魔獣の時代
「ファンタジー風にいうなら魔獣ってところかな? あるいはモンスター」
「笑い事じゃねえんですがね」
ヘラヘラと腹立つ笑みを浮かべる山田次郎を前に、こめかみピクピクさせながらも、赤虎の件を話した。
「で、情報はあります?」
「あるよ」
やっぱ知ってたし。じゃあ、なんで話させたし。
「それで、何が知りたい?」
「アレを造った理由ですね。聖教国は俺達に何がしたいのか」
「前にも行ったけど聖教国は聖人だけでも5人いるんだ。統一意思なんてものはないよ」
「じゃあ、アンタ等のチームの考えは?」
「特にないよ。やったのは僕等じゃないから」
「なら結構。話しは終わりで」
「そうイライラしないでよ。やった者の正体なら知ってる」
またこれだよ。
わざわざ顔に別の顔貼り付けてまで情報提供に来てる奴に、本音で話せって言っても時間の無駄なんだろうけど。
だからわざわざコイツのペースに合わせて会話するんだが、まー話が進まねえときがある。
はぐらかしたいんだか喋りたいんだかはっきりしてくれ。
そうやって俺を苛つかせんのも作戦だって、解っちゃいるんだがね。
「で、誰です」
「聖人ラインだよ」
「また聖人か」
聖人と書いてロクデナシといつから読むようになったのか?
「まあ、この件に関しては、実は本当に失敗しただけらしいんだけど」
「どゆことで?」
「別段聖教国はマッドサイエンティストの集まりじゃないからね。勇者を生み出す上で、しかるべき実験を積み重ねたんだ」
勇者生み出した時点でマッドだろ。
「実験用マウスが逃げたとでも?」
「正解。察しが良いね」
馬鹿にしてんのか? つか本当にネズミかよ。
「勿論、あんまり知られて良いことではないからね。捕まえようと散々追い立てたようだよ」
「で、ネズミ共がこっちに逃げてきたと?」
「それも結構な数がね。実験マウスがいたのはウィンドルーム領だった。ちなみに領主の名前はラインだね」
聞いたことあるな。サイズタイドの南西、聖都の南東だったか?
サイズタイドを除けばこっちに一番近い場所って事になるのか。
「というのはあくまで彼等の言い分だけど」
「本当は違うと?」
「いや、確証がないって話」
まあ、他人の考えなんぞ100%読めやせんよね。しかも相手がアンドロイドじゃね。
んー。
「いいや、この話は一旦これで。で、今日いらっしゃった理由は?」
「偶然だけどね。実験マウスが逃げてたって情報をこっちも最近漸く手に入れてね。何かこっちに異常がないかと見に来たんだよ」
「随分良いタイミングで」
「それが出来るから情報通なのさ」
まあ、そうなのかもしれんが。
「異常ならガッツリ出ましたよ。さっき言ったようにね。聖教国には?」
「ライン達が証拠を揉み消す為に頑張ったからね。こっちでそういうのは確認されてないよ」
「随分都合のいいお話で」
「サイズタイドの防衛線の御陰で、あそこから東にはなかなか抜けられないからね。まあ、運が悪かったと思ってよ」
「思えるか」
本当に都合のいい話だ。
「でも、実際どうするんだい?」
「何がです?」
「いや、もしこんなことされて黙ってられるか! っていうなら、報復位しか出来ることないわけだし。責任持って回収しろ! って聖教国の兵士に周囲を彷徨かせようって気には流石にならないだろう?」
「まあ、そうですけど……報復させたいので?」
「いやいや、そういうつもりじゃないよ。ただ現実論、出来る事ってそれ位だよね? って話」
悔しいけど図星なんだよね。
「なんだったら迷惑料くらい交渉するように伝えようか?」
「へえ、何だせるんです?」
「人員とかかな」
「要らんわ。わざわざスパイの元受け入れる程アホじゃない」
「聖教国の通貨とかここじゃ意味ないだろうし、食料や物資は聖教国に余裕がない。そんなもの要求したら、また魔王国討つべし派が煩くなって何されるかわからないよ?」
「黙って折れろと?」
「そうは言わないよ」
じゃあ何よ?
