迷宮の魅力と弊害
例えば森があって、その中央に強い肉食獣が縄張りを張ったとする。
弱い草食獣達はどうするのだろう? 逃げるか、立ち向かって食われるか。多分今の時代だと後者かな?
草食動物でも戦うと強い獣なんてのは結構いるから、肉食獣も気が気じゃないかもしれない。
魔獣調査は森林伐採とセットだ。
伐る以上に焼いてんだけど、それはともかくとして。これを100年以上も続けると流石に周囲が拓けてくる。
お庭の外周の森林は今や草原に変わっている。荒野にならなくて良かった。今の植物たちの生命力に感謝だ。
居候達は繁殖し、数を増やしている。
お庭は広げたこともあって余裕がある上、手狭になる前に新たな拠点を造って移住しているおかげで、お庭が食料難になることはない。
フットハンドルにも余裕があるし、既に東北地方の東海岸付近に新たな拠点を予定通り建設中だ。
サイズタイドの人員整備とウチのヤコウチルドレンのお見合いの為、増えた人手で更にウチとサイズタイドの間にも拠点を同時並列で建設している。
要は何が言いたいかというと、あれだけ鬱蒼としていた森林が大分面積を減らしてしまったというお話。
森が減れば森の恵みも減るわけで、草食獣が飢え、数を減らし、結果肉食獣も飢える。
虎皮達にとって虎がいなくなるのは非常に困ることなので、諸々話し合った結果火災覚悟で手をつけない森林エリアを決めようと言うことになった。
決めた場所では狩りも魔獣調査もしていいが、木を伐るのも焼くのもダメ。
そんなことを取り決めて暫く経ってからのことだった。
ある森の一つにとうとうアレが現われたのだ。
そう、あの“ダンジョン”が!!
「地下鉄か干涸らびた昔の下水道でしょ?」
スズカさんや。男の子には夢と希望と浪漫が必要なのだよ。
現実的なことを言ってしまえば昔の地下鉄だったり、下水道だったりが誰も整備していないまま2000年以上放置されたわけで。
崩落したり、野獣が穴掘ったりして迷宮と化した巨大地下施設が突如現われる、なんてのはこの時代のあるあるだったりする。
といってしまうと特に珍しい物ではない様に聞こえるが、老朽化に耐えて崩壊することもなく、浸水に耐えて水没もしていない無事な地下迷宮となると実はそこそこ珍しい。
しかも魔獣まで現われるようになった御時世だ。ここはもうダンジョンと呼ぶしかなかろう。
「といっても探索済みの中古ダンジョンじゃ魅力もねえけど」
「フフ、とかいって。本当は行きたかったんでしょ?」
「いや、実際本当にそうでもないんだけどね」
無事なダンジョンだと解ったと言うことは探索も終わったということで。
当然ゲームみたいに宝箱が見つかるわけでも、魔獣を倒せばレベルアップするわけでもないから、魔獣調査とかが目的じゃなければ踏み込む価値はない。
それに雨が降れば、結局そこもいずれは水没するわけで。まあ、時間の問題つーか。
「でも、そんな所があれば巣にする動物もいるでしょうね。本当にゲームの迷宮みたい」
「まあね。実際探索に当たった奴らも随分と迷宮気分を楽しんだって話だろ?」
「ええ。雨を待つとか、出口封鎖するとかもっと安全策採ればいいのに。賭けてるのは本当の命だってわかっているのかしら……」
「好きでやってんだから良いんじゃないかな。ほら、“自由には代償がある”ってやつ?」
「チップが大きすぎない?」
◇◆◇◆◇
というような事を話したのはいつだったか?
あの時見つかった地下施設が原因かどうかは知らないが、
「海の魔獣ねぇ……」
「ああ、厄介な話だ」
シュテンの平穏はいつ訪れるのだろうか?
会議室に呼ばれていくとこの人が頭を抱えているというのが、ここ100年位のデフォになってる気がする。
何故か数を増やし、10隻を超える数まで増えた海賊船……じゃなくて漁船団。
フットハンドル近くの海で魚釣りの為に船を浮かべていたときに、海中から見たこともないほどデカい魔獣が現われ、襲ってきたらしい。
魔獣を食べると低確率で野獣は魔獣に変異する。
魔獣の死骸が海に流れ込み、海の生物がそれを食えばやっぱり魔獣にはなるんだろう。
魚だから魔魚? 鯨の場合魔獣で良いのだろうか? ……知らん。
面倒いから魔獣って呼ぶけども、その魔獣は水を水鉄砲みたいに飛ばしてきたらしい。単にデカい鉄砲魚ってことはなかろうか?
その水鉄砲で船の縁が砕かれたというのだから、それなりの威力だ。うん、魔獣ということにしておこう。
現地の白色エルフ達は銛を投げて応戦しつつ撤退。魔獣は巨体故に浅瀬を泳げないのか、引き返したらしい。
その場は事なきを得たらしいが、もしまた現われたとき、その威力を考えると船が無事に済むかと不安だそうだ。
少なくとも沈められられることはないと思うんだが。
ついつい悪ノリして海賊船ぽく木材でデコっているので縁こそ砕かれたが、船底部はガッチガチの合金仕様だし。前時代の船のリサイクルだからね。
それに水鉄砲って水中で威力減衰するし。
つーても乗ってる方の不安は消えまい。
「とはいえ、今や漁業はなくてはならない食料源だ。フットハンドルは勿論、建設中の他拠点へも分配されている」
よって「じゃあ、漁を辞めましょう」というわけにはいかないらしい。
手っ取り早いのは魔獣を狩ってしまうことだが、ふむ。
一応居候達には火薬類を渡さないようにはしている。反乱は警戒しないとね。
弓矢なら見切れるが、銃とか不意に撃たれたら流石に難しいし、当たったら痛いし。
そんなわけで
海賊船と言えば大砲だが、大砲装備はしていなかった。
「一応バリスタを漁船に取り付けるべく量産したが、決め手が欲しい」
変わりに充分な破壊力の武器の装備が進んでいるが。
ふむ、決め手ね……
俺が避けられて、敵には当たってかつ倒せるものか。
銛が当たったってんだから、そこまでの速度はいらんな。
漁業するんだから毒を撒き散らかすようなのは避けて、でもしっかりダメージ入るやつか……
ぱっと思い付くことはあるが、これをシュテンに思い付いてやれというのは酷だな。
しゃーなし。一肌脱ぐか……
「丁度暇を持て余して何かしようとしてた時期だしね」
スズカさんや、俺の心を読むでない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます