある、我らがスパイ組織にしてチェーンレストラン“食道楽”の食材の供給元でもある。
結局メニューで揉めた食道楽は、メニューを一つに絞らず日替わりで出すことにした。
日曜日=ラーメン(豚骨醤油、魚介味噌、塩野菜)
月曜日=定休日
火曜日=カレーライス(鳥、エビ、豚)
水曜日=パスタ(ミートソース、ペスカトーレ、カルボナーラ)
木曜日=定休日
金曜日=丼飯(天丼、カツ丼、唐揚げ丼)
土曜日=ハンバーガー(チーズ、フィッシュ、照り焼き)
見よ。ちゃんと週休二日制。自分の社会人時代を振り返ると羨ましいことこの上ない。
……そうじゃなかった。
上の括弧内はこれをサイクルして出しているということで、例えば日曜日は今日豚骨醤油ラーメンだったら、来週は魚介味噌ラーメンで、再来週は塩野菜タンメンって感じ。
当初3つの中から選べる、前時代では当然だったメニューから選ぶ方式を採ろうとしたが考え直した。
あくまでスパイ活動なので、人が集まり情報が入りつつ、評判を得て聖都に店を構えることが一番の目的なわけで。
なまじ変な理由で疎遠されたり、警戒されたりしたくはない。
この食糧難の時代にメニューを選べるほど豊富な食材を手に入れてる、食材独占店みたいな見方はされたくない。
ウチも必死で頑張ってるんですよ感を出す為、メニューは一種に絞り、しかも1日100食限定ってやり方にした。
これで売り切れたとき客に「スイマセン、食材に限りがあるもので」と謝る事で、そんなデカいバックがあるわけじゃないよアピールをしているわけだ。
敢えてメニューを週毎に変えるのも、飽きられないからだけではなく、毎週同じ食材を揃えられないから、と客にはアピっている。
で、メニューを見て解るとおり、魚介味噌とかエビカレーとかペスカトーレとか天丼とかフィッシュバーガーとかね。
どの週にも海鮮メニューが入っているのですよ。
これは真剣に討伐を考えなければならないだろうか?
「シュテンさんとヤコウさんがもう向ったわよ」
そんなに考えなくて良さそうだ。俺は。
まあ、切り札は渡してあるから問題なかろう。
問題があるとしたら、エンカウントできるかどうかだけだし。
◇◆◇◆◇
「コソコソしおってからにぃ!」
シュテンさんがオコだ。怒髪天をつく勢い……髪なかったわ。
シュテンがキレてる理由は多分、海の魔獣だけじゃない。
サイズタイドでまた別の問題が発生したらしい。
「なぜあそこは世話ばかりかかるのだ!?」
お前が余計な世話を焼くからじゃなかろうか?
新たに生じたサイズタイド領の盗賊団問題。正確には捕まえた盗賊団のいざこざ。
上手くいってないときほど問題が起きるってのは時代が変わっても一緒らしい。
頭を抱えるどころか、掻きむしり始めたらしく、輝く頭が指の跡で台無しだ。
つるつるの肌色浮かぶ赤い縞々をみて、マスクメロンを連想した。
フム……甘い物も心を落ち着かせるにはいいだろう。
よし、メロン食おう。
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