「聖教国が困ることを、そっちもすれば良い」
「例えば?」
「聖教国がそもそも身の程も知らずに君達に干渉するのも、君達の勢力が小さいからだ」
……まあ、小っちゃいのは認める。
「この魔王城とサイズタイドの2領。前にも言ったけど、数は力なんだよ。人の感情を動かす力」
「領地を増やして規模が大きくなれば、聖教国も手を出すのに躊躇すると」
「そう、それが聖教国に対する最大の嫌がらせにもなる」
「意味がわかりませんが」
「聖教国も国である以上、威厳を無視できない。結局上のやることは下の者を動かすことなんだから」
つまりウチが聖教国とタメ張る規模に膨れあがれば、聖教国も上から目線で見てはいられなくなる。
だが、他国の顔色伺って自身の舵を自身で取れなくなれば、国家の威厳は落ち、民はついてこなくなる。
「聖教国はサイズタイドの西、本州をほぼほぼ手中に収めた。一方サイズタイドより東はフットハンドルが滅び、更にサイズタイドが魔王国の手に落ちて魔王国独占状態。魔獣が彷徨くこの状況、どうせ周辺調査と討伐は必要なんだ。このまま東を平定してしまえば聖教国もおいそれと手を出そうとは思わなくなるよ?」
「俺達に東側を平定させることが、そちらの望みで?」
「それで僕等に何の得があるんだい?」
それが解らねえから訊いてんだよ。
「僕の雇い主の望みは、あくまで君達との友好だ。関係が悪化しないため。只それだけの為に僕はここに遣わされてるのさ」
うさんクサ……
「それより気をつけなよ? 実験マウスに使われたのは人工ミトコンドリアや分解強化細菌だけじゃない。多種多様な実験をされたネズミが数えられないほど脱走したんだ」
「……マジで?」
「ああ。炎を吐くだけで終わらないかも知れないよ?」
「……チッ!」
いや、逆に山火事になる確率が減ると喜ぶべきところか? 怖いのって結局周囲を燃やす奴だけだし。うーん……
「僕等は君に何かあると困るんだからさ……今はね」
うーん……? 今なんか言った?
◇◆◇◆◇
周辺調査開始から約1年が経った。
更なる変異を遂げた野獣、みんな魔獣って呼ぶから俺もそう呼ぶけど、魔獣は結構な数が見つかっている。
現段階で10体。
甲殻類のように全身を甲羅で固めた熊とか、電気を放つ大蛇とか、飲み込んだ石を違法改造したエアガンのように吐き飛ばしてくる猿とか……
ウチは防衛装置で余裕だし、サイズタイドは黒騎士達で何とか対処しているらしい。
魔獣を見つけたときは繁殖させないよう、見つけた場所から一定の範囲を焼く。巣があるかもしれないからね。
大火事にならないように周囲の木を伐採してから、一体を焼き払っている。居候達が。
勇者パが持ってくるガスグレネードが役に立った。俺の出る幕なし。ありがたいことだ。
調査範囲は少しずつ広がっている。あんまり近くにいて欲しい存在じゃないからね。
近くを探し終えたらもうちょっと遠くへ。言い出したらキリがないんだけど、放っとくと繁殖して数増やすかもしれん。
そしたら折角やった周辺調査もリセットだ。
居候共はどこまで行く気なのか、中継地点としてフットハンドル領の復興なんて意見も出し始めた。
ウチに影響がない範囲でなら、好きに勝手にやってくれれば良い。
しかしどれだけのネズミが逃げたんだか。
変異した魔獣の肉を食った野獣も変異して、魔獣が更に増えたりしたんだろうな。これ相当生息範囲広がってるぞ。
なんかな……
このまま成り行きで山田の言う通り東日本全部に手を伸ばすことになったりしないだろうか?
ま、いいか。やるの俺じゃないし。
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