虎狩りの録画再生

 フウガとライガ。

 狩人としてフウガとライガではフウガの方が優秀だったと聞いていたが、結果はライガの勝利で終わった。

 

 フウガも決して手を抜いたわけではない。

 互いの得意な獲物と相手との相性が勝敗を分けたらしい。


 フウガの得意武器は弓矢。

 物陰に静かに潜み、好機を待ち、獲物を撃ち抜く戦法を得意としている。

 ある意味で狩人と聞いて思い浮かべる、最もオーソドックスなスタイルではなかろうか?


 基本的に狩りというのは、肉や毛皮など材料の為に獲物を獲る事を目的とする。

 だから出来るだけ相手を傷つけずに倒すのが理想だし、その意味でフウガの弓矢による一撃急所狙いは確かにやり方としてはスマートだ。


 弓矢は銃なんかを除けば、間合いも優秀。

 凶暴化している現代の獣が、ダメージ受けて逃げる事はほとんどないから、一撃でとどめを刺せずに獲物が向って来たとしても罠に嵌めるなり、槍でぶっ刺すなりすればいい。

 

 フウガは赤虎相手にこれをやった。事前情報どこまで受け取ってたのだろうか?


 トリィの熱線を耐える程度に頑強な身体に弓矢を撃ち、「来るか!?」と待ち構えたところにガスグレネードをぶち込まれたらしい。

 アギョウが熱線で相殺したことで、フウガは一旦リタイア扱いとなった。

 

 あくまでフウガとライガの競争だからね。

 お付きの虎皮は部下扱いということでOKだが、アギョウ隊が手を出した時点でアウト。

 片方がリタイア扱いとなった場合、もう片方もリタイア扱いになった時点で双方復活、というのがルールだったらしい。


 というわけでライガのターン。


 ライガも決して弓矢は苦手ではないが、フウガほどの精密さがない。フウガと戦法は似ているが、向ってくる相手と対峙する確率がフウガより多い。


 獲物との直接対決は中々にスリリングだ。

 回数が多ければ疲れや集中力次第で怪我を負う確率も増える。


 そこでライガは弓を討ち、向ってくる相手に目潰しを投げて、罠に嵌めて槍で刺す戦法を標準としていた。

 これが勝敗を分けた。目潰しは革袋に入れた唐辛子入りの高濃度アルコールだった。

  

 弓を撃ち、やはりガスグレネードでやり返そうとした相手に、アルコールを投げつけたフウガ。

 赤虎のガスグレネードは発射前にアルコールに引火し、赤虎の顔を焼いた。

 驚いた赤虎は顔を背け、結果放たれたガスグレネードはあさっての方向へ飛んでいき、それで相手の手の内を理解したライガは退避を決断。


 今回の獲物に今までのやり方は効かないと、次の手を打った。 


 矢もあんまり効果がない事を一撃で理解したらしい。

 顔を焼く火を漸く消し、ライガを追い始めた赤虎は、ライガの仕掛けた罠に嵌った。


 デンジャートラップ“トラバサミ”。

 前世では目的の獲物以外の生物が罠にかかった時の被害がえげつないことから禁止されてたが、ここでは誰も気にしない。

 しかもこの時代の巨大化した虎に合わせて作られたビッグサイズ。当然ダメージもデカい。


 一度流している動画の中身を精査すべきだろうか? ウチのお庭にも設置されてるのかと思うとゾッとするんだが。


 ともかく丈夫な鎖を繋いだトラバサミをお付きの虎皮達と5つも設置し、待ち構えたライガの元に赤虎はのうのうと現われてしまった。

 お付きの連中はひとり1個トラバサミを持って行ってたわけだな。

 危険トラップ量産の証拠。刑事さん、こっちです。


 赤虎は前脚を罠に咬まれ、急な痛みに暴れては違うトラバサミにまた咬まれ……


 結局四肢の動きを封じられた赤虎。

 この巨体なら或いは鉄の鎖くらい引きちぎっただろうか? 脚が無事だったなら。 

 脚を引っ張れば、罠が肉に食い込み激痛が襲う地獄。ちょっと可哀想。

 

 そして虎の脅威は巨体と火炎弾。巨体は動けなければデカい的でしかないし、火炎弾は口からしかでない。

 動きを止められた虎は、自身の後方に回り込み、心臓に向って突き出される槍を防ぐ術を持たなかった。


 獲物はまともに動けないのだ。一撃で仕留められずとも、急所に届くまで何度でも押し込めばいい。

 勝敗はライガのその槍が決め手になった、と。


 フウガが優秀だったが故に敗北したとみるべきか、自身の腕に頼らずに獲物に勝利する術を考え抜いたライガが結果的に狩人として優秀だと見るか。

 俺は後者だな。


 結果は結果とライガを次期族長としながらも、本当にこれで良かったのか? と悩むオーガに相談されたスズカ。

 スズカに問われて、結局録画映像を見直すという面倒い事をやった俺の感想。


 今まで誰かが出来なかったことが、誰でも出来るようになる。

 そうなるように皆を率い、新しいことに取り組んで行けるのもリーダーの素養なんだろう。

 周りの評価と実際の能力が一致してない、なんてのはザラだ。今回の件は俺もちょっと思う所ができた。


「確かにそうよね。うん、明日オーガさんにそう伝えてみるね」

「ああ」


 この後、歴代で初めて赤い虎の毛皮を着た族長が誕生する。

 虎狩りの誇りなれば、着る毛皮は強き虎の方がいいと、現オーガも賛成したそうだ。


「まあ、結果覆すこともなかろうし、互いに俺が俺がってわけでもなかったようだから、今後分裂することもないだろう。虎皮共は一件落着ってことで」

「そうよね。今回の件で菜食についても一族間で協議するらしいし。今後問題にはならないでしょうね。実際のところ、それ以外の方が……」

「ああ」


 結局マガミ隊とトリィ隊が繁殖の跡を見つけた。

 まだ育ちきっていないのか、体長2メートルの赤虎が洞窟の奥に伏せていたらしい。

 もちろん将来有望な赤虎の若手には、マガミの容赦ない熱線連射で肉そぼろに変わって頂いたが……


「間違いなく繁殖能力あるし、実際繁殖もしたと。厄介な……」

「ねえ、トキ……」

「ん?」

「こんなこと言いたくないけど、これって、虎だけかしら?」

「……あー、考えなかったな」


 他の生物も火を吐くようになってました、とか最悪だなマジで。

 が、あり得なくはない。


「そして考えたくなかったな」


 アレが人工物だとしたら、本気で何考えてんだ? カルト共。


「とりあえず、諸々と調べんとね」

「周辺調査に、誰が造ったのか?」

「誰が、はどうせ聖教国だろうけど。向こうがこの後何してくれんのかを探んのに、ガチでスパイが必要になったかな。あとそろそろ山田が来そうな気がする」

「確かに。あの人こっち盗聴してるみたいにタイミングいいものね」


 ホンマやね。なんなんアイツ?


「何にせよ、まずはあの虎の調査からだな」 


 山田よ、これも「プレゼントだそうだよ」とかほざくなよ?

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