故郷への帰還

 4320年。

 大分時間はかかったが、フットハンドルは一応人が生活出来る状態にはなった。

 

 虎皮やヤコウチルドレンが移住準備を始めている、というか既に移住している。

 3000人以上いた居候の内1000人がフットハンドルに移るそうだ。ウチの庭広げた意味……


 街の統治者、領主と名乗るらしいが、領主はスズカ。

 実際はスズカがフットハンドルに行くわけではなく、領主代行がフットハンドルの実質No.1になるらしい。

 この辺りはシュテンが考えたらしい。


 名前というのは結構な力を持つことがあるからと。


 領主というと、領のあれこれを好き勝手に捌いていいと思われるが、代行であれば領主が賛成する収め方をしなきゃならないと考えるとか。

 そんなもんだろうか?


 さらに名目上のトップが俺の手の届くところにいることで、何年経ってもフットハンドルはウチの下だぞ、と自覚させ続ける効果もあるんだとか。

 子会社の社長が本社の出向者で、あんまり子会社にいない感じ?


 フットハンドルとウチの間の連絡はシュテンが担当。

 シュテンは基本的にお庭の仕事を他のメンバーに任せて、ウチとサイズタイドとフットハンドルをぐるぐるしながら、連絡役兼輸送係に業務特化するらしい。


 居候のお目付役兼相談役は、タイガとヤコウが担当。

 「ガウ」と「ダウ」で相談に何を応えるのか謎だが、スズカがフォローするらしいので気にしないことにした。


 ちなみにフットハンドルの最初の領主代行はフウガに決まった。

 アラフィフに年齢も近づき、狩りとか行ってる場合じゃないらしい。


 次期オーガの重荷を下ろしたフウガは、その後も狩りでの成果を残しながら、菜食主義者が後ろめたい生活を送らなくて済むようにと農業に力を入れていた。

 現状のフットハンドルは領地の半分が農場ってくらい整備で面積を広げたので、ならば出番だと立ち上がったらしい。

 同じ菜食主義者の虎皮を引き連れ、共に頑張ろうとオーガと手を握り合い、旅立つ姿はなかなかに凜々しかった。


 しかし菜食主義か……


「どうしたの?」

「いや、肌白くなったよね、あの人達」


 どういう理屈か知らないが、街の人と交じり合った子孫からも消えなかった、虎皮達の特徴である褐色の肌。

 菜食主義者達からは不思議とその特徴が消え、肌が白くなっていた。

 ダークエルフからエルフが発生したみたい。普通逆じゃね?


「そうよね。いままでこの人が菜食主義者でこの人が肉食主義者、なんて見方してこなかったから気付かなかったけど」

「なんか変色成分でも入ってんのかね? 今の野獣共には」


 フラミンゴが赤いのは食べてるもののせいらしいし。

 解剖して調べてみようかと思う程の学術的興味はないが。


 ところでエルフ達が自主的に手をあげたので止めはしなかったが、エルフを隔離したみたいに思われるのもアレじゃないかな? 

 とか思っていたら、その辺もシュテンは考え済みだった。抜け目ない。

 ああ、本心だ。嫌みで言った訳じゃない。

 

 街の外の魔獣調査と狩りをエルフに、街の防衛をヤコウの子供達に任せようという腹づもりらしい。

 ヤコウの子供達も、シュテンと来た街の人達の子孫と混じり合い、ギリギリ近親相姦は避けているが、そろそろ危ない。或いは手遅れ。


 ヤコウチルドレンをフットハンドルに住まわせ、輸送ついでにサイズタイドから黒騎士を何人かを呼び込み、新しい血を入れたいらしい。

 ヤコウチルドレンをサイズタイドに送るのは気が引けるのと、ウチに新しい面子を入れるのは勘弁、という俺の意向を汲んだ形らしい。


 という感じの経緯で集められた、ヤコウチルドレンと勇者チルドレン。

 彼等の中から街の防衛隊長を決めるわけだ。


『シキ。お前を防衛隊長に任じる』

『ハッ』


 ヤコウを横に命じるシュテンに敬礼する姿は、洗煉された兵士そのもの。


 そりゃそうだ。

 聖教国に潜り込むため、聖教国で規律正しい騎士の訓練を受けてきたんだもの。


 明結会を制圧すべく、自ら先陣切って切り込みながら、他者を鼓舞し率いるリーダーシップ。隊長にはうってつけの人材だ。

 余りの活躍っぷりに勇者候補に推薦され、聖都で教会に閉じ込められて音信不通になった挙げ句、帰って来ちゃった点はなんといっていいのか解らんが。


 大丈夫。お前の無念は後続の誰かが晴らしてくれるよ。

 ああ。本当だ。決して「使えねー、コイツ」なんて思ってない。本当に思ってないさ。


 


 まあ、今回は学んだということにしておこう。

 聖都に潜り込める程の優秀な人材は、勇者として帰ってくる。なるほどチクショウ。


「だが、どうすれば良い?」


 エルフ達と、わざわざ命じるためだけにウチに呼び寄せたシキとヤコウチルドレンを見送ったシュテンに助言を求められた。

 結局俺が考えんのかよ。


 そうね……武力で潜り込めないなら経済から潜り込む方向で。

 こういう場合どうすれば上手くいくかは、異世界小説のテンプレが教えてくれる。


 大体美味か娯楽。ときどき美容とか。要は嗜好品。

 誰もが欲しがるものを提供する者は、皆から受け入れられる。


 じゃあ、今の時代の日本で誰もが欲しがるもの、それは何か?


 ウチみたいに土地が余るか、都市型農園でもない限り調味料には飢えているはずだ。

 食糧事情が芳しくないなら育てている食料は腹にたまるもの第一優先のはず。


 塩以外の調味料って大概植物産なんだから、聖教国はまともに考えれば今もそんなに裕福な食事は出来ていないだろう。

 じゃあ……イーストウィンドにまだいる黒騎士、つまりイーストウィンドの騎士の子供が商人になって、サイズタイドの貿易品で儲け、その手を聖教国中に伸ばす、というシナリオはどうだろう?

 悪くないんじゃないんだろうか?


 実際調味料を輸出したサイズタイドでは、様々な料理が考案されていると聞いている。


 だが、ここで調味料だけを売ることはお奨めできない。

 そこそこの領地を持つ聖教国、各領の繋がりゼロってこたぁないだろう。各領の輸送線を牛耳っている奴はいるはずだ。

 そいつらに輸送経路差し押さえられて終わりだろうな。

 目的は聖都に人を潜らせること。聖教国の食事を豊かにしたいわけじゃない。


 となれば、チェーン店はどうだろうか?

 某フライドチキン店の如く、秘蔵のレシピで店を出す。

 食べたきゃ自領に店を出して貰うしかないわけだ。ふむ、いいのではないだろうか。 


 だが、ここで「こうしろ」と具体的に言わないのが俺メソッド。

 それで失敗したら、俺の責任とか言われかねないからってのもあるけど、初っ端具体的すぎる指示を与えらると、次も次もとそのまま指示待ち人間になる場合あるからね。 

 社会人経験で知ってるのよ、こういうの。

 というわけで、


「腹が減ってりゃ良い考えなんぞ出てこないだろう。とりあえず飯でも食って考えようや。カレーで良いか?」

「ああ」


 スズカ、シュテンの目の前でカレーを作ってやってくれ。

 大丈夫。多分シュテンなら気付くから。

 タイガやヤコウとは違うもの。


「ダウ?」

「ガウ?」

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