誕生日のプレゼント

 元々スズカは基本的に壁の外へ出れない。

 スーツケースはあくまでスィンが動かすから、壁の外まで電波が届かない外に出ると無力だ。

 出る場合はマガミやトリィの護衛が必要になる。


 別に外に出てやることもないので本人は気にしてないが、不自由であることに違いはない。

 こういう細かいところに気付いていかないと、100回以上やってる誕生日のプレゼントなんて思いつきやしない。


 いつもなら焦って、どうしよ? こうしよ? と悩む俺だが、今年は違う。

 誕生日プレゼントをほぼほぼ1年前に思い付いていたのだ。ぬはははは。

 

 俺にヒントをくれたのは虎皮共だ。屈辱だ。でも仕方ないから感謝しよう。

 今年の誕生日はぬいぐるみだ。この為に完璧な準備をした。

 

 虎皮の長が赤虎の毛皮になることで役目を終えた白虎の毛皮。

 代々族長が身に纏ってきた臭そ、じゃなくて汚、でもなくて由緒ある毛皮だ。虎皮共は白黒毛皮を分割し、虎皮の各血族の代表者に渡した。


 形見分けって奴だろうか? どうぞ身に纏ってくれと。俺なら迷惑ですと突き返す。

 俺もスズカ経由で渡された。ど真ん中に穴が開いていた。嫌がらせか?


 その場で燃やそうとしたら、スズカに止められた。どうやらその穴は勇者パとの戦いでタイガが負傷した際、開いた穴だったらしい。

 虎皮共的には「名誉なればトキ様にどうか」ということらしい。重いを通り越してキモい。


 だが、丁度誕生日プレゼントがギリギリ頭に残っていた俺、それを見てピンと来たのだ。

 リアル虎皮を使ったぬいぐるみ。どうだろうか?


 もちろん只のぬいぐるみで終わらせはしない。動くぬいぐるみ。絶対女性が喜ぶヤツ。

 そこに武装を仕込むわけである。かわいくも頼もしい白虎人形。

 ふむ、完璧すぎる。


 というわけで1年前から暇を見てはコツコツと準備した。暇しかない日常のおかげで、なかなかの力作になったと思う。

 頭部骨格はメイドロボの予備骨格を基本に虎に見えるよう口元を尖らせたりと加工工事。


 肉球の腕が違和感ないように、手脚はWの予備骨格も使った。

 まだあるとは言え、万一のために取っておいた貴重な予備部品を多数使用の奮発品だ。

 ちょっと重いか? まあ、持てんことはない。   


 センサー類も当然アンドロイド仕様。更に赤虎を見習い、口からガスグレネード発射も可能だ。

 口の形を人から変えてしまったので話すことはできないが、一応虎っぽく、ガウガウと鳴けるようにはした。

 エネルギー補填のため、ぬいぐるみのくせに生意気にも飯を食わねばならないが、ウチは食うものには困らない。


 あとは貰った虎皮を培養し、できた外皮を纏わしてやれば完成だ。これもほぼ準備完了。

 理屈の上ではスィンの制御範囲外でも活動できる武装でありながら、見た目に女性受け間違いなしの、ぬいぐるみキャノン。


 目の前にある、所々改造された不気味な二頭身スケルトンがちょっとかわいく見える程度に満足できる仕事だった。

 出来上がるまではそう思っていました。




◇◆◇◆◇


「何なのこれ?」

「俺が聞きてえ」

「ガウッ、ガウ~ッ!?」


 こうなるはずじゃなかったんだけどな……何を間違えたのだろうか?

 当初の予定では見た目は何の変哲もない、そこらの玩具店に売っているような、ありふれたつぶらな瞳がかわいい二頭身ぬいぐるみになる予定だったんだ。

 脚を短くした某有名な熊のぬいぐるみの虎バージョンと思って貰うのが解りやすいかも。


 で、今目の前にあるぬいぐるみには予定と違う部分がいくつか散見される。


 一つ、目つき。デザインとは違う半月型の目は、若干つり上がってて、この時点でかわいくない。いや人によってはかわいいというのかも。

 一つ、後頭部から黒いたてがみ状の毛が伸びている。なかなかの剛毛だ。

 一つ、腹の部分に毛がない。Oの字型に毛がなく、その部分はとても人肌に似た肌触りで色は褐色。

 一つ、普通ぬいぐるみって後ろ足の裏を見せて座るんだが……このぬいぐるみ、短い足で器用に胡座かいてる。


 とまあ何か気持ち悪い物体になった俺の力作。一番の問題点は、


「ガウ、ガウガウ~ッ!?」


 どう見ても自我を持っていると言うことだ。

 完成し、培養槽から取り出され、起動した直後。

 白虎ぬいぐるみは俺とスズカの姿を見て喜び……何か違和感に気付いたのか、自分の姿を確認後、何かに驚き、そして俺達に向ってずっと何かを言おうとしている。

 ガウしか言えないから、何だかは解らんが。


 いや、俺も一応は万能アンドロイドとして開発された存在だ。ちゃんと使えば良い頭は持ってる。

 この事態を理解できていないわけではない。


 俺達もスズカも中身はいわばロボット、外皮が人だ。それが黒い霧の影響で自我を持った。

 この状況で活動状態にある生体細胞は、バイオメモリなどの考える機構と結びつくことで自我を持つ。多分そういうことだろう。


 で、そのー、なんだ。

 培養槽に白虎の毛皮を放り込む際、洗ったりしなかったな~って。

 いや、スィンがその辺やってくれるかな~って。


『特にご指示がありませんでしたので』


 はい。解ってます。つまり、なんだ……。


「タイガか……」

「そうよね……」

「ガウッ」


 頷いた。そうか。


「要る?」

「流石に受け取れないわよ」

「だよね」


 エロ親父を常に抱きかかえて生きていくとか、苦痛すぎる。


「よし、廃棄で」

「ガウッ!?」

「トキ、それはそれで……」


 どうしろと?


「うーん、あ、オーガさんに受け継いで貰うのはどうかしら? 形見使って造ったわけだし。戦闘にも使えるんでしょ?」

「形見、つーか本人転生してるけどな」


 本人はどう思っているだろう?


「ガウッ!」


 フム、OKと。


「確かにそれが無難か」


 うむ、そうしよう。


 しかしそれはそれとして、今年の誕生日プレゼントどうしよ?


「トキ、私はアナタがいてくれればいいの」


 ……よし、ベッドに行こう。 





◇◆◇◆◇


 昔、小説や漫画を見て、俺も転生してえと思っていたことを思い出す。

 実際自分がそうなったとき、世の中偉いことになっていたけど、どこかでこの身体になったことを喜んだ自分がいたのは確かだ。


 この身体でなかったら、あのとき俺は同じように思えただろうか?


 翌日、虎皮の子供達に腕を引っ張られ、投げられ、踏まれるタイガをモニター越しに観ながら、なんとなくそんな事をしみじみと考えた。

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