味の好み
食料に余裕のない街でケーキ屋さんを出したとする。
喜ばれるだろうか? 僻まれるだろうな。
甘い香りを垂れ流し、道行く人を誘惑する。
店に入るのは金に余裕がある連中。
アカンやろ。
やっぱり最初は上手くて安くて多い、一品料理で勝負すべきだろう。
日本人が好きな一品料理とは何か?
ランキングをとると男性と女性でかなり差が出る、なんてデータもある。
因みに出店の話だ。
カレーを食べながら「そうか!」と察したシュテン。察したものの商売の経験なんてない。
一応貿易業というか宅配業みたいなことやってはいるし、金勘定は出来るわけだが……店出して商売って、また違うじゃん。
加えてシュテンは料理に関しては素人だ。
で、結局どうして良いか解らずスズカに相談してきたらしい。そうなるか……まあ、そうだわな。
そしてスズカは考えた。
例えば店のメニューをカレーにしたとする。ウケるだろうか?
昔会社の同僚が海外出張で初めてパクチーを食べて吐きかけた、と言っていたのを思い出した。
食べ慣れれば逆にないと物足りないくらいになる、と笑っていたな。
確かにリピーターを出すには最初の一食で上手いと思って貰えなければ辛い。
他に食べられるものがないならともかく、聖教国にも飲食店くらいあるだろう。
あるよね? 多分。
居候達が普通にウマウマと食ってたからイケるんじゃなかろうか? と思ったが、そういえば居候達もスズカに簡単な食事から教わって段々と今の料理に慣れていったからな。
しかも出店先は調味料の概念があまりなかろうイーストウィンド。
サイズタイドなら大分前から調味料輸送しているから問題もないんだけど。
一方で今回のミッションでは秘蔵のレシピでないと意味がない、という面もある。
塩に馴染みがあるから味付けは塩の料理、なんてことすれば真似されて終わりだ。
俺もカレーに拘っていたわけじゃない。美味くて早々真似できない料理代表として食わせただけだ。
実際に何をメニューにするかは現地に詳しい人が、ウケる料理を考えてくれればいい。
そうやってすごーく簡単に考えていたので、こんなに悩む問題になるとは思っていなかった。
問題はそれだけではない。
現地のスパイにどうやって料理を覚えさせるか?
材料とレシピ本送れば勝手に作るんじゃないだろうか?
「まず調味料の名前を教えるところから始めなきゃならないわよ。現地じゃコンロなんてなくて、まだ竈を使っているらしいし。レシピ本渡しても、それでこれってどうやるんでしょう? って言われるだけじゃないかしら」
ふむ、確かに。
レシピ本は大概全時代文明ありきで書かれているからな。「まずはレンジで~」なんて書かれているレシピを見せられたらきっと混乱するだろうな。
自称聖人のアンドロイド達は一体何をやっているのか知らんが、そう言われれば聖教国の文化レベルって過去の文化知っている者達が率いている割には発展が遅いと思う。
文明と文化が比例してないっつーか。
味噌なんて縄文時代から基礎はあったとかいう話もある。
レンジとかのハイテク器機に頼らずとも、竈でできる美味しい料理の基礎ぐらい教えられただろうよ、と思う。
その辺、敢えて早めないよう調整しているんじゃないかと勘繰りたくなる位だ。
「いきなりイーストウィンドに出店するより、サイズタイドで先に店を出して、評判を聞きつけたイーストウィンドの商人が出向いて、味を研究して持ち帰った、みたいなシナリオの方が良いと思うのよ」
「失敗するより遠回りでも成功した方が良いのは賛成だよ」
とまあ、シナリオ修正は了承するとして、メニューについて。
「サイズタイドに複数メニューを出して、本当に評判の良い物をイーストウィンドで展開するっていうのはどうかしら?」
「最初から一品に絞らずに、か。評判もある意味で本物だからイーストウィンドに疑われにくい、と」
アリだと思います。
「日替わりで出せば一店舗でも複数のメニューが出せるでしょう? 例えば月曜日はハンバーグ、火曜日はカレーって感じで」
「ほうほう」
「それならどれかしら当たるんじゃないかしら?」
「ふむふむ」
「イーストウィンドの商人さんは、表向きサイズタイドに弟子入りしていたことにして、こっちにシュテンさんに運んでもらって、私の方で料理は教えるわ。ヤコウ君が隣にいてくれれば言うこと聞いてくれるでしょうし」
「スズカが竈で料理を教えるのか?」
「虎狩りさん達に料理教えるのに散々やってきたわよ。それで具体的なメニューなんだけど……」
食の好みは男性と女性でかなり差が出る。
その後の会話は結構白熱した。
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