事件の終結
貿易が滞り、木材の仕入れが不足したフットハンドル。
順調だった仕事が思わぬ事で滞ると、人は苛立つものだ。空気が悪い。
仕方ない。ここで俺が一肌脱ごう……いや、単純に暇だっただけなんだけど。
我が家のお庭は、ほぼほぼ整備が終わり必要資材も揃っている。
フットハンドルを復興するのに必要な資材は、時間に余裕のある居候達が材料を用意し、虎皮や子ヤコウ達が現地組み立て。
我が家を参考に区画整備をしつつ、崩れた壁の修繕と家の修理を、狩りで食料を確保しながらやろうってんだから時間食うわな。
そこでワタクシ考えました。
漁船を造ろうと思います。イェイ!
スズカママン、困ったちゃんを見る目で僕を見ないで。
大丈夫、考えてるから。造りたいだけじゃないから。
確かに昨日久々に女性服みたいな名前の海賊漫画を読んで、影響されてないとは言いませんがね。ええ。
ゴホン。
フットハンドルというのは関東南東にある街だ。東でも南でも良いがちょっと行けば海がある。
狩りで食料を確保するのは大変だ。獲物の繁殖力が強いからといってゲームと違って無限ポップするわけじゃない。
今日は獲物が獲れませんでした、なんて日も決してないわけじゃないんだそうだ。
特に手強い魔獣が野獣の群れを食い散らかしてました、なんて惨状を見ると「おっふ」ってなるらしい。
魔獣のサーチアンドデストロイが日課となった居候達。我が家の周辺はマガミ達の協力もあり、ほぼ攻略済み。
その為フットハンドル周辺を攻略すべく人手を集めたがっているのだが、食糧事情から決断できずにいるという。
じゃあ、他に食料に確保する方法あれば良くない? って訳である。
虎皮達は河に釣りに行くが、海に出ることがない。船の文化がないからだ。
海って言うのは食料の宝庫だ。潜るだけで貝とか海藻とかあるわけで。
うん、今日の晩飯は海鮮バーベキューにしよう。醤油をチロッと垂らした貝をつつきながら日本酒飲みたい。
……じゃなくて。
沖に出て網投げれば獲れる魚もいるわけで。
魚が定期的に獲れれば、食糧問題は解決し、フットハンドルに行きやすくなるだろうと。どう? この言い訳。
因みに海に行けば前時代の船が浮かんでいるが、大体が朽ちて使い物にならない。整備する人がいないとやっぱりね。
魚も凶暴化しているが、所詮その牙はカルシウム。鉄船を貫けるほど丈夫じゃない。船が朽ちたのは時間経過の問題の方が大きい。
材料にはなるだろうから、マサル達に少しずつ回収させつつ、どかんと一隻造ってみようというわけだ。
「設計図が海賊船にしか見えないけど……」
スズカママン。アレだ。気のせいだ。
◇◆◇◆◇
一ヶ月後、サイズタイドとイーストウィンドの貿易が再開された。
シュテンがウハウハだ。
明結会とか政治派閥みたいな名前の組織は、結局ウィンドルームから支援に送られた騎士団によって制圧された。
これによりイーストウィンドの反乱騒ぎは鎮静した。
事件はあくまで出世欲に目がくらんだ教会関係者が起こしたものとして処理された。
教会の武装騒ぎにまで発展したこの事件で、特に一人目立った活躍をした騎士がいた。
その名はシキ。
シュテンの気の長い策略の元、ウィンドルームに送られたエージェント。
ヤコウを通して言えば逆らうことなき忠誠心。従来の街に住む新人類にはあり得ぬ身体能力。
完璧だ。7番がついたコードネームをあげたい。
「船か。さすがトキ殿。それならば木材を継続的に仕入れることが出来る」
なるほど。そこまで当然考えてなかった。
フットハンドルの復興を終えた後どないすんねん? ってことやね。
魔獣探索範囲を広めるべく、新しい拠点建造の計画が居候達の間で進行しているのは知っていた。
山田の思うつぼで気乗りしないが、止める明確な理由もないので放置している。好きにやって。
新しい拠点は場所探しの後、獣が入ろうと思わないよう開拓し、それから壁で囲って……と始まるので、最初のウチは切った材木使うし、使わざるを得ないから余所から仕入れても邪魔なんだ。
なので、フットハンドル復興が終わると、暫く「木材要らないッス」って言わないといけなくなる。
が、船を造るとなれば木材はそっちで使えば良いから、途切れることなく貿易を継続できる。しかも、
「新拠点を海の近くに建造すれば、フットハンドルから新拠点への物資運搬も可能というわけか。考えられている」
「フッ、まあな」
……。
何事も結果が全てだ。
◇◆◇◆◇
2ヶ月後、フットハンドルの近海に一隻の海賊船……じゃなくて漁船が浮いていた。
マサル達の手を借りると仕事が早い。
我が家の区画整備が終わって暇だったのもあるんだろう。俺の仕事を尽く奪ってくれた。
まあ、働いてくれたかわいいペットだ。仕事に関しては文句はいうまい。
だが船のデザインに関しては文句を言いたい。
俺は海賊船をモチーフにした帆船にしたかっただけなのだが、帆が骨の龍を描いた海賊旗だったり、船首が龍の像だったりする辺り。
そこまで求めた覚えはなかった。いや、怒っているわけじゃない。だから落ち込むなマサル。
うん、良い船だ。注文通りだよ。
エージェント・シキはイーストウィンドの活躍によって、ウィンドルームの領主に気に入られ、聖都へと送られたらしい。
出世だ。我らがエージェント、遂に聖都に潜り込む。
シュテンはウハウハを超えてツヤツヤだ。頭のテカリが当社比3倍くらいに増している。若干迷惑だ。
全てが上手くいっている。
やっぱり頑張る人は報われないとね。うん。
と、このときまでは思っていました。
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